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羊羹の夢

 短大時代、2時間近い通学時間を要していました。その時、同じ沿線に住むTが、道中読むようにと、毎日私に漫画を持ってきてくれました。卒業するまでにTの蔵書は、ほぼ読み尽くしたとか・・・その中の1冊が西村しのぶの「サードガール」でありました。

 神戸が舞台で、当時の私にとっては、神戸はデートにいく場所だと固く信じておりました。主人公が全部おしゃれで、洗練されていて、神戸のステイタスは爆上がりでした。その中の1編の作中にありましたのが、京都八坂の鍵善良房の「竹筒羊羹」のお話でした。竹の中に水羊羹があり、笹で封をした粋なお菓子でありました。漫画で見ても美味しさが伝わってくるようでした。

 しかし京都はあまりにも遠く、食べたくて食べたくて妄想が膨らみました。主人公も言ってましたが、「ちゅるちゅるポン!っていくつでも食べられちゃう。」(注:借り物の漫画なので、確認ができません。セルフは記憶によるものです)のセリフの通り、真空状態の羊羹を竹筒の底から針で刺し、ちゅるちゅるポン!と食するのです。以来、私が生涯にわたって追い続けることになったお菓子になりました。

 京都に何度か行きましたが、ある時は、売り切れ。ある時は季節限定なので売り出していない。彼氏(のちの夫)に頼んだら駿河屋のプラスチック容器の竹筒羊羹だを買ってきて怒り狂ったとか。どうせ夏季限定なら老松の夏柑糖の方が美味しいとか、買ってくるので、大暴れしたとか・・・なかなか巡り会うことは出来ませんでした。

 何年越しで、ついに食べた時の感激は今も記憶にあります。青竹のほのかな香りに、ちゅるちゅるポンすると、上品な甘さが口の中に一気に広がるのです。竹筒羊羹は日本の文化であり芸術です。一人で5本食べちゃいました。20代の私は、お金持ちになったら、無制限に何本の羊羹を食べれるのかを試したいと思うようになりました。

 ある時 このエピソードにウケた金持ちの知り合いが、「よし分かった!そんなに食べたいのなら、お金を出してあげるから、思う存分食べなさい!!」と言ってくれました。こんなに嬉しいことはないので、鴨川の土手で死ぬほど食べたいと思いましたが、竹筒羊羹はさらに値上がりしてるし、私の意気込みが強すぎて、臆した金持ちは「身体に悪いから、よしなさいよ。」と逃げていきました。約束を反故されましたが、ヤオイソのフルーツサンドを食べさせてくれたので、恨んではおりません。

 いやいや好きなものは自分の財力で買ってナンボのもんです。鍵善良房の竹筒羊羹無制限に食べること、血糖値の値が気になる前に、いつか自力でこのささやかな夢を叶えたいと思います。


鍵善良房 甘露竹 https://www.kagizen.co.jp/product/?p=4262

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