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鉄道の海外輸出を語る① (台湾新幹線編・序盤)

今回は、鉄道の海外輸出について取り上げます。鉄道のみならず、インフラの輸出は日本の国策として重要戦略の一つとなっています。では鉄道の海外輸出はどのように行われているのでしょうか?過去の実績、手法等を参照しながら見ていきたいと思います。

1回の記事には収まらないので、シリーズとしてお送りします。第1回目は、NHKドラマの「路」でも話題になった台湾新幹線を題材に解説します。(尚筆者は台湾新幹線プロジェクトに関わった訳ではなく、公知の情報と一般論に即して解説します)

台湾新幹線を見たことがない方は、「路」の予告編をぜひご覧ください。

台湾新幹線プロジェクトとは?

台湾新幹線(台湾では台灣高鐵と呼びます)は、台湾の最大都市で北部にある台北から南部の都市 高雄までを結ぶ全長345kmの路線です。日本の技術や車両が導入されており、先日まで東海道新幹線を走っていた700系と同じタイプの車両が走っていることでも有名です。日本から見れば、世界で初めて新幹線技術が輸出された地域が台湾になります。

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(台湾新幹線の路線図(引用:Wikipedia「台湾高速鉄道」))

開業は割と最近で2007年。ただ案件の構想は1989年、着工は1999年ですので、20年近い歳月をかけて完成されたと言えます。ではこのような巨大なプロジェクトはどのように進んでいくのでしょうか?順を追って見ていきます。

事業主体と入札

まず、鉄道を建設するにしても、その後運営するにしても事業主体を作らないといけません。台湾新幹線の例では、建設・運営一体で行う事業主体が「台湾高速鉄路股份有限公司」(以下、台湾高鉄公司)です。

では事業主体をどのように選定するかですが、通常は政府が主体となり入札が行われます。入札ですので、求められる技術ポイントを満たした上で、総事業費で低い価格を提示したチームが受注することになります。台湾新幹線では、台湾政府が入札を設定し、主な入札参加者は前述の「台湾高鉄公司」と「中華高鉄連盟」の2社になりました。入札に勝つためには、乗客数などの事業予測を精緻にたてる、事業費の一部を銀行から安く借り入れる、技術力ある企業と連携する一方で事業費の見積を安く上げるなど、様々な創意工夫が必要です。

実は日本勢は、技術パートナーとして中華高鉄連盟側に付いていました。しかし事業権の入札で中華高鉄連盟が敗北。焦った日本勢は、受注した台湾高鉄公司側への営業攻勢を行います。ただ台湾高鉄公司側でパートナーだったのは、シーメンスやアルストムといった欧州勢でした。日本勢が入り込む余地はないかと思われましたが、シーメンスのお膝元であるドイツの高速鉄道(ICE)で事故が起きたり、1999年に台湾大地震が起き、欧州技術が不安視されるなど周辺環境が変わる中、台湾高鉄公司は車両を含む鉄道システムの発注にあたって、日本勢も入札(事業権の入札とは別です)に参加できるとしたのです。

結果として、日本勢は車両や信号・電力など主要システム、軌道工事、土木工事など様々な工事を受注することになりました。

事業契約のかたち

台湾高鉄公司が事業権を取得したと書きましたが、これはいわゆる「BOT形式」での事業権でした。BOTとは、Build(建設)、Operate(運営)、Transfer(事業権譲渡)の略称で、簡単に言えば、事業主体は建設から運営を行いますが、一定期間が過ぎると事業権を政府側に返上しなければならず、再度事業権の入札が行われる形式です。

日本では最近PPP/PFIと称して、公共施設に民間資本を入れたり、民間に運営を委託する案件が増えてきており、例えば関西空港の民営化など空港分野では盛んになっています。こうした状況下、BOTという言葉は徐々に膾炙してきていると思いますが、鉄道を含めた海外のインフラプロジェクトでは極めて一般的な事業形式です。

但し、台湾新幹線の総事業費は4,500台湾ドル(約1兆6,000億円)と言われており、これだけ規模が大きいプロジェクトだと、事業契約形態も含め、精緻かつ慎重な制度設計が必要になります。実は台湾新幹線プロジェクトでは事業期間が当初35年と設定されていたのですが、この期間設定が短かったため、台湾高鉄公司は減価償却費等の負担が大きく、利益が上がらない状態にありました。結果、台湾高鉄公司は後年に一旦国有化された後、事業期間も70年に変更されたのでした。この辺りは別途解説することにしたいと思います。

次回予告

今回は、台湾新幹線の建設開始までの序盤を見ていきました。事業権の入札・受注だけでも様々な仕事があり、相当な労力が必要になります。次回は、主要システムや軌道、土木工事を受注した日本勢がどのように工事を進めていったのか、見ていきます。お楽しみに。

次回(建設編)に続く〜

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