見出し画像

最高のバズ!

こんにちは!区からのおすすめにより、スマホdeドックというリモート血液検査を受けてみました。ほぼ全ての項目でA判定でしたが、一つの項目だけ高度異常値とやらが出て、震えあがっております。

受診と再検査を強くすすめられたので、さっそく予約しました。ついでにがん検診も予約してみました。怖い…。怖いです…。

さ、びくびくしつつも、小心ズが参加してきた北米のフリンジについて引き続きご紹介してまいります。
(この記事はマネトラガールにて2020年に連載したコラムに加筆したものです。)

口コミが最重要

画像1

(アメリカの首都ワシントンDC キャピタル・フリンジ授賞式 2012年)

今では日本にも浸透した「バズる」という言葉。元々は英語のbuzzから来ており、蜂がブンブン飛び回ることや、人がガヤガヤ噂をすること、そして「クチコミ」を意味するものです。

モントリオールには、観客のクチコミを掲載する「フリンジ・バズ」というシステムが早くからありました。私が初めてフリンジ・バズを目にしたのも2007年です。

フリンジパークと呼ばれるメイン広場には、野外ステージがあり、バンドの演奏の横にはビアテントと屋台が並び、観客やアーティストやボランティアやスタッフたちが、いつでも賑やかに語らうことができます(フリンジのスポンサーでもあるサンアンブロワーズの地ビールはほんとうに美味しいんです……!ああ、飲みたい……)。

その広場の一角に、観客がショーの感想を手書きし、思い思いに批評したりおすすめしたりするフリンジ・バズのフェンスがありました。

びっしりと貼られた感想や批評の紙切れ!

タイトルやアーティスト名や劇場名とともに、

「5ツ星!絶対にオススメ!」

「こんなに笑える作品はない。最高。」

「感動した。家族にも見せたい。」

などなどの熱い文字が、日ごとに増えてゆくのです。

その山のようなバズの中に、自分のショーについて書かれたものを発見した時のうれしさと言ったら!

小心ズというまったく無名の日本人のコメディは、観客のクチコミでどんどん広まり、千秋楽には立ち見が出るソールドアウトになったのです。

生まれて初めてのスタンディング・オベーションを経験したのも、このモントリオールでの出来事でした(ちなみに今までのバズで一番うれしかったのは、2010年にバンクーバーで見つけた「Miss Hiccup ROCKS! ミスしゃっくりはロックだ!」です)。

画像4

画像2

(バンクーバー・フリンジには感想を手書きできるボードが設置されている 2010年)

レビューは怖い?ありがたい?

画像4

           (ワシントンポスト紙に掲載された記事。2012年)

フリンジには多くのメディアも参加し、テレビやラジオ、新聞や雑誌やウェブメディアなど、いろいろな媒体が取材をしたり、レビュワー(批評家)を派遣しては、記事にしたりします。

このレビュー(批評)もまた、とても重要です。良いレビューが出ると、加速度的に集客が伸びることもありますし、酷評されるとそれ以降チケットがあまり売れなくなってしまうこともあります。

アーティストにとって、レビューは決して無視できないものであり、その年の興行を左右する大きな影響力を持つものです。

私もこれまでにいくつもの作品を上演し、実にいろんなレビューをもらいました。

「ハローキティを生んだ国から、さらに可愛いものがやって来た!」

「大人も子どもも、パフォーマーもドラッグ好きも楽しめるショーに出くわすことはそうそうない。『ミスしゃっくりの幸せな一日』はそんな稀有な逸品。東京から来たクラウンが、可愛いらしくてとにかく可笑しい、テンポのいいパフォーマンスを見せてくれる」

「トトロとビョークを足したような生き物が現れた」

「セサミストリートの制作者たちがドラッグでラリっていたとしたら、こういうものを創るかもしれない」

……若干、妖怪みたいな扱いが多いですね……。

質の良いレビュワーの文章はとても知的で美しく、たとえばこちらも私のお気に入りの一文。

“Yanomi may be the clown, but you’d be a fool to miss this performance!” -DC Theatre Scene

「ヤノミは道化かもしれないが、もしこのパフォーマンスを見逃すとしたらあなたは馬鹿者だ。」

ガラガラの客席から

画像5

              (地下鉄に乗るヤノミa.k.a.ミスしゃっくり)

2012年のアメリカの首都、ワシントンDCで開催されたキャピタル・フリンジに参加した際には、初日のテクリハの時点からアクシデントに次ぐアクシデントに見舞われ、その上、何とか幕を開けてみれば客席には8人しかいませんでした。

8人。

しかも、そのうち2人がレビュワー。
さらにそのうちの1人がワシントンポスト紙のレビュワーだったのです。

コメディにとって静かな客席ほど怖いものはありません。
客席が埋まっているほど、観客はよく笑うものです。逆に、客席がガラガラだと観客は心理的に笑いにくいものなので、静かになりがちなのです。

世界有数の有力紙からレビュワーが来ている。よりによってそんな大事な初日の客席が、ガラガラ。

絶望的に静かなその客席と向き合い、ほとんど笑い声も聴こえないなかで、私はとにかく覚悟を決めて、全力でじぶんのコメディをやりました。

鬱々とした気持ちで過ごした数日後、なんとワシントンポスト紙には私の作品への素晴らしいレビューが掲載されたのです。それ以降というもの、日に日に客席が埋まっていき、千秋楽にはついにソールドアウトしたのでした。

ソロ公演としては人生初のソールドアウトであり、カーテンコールで私は文字通り飛び上がって喜び、満場の拍手をいただいたのです。  

どんなに少ない客席でも全力を尽くすこと。
いつでも、どこでも、心ある誰かが私を観ていること。

それを改めて胸に刻んだ出来事でした。

ツアーアーティストたちとの友情

画像6

(私にとって兄のような存在、マーティン。
お互いの役を取り替えっこして臨んだスペシャルショー。2010年)

さて、プロのレビューがいくつももらえたり、メディアにインタビューが掲載されたりと、ソロ作品に対しても非常にフェアな扱いをしてくれるフリンジですが、ほかにも素敵なポイントがあります。

私が北米フリンジを好きな理由の一つは、アーティスト同士の横のつながりが非常に豊かであることです。

モントリール・フリンジで、とある人形劇を観に行った時のこと。

客席の最前列で観劇していた、白塗りメイクの私たち。

度肝を抜かれるような素晴らしいそのショーが終わると、アーティストたちがカーテンコールで挨拶をしました。

フランス語でさっぱりわかりませんでしたが、突然彼らが私たちを指差し、笑顔で紹介してくれたのです。

私たちはわけがわからないままにその場に立ち、そこにいた観客があたたかい拍手を送ってくれました。

フリンジのアーティストたちは、ベテランであればあるほど、自分たちだけでなく、ほかのアーティストの作品をも紹介し、リスペクトを込めて観客に宣伝することがあります。

コメディアンが、親しい友人のミュージカルを紹介することもあれば、シリアスなドラマに出演している女優がまったく異なるジャンルのダンス公演を宣伝することもあるのです。

私はこの慣習にとても感動し、それ以来自分のカーテンコールでもほかのアーティストを可能な限り紹介するようにしています。

北米フリンジの参加にはいくつかの枠があります。

✓地元のカンパニー

✓カナダ(またはアメリカ)国内のカンパニー

✓海外のカンパニー

私はもちろん海外から参加しているカンパニーです。

そして、何百何千といるフリンジ・アーティストたちの中には、毎年毎年フリンジでツアーを回り、それだけで生計を立てているツアーアーティストもほんの一握り存在します。

私も何度かツアーを回りました。その過酷さと美しさを語るには七日七晩かかりますが、ツアーアーティストたちは私にとって生涯の家族です。

画像8

                 (モントリオール・フリンジ 2015年)

今回もお読みくださってありがとうございます。
次回はダイナミックなツアーの面白さと、そのユニークなシステムについてもお話していきたいと思います。

皆さまが健やかでありますように。
私の再検査やら検診やらがうまく行き、数値がまともになりますように。

Stay safe!
Love & Beer!

あなたのサポートにより、ヤノミがビールを飲むことができます。そのビールはエネルギーとなり、新たなコメディを生んでいきます。乾杯!