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トポロジカル物質とは何か(2023年2月23日第Ⅲ部冒頭にCPT対称性のわかりやすい動画を追加)

#わたしの本棚 #トポロジカル物質

「数理科学」に登場した「室温超伝導は2次元物質の積層になるだろう」、産総研HPの「スピントロニクスが未来を拓く」、高校生時代からしっくりこなかった「イオン結合、共有結合、金属結合の違い」。これらの気に留めていた疑問や概念が、本書により私の中で見事に統一された。本書は、「トポロジカル構造」を発見するに至った歴史と、運動量空間から物質を見つめ直すことにより明らかになった頑強な性質の根源を説明し、トポロジカル物質ファミリーの広がりにも言及する
#トポロジカル物質とは何か

2023年2月22日、「トポロジカル物質関連情報」を分離しました

はじめに

私の回想と思い

物質の結合には「共有結合」「イオン結合」「金属結合」があり、共有結合とちょっと違う「水素結合」があることは知っていましたが、それらの説明が今ひとつストンと胸に落ちるものではありませんでした。

また、「周期表の原子の化学的性質は外殻電子の数によって決まる」という話も、電子軌道付の図で例に挙がるのは3周期までで、4周期以上の元素の電子エネルギーや化合物の結合について触れられることはほぼありません。電子の軌道もs軌道、p軌道、d軌道まで、その上のf軌道、g軌道はあまり詳しく触れられません

また、周期表の「ランタノイド」や「アクチノイド」は、外殻軌道より下の軌道の方がエネルギーレベルが高いという理由で空席になっていた軌道に電子が入るため外殻電子の数が同じで化学的性質が類似する話を聞いて、

「下の軌道から順番に電子が入るという規則が逆転するなら、何か面白いことが起こっているに違いない」と考えるのが自然だが、そのような「ルールの逆転」に触れる解説記事にお目にかかったことはありませんでした。

2005年ごろに科研費特定領域「次世代アクチュエータ」のメンバーで東北大学金属材料研究所を訪問したときは、金属ガラスを紹介され、驚きました。3種類以上の金属を混ぜた非晶質(ガラス状)の金属は、長い時間をかけると液体のような挙動を示すという話しを聞き、アモルファス(非晶質)の鉄の特徴的な性質を思い出し、「材料は奥が深いな」と感じました。

その後、フラーレンの発見にはじまり炭素の新構造発見ブームがやってきました。その時、炭素だけでもこんなにいっぱい未知の構造が存在していたのだなと驚きました。

DNAの解析と合成が高速かつ安価で可能になった現在、量子生物学がブームになりつつあり、生物がタンパク質や糖鎖をどのように生成し、活用しているかの解明がはじまっています。

しかし、生物が利用している元素は必須元素12種類と、微量元素15種類を加えても27種類に過ぎないのです。
トポロジカル物質やガラス金属は、生物が利用していない、原子番号が大きな元素を利用する場合が多いです。
水素や炭素だけでも未知の大海が無限とも言えるほど広がっているのに、生物が利用しない元素の特性の利用まで考えれば、新物質の宇宙は果てしないとも言えるのではないでしょうか。

これらの研究をさらに一段階跳躍させるには、「人工知能」の手を借り、「量子コンピュータ」の高速演算能力を活かして「マテリアルインフォマティクス」をバージョンアップすること、および、人体に有害、あるいは未知の物質を扱うための「実験のロボット化」が必須になると考えています。

このわくわくする時代、「人工知能」「メタバース」ばかりが話題になっていますが、本気で次の一手を打つ気なら「一歩先を行く量子生物学やトポロジカル物質などの分野に目を向けるべきだ」との思いがあります。この思いも、重い腰を上げて本推薦文を書き上げる原動力になりました

新学術領域「トポロジーが紡ぐ物質科学のフロンティア」も走っています。
今後の研究に大いに期待したいです。

本書の前書き

本書の前書きに「2016年のノーベル物理学賞は、物質のトポロジカル性質の解明の先駆けとなる発見を成し遂げた3人の研究者に贈られました」「受賞者を紹介するノーベル賞選考委員の教授が、クロワッサン、ドーナツ、2つ穴のドーナツでトポロジーを説明していましたが、トポロジカル物質について正面から説明するのを避けているようでした」とあります。

本書は「それほど説明の難しい、物質のトポロジカル性質を、数式を使わないで説明する、無謀なチャレンジ」なのです。

著者の「長谷川修司」先生は、
モノは、見かけよりずっと奥深い「からくり」を持っていることを本書で感じていただけたら幸いです
と述べておられます。

長谷川研究室のHP

本noteでは要約のみ述べていますが、キーワードを羅列するだけで見ての通りすごいボリュームになりました。

本書はブルーバックスで、多くの図や写真を使ってトポロジカル物質の「ふしぎ」に迫っていきます。価格も手頃なので一読をお勧めします。

耳慣れない専門用語が次々と登場しますが、今、はやりのAIアシスタント(Bing、ChatGPT、YOUなど)を画面にピン留めしておき、わからないところは「小学生に説明するように説明して」とお願いすれば、やさしい言葉で説明してくれるでしょう。

序章 バーチャル空間で物質を観る

科学と数学の繋がり

モノの性質を理解するには、量子物理学や統計物理学という高度な理論が必要だが、あえて数式を使わない無謀な企てを試みる
感想:高度な理論は、そのおどろおどろしい数学記号が原因なのでは?もっと絵画的な、小学生から近づきやすい表記法はないのかな?)

生命現象も、生体物質の量子現象に起因
感想:おお、量子生物学に触れておられる!)

ニュートン力学:微分積分
相対性理論:リーマン幾何学
量子力学:線形代数
トポロジカル物質:位相幾何学

正確な理解にはここに示した数学が必須だが、本書はそのもとにあるアイデアを説き、研究の楽しさを伝えたい

バーチャル空間で物質を観る

物理学者は、さまざまな空間から物質の性質を眺め、分類する。
すると、物質の本質が見えてくる
運動量空間:位置空間のフーリエ変換で得られる空間

波数空間:実空間の周期性を反映した空間

位相空間:集合に位相の概念を付加しただけの、(距離の概念を無視した)位相幾何学と関連する空間

ヒルベルト空間:内積構造を備えたベクトル空間

トポロジカル物質ー上下・左右が入れ替わった物質

トポロジカル物質と通常物質の境界面には「トポロジカル表面状態」が現れる。この表面が通常ではないため、超伝導など特殊な物性を示す

トポロジカル物質の性質は頑強

通常の物質も特殊な環境で超伝導などの現象が観測されるが、それらの特性は極低温など特殊な環境下のみに現れ、温度上昇などで簡単に消え去ってしまう。
いっぽう、トポロジカル物質の物性は、温度変化などの外乱に強い「頑強」な状態になる

バーチャル空間はリアルな世界につながっていた

半導体物理学:トランジスターなどの電子デバイス
透明導電体:タッチパネルディスプレイなど
強力磁石:モータの高性能化など
超格子結晶:複数種類元素の格子による高電子移動度トランジスタなど
トポロジカル物質:?(将来を考えるとわくわくする)

第Ⅰ部 ノーベル賞に見る物質科学ートポロジカル物質への前奏曲ー

ノーベル物理学賞の歴史は、先人の研究成果の積み重ねの歴史である。
ノーベル賞の歴史を通して物質科学の歴史を眺める

第1章 原子から量子物理学へ

1) X線の発見 → レントゲン
2) X線回折 → 原子配列構造解析 → 原子の内部構造解析
3) 特性X線 → 原子番号決定 → 周期表完成
4) 電子回折 → 電子は波動性を持つ → 量子力学

第2章 原子から物質へ

価電子と結合

価電子の波が2つの原子核間で共有されて共有結合の化合物が合成される。
この電子軌道の方が、エネルギー準位が低くなるから安定なのだ
ただし、価電子の波は共有結合の原子までしか広がらないため、絶縁体になる

イオン結合では、価電子が相手原子の軌道に入り、電荷が生じ、クーロン力で引きつけ合い、結晶化すると説明されるが、電気陰性度が極端に違う原子間の共有結合と言える

金属結晶では金属結晶全体に価電子の波が広がる。
この方が、エネルギー準位が低くなるから金属結合するのだ。
価電子の波が結晶全体に広がるため、導電体となる。
金属結合も、価電子が結合を促す観点から見ると共有結合と言える

水素を500万気圧の環境下に置くと、原子間距離が縮まって,価電子の波が広がり、金属状態になった

感想:電子軌道の観点から原子の結合状態を見事に統一!)

半導体

半導体は、価電子のエネルギー準位があまり低くならない共有結合なので、外部から少しエネルギーを加えると、価電子がエネルギーを得て金属結合状態に移行する

このエネルギーが熱なら半導体温度計、光ならCCDや太陽電池
自由電子が共有結合軌道に落ちる時に発光するのがLED

出し入れするエネルギーをいろいろ変えることで、
半導体は、まだまだ新しい応用分野が考えられる

電流増幅作用を持つトランジスタの発明 → 受信機(ラジオ・テレビ・WiFi)
トランジスタのスイッチ作用→ コンピュータ

超伝導

超伝導:電圧をかけなくても電流が流れる(完全に電気抵抗がなくなる)現象

BCS理論:2個の電子が(原子核がない状態で)対(クーパー対と呼ぶ)になって物質中に広がる。
クーパー対は、共有結合と同じ最低エネルギーレベルにあるので、これ以上エネルギーを失うことができない状態にある。したがって、エネルギーロスなく物質中を電流が流れる

コメント:「エネルギーを失うことができないからジュール熱を発生しない。よってエネルギーのロスが全くない状態で電流が流れ、超伝導になる」は、なんとも都合のよい方便のように聞こえます。
しかし、実はこれが、「エネルギーが飛び飛びの値しか取れない」という、日常からかけ離れた「量子力学」の本質で、この原理のおかげで電子がエネルギーを徐々に失って原子核に落ち込むこともできないのです。
量子の世界では「超伝導」が本来の姿で、「発熱」が特殊な状態なのかもしれません)

BCS理論では40ケルビンが超伝導の限界のはずですが、それ以上の温度でも超伝導になる物質(高温超伝導物質)が次々と見つかっており、

高温超伝導の理論を構築すると次のノーベル賞になるかもしれません

第3章 物質は量子効果の舞台

トンネル効果

トンネル効果:電子は波の性質を持っているので、ポテンシャル障壁の外側にも存在する確率がわずかにあります。そのため、エネルギー障壁をすり抜けるように見える現象

トンネルダイオード:2種類の半導体の接合面に電圧をかけるとトンネル電流が流れにくくなり、流れる電流が減少する負性抵抗特性を持つ

ジョセフソン効果:絶縁体を挟んだ2つの超伝導体で、クーパー対が絶縁体をトンネルして流れるが、流量を位相のずれで制御できる現象

走査トンネル顕微鏡:2つの金属を近づけた時に流れるトンネル電流から距離を測定しながら表面をスキャンして画像を得る顕微鏡

スピン

スピン:角運動量の次元を持ち、上向き(上が磁石のS極)と下向き(上が磁石のN極)しかない。電子は点なので本来、回転による角運動量は考えられないが、回転しているとみなすとスピンをイメージしやすい
感想:価クオークはスピンが1/3や2/3を持つが、単体では決して物理世界に顕現せず、2個ないしは3個が集まってスピンが整数になる状態で顕現すると聞いた。スピンの実態は説明しようがないのだ)

強磁性体:スピンの向きが揃う
常磁性体:スピンの向きが絶えず変化する
反強磁性体:上向きと下向きが交互に並ぶ
棒磁石を縦に並べると吸引し、横に並べると反発するように、スピンは配置や距離によって力のおよぼし方が異なってくる。この力と電荷間のクーロン力が合わさり、更に電子の運動を考慮すると、物質内の力は非常に複雑になる。

巨大磁気抵抗効果:絶縁体の両側に強磁性体の磁極を同じ向きにするとトンネル効果で電流が流れるが、逆向きにすると流れない。
ハードディスクの磁気ヘッドはこの現象を利用している

スピン流:強磁性体と常磁性体を接触させて電流を流すと、常磁性体から強磁性体には下向きスピンの電子ばかり流れ、上向きスピン電子の濃度が上がる。この時、横方向に常磁性体を伸ばすと、上向きスピンの電子が横方向に流れ、電流を打ち消すため、下方向スピンの電子が反対方向に流れる。
スピン流はジュール熱が発生しないけれど、電子の流れがあるので、情報処理に利用できます
このような純スピン流のデバイスに関する研究をスピントロニクスと呼びます
感想:産総研時代にセンターの名前だけ知っていた「スピントロニクス」が、この説明でつながった)

低次元物質

2次元物質:原子1個分の厚さのグラフェンは、電子が2次元方向にしか移動できない2次元物質。
質量ゼロの電子:グラフェン内の電子の運動エネルギーは速度に比例する。これは、電子の質量がゼロと考えると説明できる。質量ゼロの電子は、電子を波と考えると説明が可能になる
2次元電子系:2次元物質は、量子ホール効果、電子の質量変化、電子の速度変化など、3次元と全く異なる性質が観測される。
これは、異なる性質を持つ物質の接合面や、物質表面も同様な現象があることがわかってきた

1次元物質:カーボンナノチューブは1次元だが、不純物があると跳ね返るしかなくなるので純度が重要になり、1次元物質の特性は測定困難

感想:電子の運動方向の次元が変わると世界がまるで変わる!)
感想:SF小説「三体ー死神永生ー」の場面を連想する私)

量子ホール効果

量子ホール効果:2次元導電体に強力な磁場をかけると、電子が円運動をして、あたかも原子核の周りを回っているかの状態になる。
試料の端(1次元)では、電子が円運動できずに、半円を連続させた経路で流れ、ジュール熱を発生しない超伝導と同等の電流が流れる。これらの状態を量子ホール効果と呼ぶ。

抵抗の標準:ホール効果試料の電子の流れの抵抗はゼロだが、試料の左右端間の抵抗値は一定値(ホール抵抗と呼ぶ)の整数分の一になる。この値が不変のため、ホール抵抗は抵抗標準として採用されている

トポロジカル物質の幕開け:磁場をかけなくても、その表面が量子ホール効果を示す物質が発見された。この物質は、端を変形しても端だけ超伝導状態の電流が流れ、穴を空けると穴の周囲にも超伝導電流が流れる。しかも、端以外は絶縁体である。

第Ⅱ部 バーチャル空間で物質を観るー量子物理学での表現法ー

トポロジカル物質を理解する準備として、物性物理学の基礎となる概念、「運動量空間」と「バンド分布図」を説明します

第4章 運動量空間とは

運動量空間:金属中の多数の電子の挙動を理解するため、位置情報は捨て、速度ベクトルで記述した空間
フェルミ速度:金属中の自由電子の速度の上限
パウリの排他原理:同じエネルギーで同じ方向の電子は逆向きスピンの2個だけ

有効質量:物質中の電子は真空中と異なり、見かけ上、さまざまな重さになる
シュレディンガー電子:質量がある電子。エネルギーは速度の二乗に比例
ディラック電子:質量ゼロの電子。エネルギーは速度に比例

波長:電子の波としての性質の波長は、運動量の逆数で、掛け合わせるとプランク定数になる
波数空間:波の性質から電子を観察する空間で、運動量空間と同値

第5章 バンド構造ー物性科学の基礎

エネルギーバンド:パウリの排他原理より、金属には、その金属全体に存在している電子の数(金属の質量が大きいとアボガドロ定数以上になるほどの膨大な数)の半分に相当するエネルギーレベルが存在する。各々のエネルギーレベルの差はわずかになるので、電子のエネルギーレベルはほぼ連続状態に見え、エネルギーバンドを形成する。
価電子帯:電子が詰まっているバンド
伝導帯:エネルギーレベルが高く、エネルギーを得た電子が飛び込んでくる以外は空席状態のバンド
バンドギャップ:価電子帯と伝導帯のエネルギー差
正孔:価電子帯の電子が伝導帯に移ったことによりできた空席
バンド分布図:横軸に運動量、縦軸にエネルギーをとった電子と正孔の分布図

金属:フェルミ準位が伝導バンドにあり、フェルミ準位まで電子が詰まる
絶縁体・半導体:フェルミ準位が価電子バンドと伝導バンドの間にあり、フェルミ準位まで電子が詰まる

第Ⅲ部 トポロジカル物質とは何か

時間の反転(T)や空間の反転(P)を考えて初めてトポロジカル物質のグループが見えてくる
感想:学生時代、宇宙は時間反転(T)、パリティ(空間)反転(P)、チャージ(粒子ー反粒子)反転(C)を組み合わせたCPT反転では、全ての物質が対称性を有する(かどうか)が物理学のテーマになっていたな)
(時間・空間・粒子反粒子の反転について、大栗博司先生が解説されている、すごくわかりやすい動画です)
2023年2月23日(NEW!)

第6章 仮想磁場ー電場が磁場に見える

時間反転対称性:重力と電場は時間反転対称性が保たれているが、磁場は時間反転対称性が破れている
トポロジカル物質:磁場をかけないでホール量子効果を実現しているので、時間反転対称性が保たれている
強磁性体:時間反転するとスピンが反転するため、時間反転対称性が破れる

空間反転対称性:多くの結晶は空間反転対称性を保つが、表面では空間反転で表面の上下物質が入れ替わるため、空間反転対称性が破れている。これに起因して、物質内部(3次元)と物質表面(2次元)は、異なる性質を持つようになる
極性ベクトル:空間反転すると符号が変わる重力や電場のベクトル
軸性ベクトル:空間反転しても符号が変わらない磁場やスピン

クラマース縮退:時間と空間の両方を反転させると、スピンの向きが反対の電子のエネルギーが等しくなる現象
ピチュコフ=ラシュパ効果:物質表面の空間反転対称性の破れにより、クラマース縮退が解けた(逆向きスピン電子のエネルギーが異なる)状態
ドレッセルハウス効果:結晶内部の空間反転対称性の破れにより、クラマース縮退が解けた(逆向きスピン電子のエネルギーが異なる)状態

感想:カッコイイ名称のオンパレード!)

仮想磁場:視点を変えて、電子の周りを原子核が回っていると考える。すると、原子核の円運動により電子を中心とする磁場が形成される。これを仮想磁場と呼ぶ
ローレンツ変換:実験室系の電場が、静止電子系では磁場になる変換

ゼーマン効果:磁場によりクラマース縮退が解け、スピンの向きにより電子のエネルギーが異なる状態
スピン軌道相互作用:結晶表面で、仮想磁場によりクラマース縮退が解ける作用

トポロジカル物質:スピン軌道相互作用の強い物質

第7章 トポロジカル絶縁体とは

バンド反転:スピン軌道相互作用によりエネルギーレベルが下がった伝導帯の電子のエネルギー準位を、スピン軌道相互作用によりエネルギーレベルが上がった価電子帯の電子のエネルギー準位が上回る状態

バンドのひねり:バンド反転が生じているとき、価電子バンドを運動量の低い方からたどっていくと、途中で伝導帯バンドに変わり、更に進むと価電子バンドに戻る状態

偶パリティと奇パリティ:空間反転で符号が変わらない場合を偶パリティ、符号が変わる場合を奇パリティと呼ぶ

トポロジカル絶縁体:バンドのひねりにより、奇パリティの伝導バンドに偶パリティの価電子バンドが入り込み、偶パリティの価電子バンドに奇パリティの伝導バンドが入り込んだ物質

トポロジカル表面状態:トポロジカル絶縁体の表面に普通の絶縁体(空気や真空)を接触させると、価電子バンドと伝導バンドが交差して金属状態になる。この表面の金属的な電子状態

スピン・運動量ロッキング:トポロジカル絶縁体で、スピンの向きが運動量ベクトルと直角で左向きにロックされる現象

スピン偏極電流:トポロジカル絶縁体の表面電流は、スピンの向きが揃っている
後方散乱の禁止:スピン・運動量ロッキング効果により、トポロジカル絶縁体の表面電子は後方散乱できない。これは、2次元トポロジカル物質の端では、不純物に妨げられずに(ジュール熱を発生しない)電流が流れることを意味する
ヘリカルエッジ状態:2次元トポロジカル絶縁体のエッジには純スピン流(電流ではなく、スピンのみ)が流れる。純スピン流は検出可能になっている
逆エーデルシュタイン効果:(例えば走査トンネル顕微鏡で)スピン流を注入すると、注入した電子はスピンの方向により流れる方向が決まる
円偏光フォトガルパニック効果:トポロジカル絶縁体に光を照射して決まった向きのスピンを持つ電子を価電子帯から伝導帯に励起できる

第8章 電子波の位相

アンダーソン局在:電子の波の性質により、電子が局在して(特定の場所で強め合って)しまい、電流が流れにくくなる現象
幾何学的位相:磁場をかけると位相が変化する現象を、経路長差による位相のずれ(力学的位相)に対して幾何学的位相と呼ぶ
ベクトルポテンシャル:シュレディンガー方程式を記述する物理量。磁場ではなく「ベクトルポテンシャルが位相を変える」表現が、より正確
ベリー位相:運動量空間における仮想磁場に起因する位相
異常速度:トポロジカル絶縁体は、運動量空間において波動関数のパリティが逆転するため、伝搬速度に下限(異常速度)が存在する

第9章 トポロジカルファミリーと応用

磁性トポロジカル絶縁体:トポロジカル絶縁体に磁場もしくは磁性を付与し、時間反転対称性を破ったトポロジカル絶縁体。結晶表面にトポロジカル状態ができるので、「カイラルエッジ状態」になり、エッジ電流が流れる
トポロジカル超伝導:表面が超伝導のトポロジカル絶縁体
スピン一重項:クーパー対のスピンが逆で時間反転対象性を保つ。s波超伝導とd波超伝導になる
スピン三重項:クーパー対のスピンが同じ向きで、時間反転対称性が破れる。p波超伝導になる

マヨナラ粒子:粒子と反粒子が同一視できる粒子。トポロジカル超伝導物質にできるクーパー対を作っていない電子とそれと対をなす正孔をマヨナラ粒子とみなすことが可能
トポロジカル量子コンピュータ:マヨナラ粒子を量子もつれ状態にすると頑強な量子もつれを作ることができる。2個のマヨナラ粒子を入れ替ると量子状態が変化することを利用して量子演算を行う

どんどん増えるトポロジカル物質ファミリー(本書には名称のみ記載されています)

トポロジカル結晶絶縁体
ワイル半金属
アクシオン絶縁体
ディラックノーダルライン半金属

(本書の)おわりに

私たちの記憶や忘却、ひらめきなども量子現象にもとづいて説明できるのではないかと考えています。
しかし、そのためには今までに知られている量子効果だけで十分とは思えません
トポロジカル物性のように、まだ発見されていないモノの性質が、生命現象の不思議を解く鍵になっているとも考えられます。

おわりに

本書は2021年1月20日初版発行で、発行されてすぐに読み、その内容に魅了されました。

「トポロジカル物質」が日経サイエンスに登場したので、今後は「トポロジカル物質」が表舞台に躍り出ると期待したのですが、あまりニュースが出てきません。

そうこうするうちに2年が経ってしましました。

そして、つい最近(2023年に入って)Twitterやnoteで「トポロジカル物質」に触れる機会が増えてきました。
そこで、重い腰を上げ、本書の紹介文を書くに至りました。


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