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eスポーツが草野球になる日

休日。とあるスタジアムの、すこし色がかすれたベンチに腰掛ける。自由席だし、どこに座ってもいいなら、少しでも見晴らしのいい席にと、できるだけいろんなモノが見られる位置に陣取る。片手にはビールと、屋台で購入したチーズドッグ。そういえばロングポテトがあったのにも引かれたが、あまりに飲み過ぎてしまうとあぶないと、買うのはやめたのだった。

腰を下ろして目線をあげると。その前には200インチはあろうかという大きなLED。その中に、一生懸命試合をする「彼ら」の姿が映る。LEDに映るのは、人ではない何か。キャラクターだ。そしてそのキャラクター同士が技を競い合い、勝った負けたで大盛り上がりしているのだ。試合が終わると、LEDの下にはそれまで静かに画面と向き合っていた人達がハイタッチをしたり、お互いに抱き合ったりして、健闘をたたえ合っている。興奮はおさまらない。隣でみていた同じ観客同士が、今みていたゲームで対戦を始める。あちらこちらで画面に向き合うすがたがあり、共通の話題でもりあがる。「じゃあ、今度あそこで対戦しましょう」「お父さん、次は僕がやりたい!」なんていう声があがる。

僕は僕で、お気に入りの選手が勝利を挙げたことで、気分良くビールがすすむ。そしてさっきは諦めていたロングポテトを買いに、今目の前であった試合の動画をみつつ、屋台に走った。


────と、ここまではすべて未来に起こったらいいなという妄想。それにしても、ビデオゲームを取り巻く環境はこの数年で様々な表情を見せている。とりわけeスポーツは驚くほど新たなカルチャーを作り出していて、昨年(2018年)9月の東京ゲームショウではeスポーツへのコミット具合が上がっているうえに、この動きに端を発して、テレビ局や新聞社などが大会を開いたり、プロチームをもったりと、新たなビジネスとしての価値を取り上げつつある。

元は海外で大きな市場になっていたeスポーツ。様々な要因はあるが、日本も賞金をめぐって法的問題が頭をもたげたりして、大きく成長に遅れをとってしまった。その後問題は氷解していったり、新たな対応策が見つかったことで大きく前進した。同時にゲーミングチームも今年に入り設立が加速したり、国体でも文化プログラムではあるものの競技として認知されることになり、今年は単なる流行ではない、より具体化された隆盛をみることができている。

ゲームは誰のものか?

一方まだまだ解決しなければいけない問題もある。賞金の問題は完全に決着をみたものではなく、景表法や風営法などの問題が当面ついて回ることになる。とくに風営法の問題はゲーム機の設置と、その勝敗によって金品を提供することをどうやってクリアするかや、機器の占有面積問題など、かなり壁が高いと感じていて、個人的にはもっと改正や適正化の議論が多くなされたほうがよいのではないか。

また、ゲームメーカーにとっても流行はありがたい反面なかなか難しく、自社のIPを提供し、マネタイズするのに苦心しているように見える。ゲームバランスの調整や、競技としての公平性担保に対するコスト、ユーザーへの対応コスト、そして大会を主催・運営するオーガナイザーが他社となる場合なら、自社のIPがどう扱われるかのリスク検討からはじまって、監修とコントロール。そのほか実際の売上に繋げるための施策・・・とにかく考えだしたらキリが無い。日々さまざまな方が努力を続けられているのをみると、本当に頭のさがる思いだ。

とあるところでは「タイトルをパブリックドメインにすべき」「公平性を担保するパブリッシング企業・団体を設立すればよい」なとどいう声がある。意見としてはごもっともなのだが、それはIPを持つ企業にとっては利益を捨てる行為にもなるわけで、踏み切るのは容易ではない。現実、道のりは非常に遠く、有効な解決策はみあたらない。このあたりは、朝日放送のアナウンサーからeスポーツキャスターとして転身した、平岩康佑さんの記事が詳しい。

バブリッシャー・プレイヤー・オーガナイザー・観客の全てが満足する構図を作り出すのは、並大抵の努力では務まらない。お互いのメリットが見いだせないからいって無碍にしたり、いがみ合いをしている場合でもないし、やってみてわかってくるエラーやバグもあり、以下にそれに対処していくかが問題になる。成功している例もあるので、それを手本にしながら、より独自性を組み入れてよりよいものを目指す努力を惜しまないことが必要だろう。

憧れの「過去」と「未来」を繋げる点と線

この文章の冒頭で、なぜ妄想の話をしたか。

現在のeスポーツはビジネスとしての側面が多く取り上げられるなかで、今の世代だけでなく、その次の世代が、今の状況と同じかそれ以上にこの文化を盛り上げもらえるためにどんなことがあればいいのだろう、と考えた一つの姿だ。

ゲームは老若男女参加できて、実力があれば賞金をもかせぎ、生活をすることができるツールになった。もうプロゲーマーが「新しい職業」なんて言われ続ける状態でもなく、明確に将来の選択肢としてあらわれている。それとともにセカンドキャリアをどうつくるか、また次のプロゲーマーをどう発掘するかも課題として見えてきた。

そのために、今すでに高校生や中学生からゲームに真剣に取り組む層もでてきている。もちろん数は少ないけれど、今後はもっと大きくなっていくとおもう。土壌をつくるのはキッカケ、非日常性とそこから日常的に緩やかに転換する環境、成功体験、仲間。これらが一番今良く出来ているのが草野球をやっている人達なのでは、と感じている。

野球はプロの世界もあるが、高校野球だってあるし、社会人になっても野球を続けている人がいる。企業に所属する、しないも関係なく、趣味としてチームを組み、休みの日に朝早くからキャッチボールをする風景がある。どんなレベルの人であっても、ほぼ同じルールの元、自分たちのレベルにあった相手と、共に闘う仲間をもてる。しかもそれが必ず仕事になるわけではないけど、何かしらの繋がりを生んでいる。そういうユルい中でも文化が醸成されているのが草野球の世界だ。

これなら、どんな世代も、まだはじめて居ない人も、現役もプロも、引退しても、その世界に居続けることができる。野球と繋がっていることができる。そういう環境と、日常をeスポーツにも生み出して行くと、もっともっとこの文化が大きくなっていくのでは、と思う。

居酒屋でビールを片手に、試合の結果を語りあっていて、実はよく聞くとそれはeスポーツだった、なんていう未来が生まれてくれないだろうか。


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