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[連載小説]それまでのすべて、報われて、夜中に

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中高男子校の六年間と浪人生活ですっかり女性との距離感を見失ったボクが就職活動中に偶然出会った理想の女性、麻衣子。ことごとく打ち手をミスるカルチャー好きボンクラ男子と三蔵法師のごと…
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2021年11月の記事一覧

[連載小説]それまでのすべて、報われて、夜中に「第四十二話:ストーリーテリング」

[連載小説]それまでのすべて、報われて、夜中に「第四十二話:ストーリーテリング」

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第四十二話:ストーリーテリング 明治通りを並木橋で曲がり、代官山駅方面に少し進んだ場所でタクシーを降りた。道路の向こう側で代理店営業の牧内がボクを出迎えに外に出てきていた。すらっとした長身で、冬でも肌が浅黒い牧内は遠くからでも目立っていた。

 以前までは雑誌のタイアップ撮影の立ち会いは松田と同行していたが、一ヶ月前に松田が新商品開発のプロジェクトに参画して忙しくな

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[連載小説]それまでのすべて、報われて、夜中に「第四十三話:ハサミの手を持つ男」

[連載小説]それまでのすべて、報われて、夜中に「第四十三話:ハサミの手を持つ男」

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第四十三話:ハサミの手を持つ男 改札を出るとそこは真っ白で無音の世界だった。降り続ける雪が駅前のシャッター商店街を覆っている。それは初めて見る景色だった。

 正午に上野駅から上越新幹線に乗り込んで越後湯沢へ、ローカル線に乗り換え、富山駅からほど近い駅まで延べ約三時間。越後湯沢へはフジロックで毎年来ているので慣れたものだが、ローカル線の車窓から北陸の厳しい冬景色を眺

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[連載小説]それまでのすべて、報われて、夜中に「第四十四話:恋人までのディスタンス」

[連載小説]それまでのすべて、報われて、夜中に「第四十四話:恋人までのディスタンス」

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第四十四話:恋人までのディスタンス チェックアウトを済ませてホテルを出た。昨日とは打って変わって快晴。一面に降り積もった雪に反射する太陽の光が眩しくて目を細めた。

 この辺でお茶できる場所はそこしかないと麻衣子に言われ、駅から約三キロ離れた場所にあるイオンで会うことになった。他にやることもないので、駅からイオンまでへと続く大通りを歩くことにした。

 まだ足跡の無

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