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【エッセイ】猫のいた日々はしあわせだったと思う

 昔、家に猫が居ました。

 子猫の時に母が知り合いから貰ってきたのです。母も全くの思い付きだったらしく、家族にも相談無く、突然我が家に猫がやって来たのです。

 猫は、最初は勝手が分からなかったようで、カーテンの陰に隠れて怯えるように過ごしていましたが、数日経つと慣れてきたのか元気な姿を見せるようになりました。実はかなりのやんちゃ坊主だったのです。

 とにかく好奇心が旺盛で、高いところに登ったものの降りられなくなって鳴いてみたり、物陰から人の肩に飛び乗ったり。猫は自由気ままに振る舞い人間が振り回される毎日が続きました。

 放し飼いにしていなかったので、母が朝夕散歩に連れて行きました。当時は猫にリードを付けて散歩させる姿が珍しく、近所の子供達から「猫のおばちゃん」と呼ばれて人気者になっていました。

 どこにでも登るし飛び乗るのですが、食卓のテーブルだけは登らないように躾けました。登ったり登ろうとする素振りを見せるとお尻をぱたきました。人間が直接引っ叩くと猫にとってはガンダムに殴られているようなものなので、怪我をさせないようにスリッパでお尻を引っ叩くのです。そのうち猫も理解して食卓には登らなくなりました。

 どうやって覚えるのか、勝手口の鍵を自分で開けて脱走するようになったので、新たに鍵を追加しました。おつまみのツナキューブが入った缶を自分で開けて食べてしまったり、隠しているキャットフードも探し出して食べてしまう事もありました。

 夜中にネズミを捕まえて、自慢げに持って来たこともあります。取り上げると大変不満そうな顔をしていました。セミやトカゲも器用に捕まえました。ある日イタチを捕まえようとして大げんかになり、最後っ屁を食らって数日臭かった事もありました。

 冬には石油ストーブにぴったりくっついて寝てしまい背中の毛が焦げてしまった事もありました。寒がりなのかと思えば、コタツに入ると暑いのか、すぐに出てきて自分のベッドで寝ていました。

 やがて猫も高齢になり、一日寝て過ごす事が多くなりました。ある日、異変がありました。真っ直ぐ歩けなくなったのです。いつもヨロヨロしながら歩き、以前は軽快に駆け上っていた階段も登れなくなりました。

 そしてその年の冬、お気に入りのコタツの中で眠ったまま動かなくなりました。

 こうして、我が家から猫は居なくなってしまったのですが、家族は誰も悲しみませんでした。歩けなくなった頃から「その時」が近い事は分かっていたし、変な話ですが最期まで看取った達成感のようなものがあったからです。猫が私達に与えてくれたのは悲しみではなく幸せだったと今でも思います。

 あれから随分経ちますが、今でもテレビで猫が映ったりすると、猫と過ごした時の話をする事があります。一時は新しい猫をお迎えしようかと話したこともありましたが、やはりお別れの時の事を考えると躊躇してしまうのです。

 

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