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【短編小説】Version Ka.

「隊長、間もなく奴らの勢力圏内に入ります」

「承知している。ここからは慎重に行動せよ。見つかったら、まず命は無いと思え」

「了解」

 私達は、目標である巨大生物の棲息地に侵入していた。手練れの隊長と新入りの私、ここから女二人だけの、命を賭けた戦いが始まるのだ。

「しかし、この任務は必要なのでしょうか」

「それは我々が考えることでは無い。我々の使命は任務を遂行することだ。任務に集中せよ。でないと死ぬぞ」

 私達の任務、それは巨大生物の体液を収集することだ。作戦の失敗は私達の滅亡を意味する。これは種の存続を賭けた戦いだ。私達が生き残るためには、どうしても奴らの体液が必要なのだ。

「居たぞ。高度を取れ」

「了解」

 私達は奴らの視界から逃れるため、上空へ飛んだ。眼下には二体の巨大生物が確認できる。まだこちらには気付かれていないようだ。

「奴らの死角から背後に回り込む。取り付く場所は皮膚の湿っている部分だ。そこが最も脆弱だ。CO2センサーを活用しろ」

「了解。私はあの小さいほうを狙います」

「了解した。成功を祈る」

 私と隊長は散開し、各自定めた目標を目指す。私達は奴らの死角から取り付くため、直上から急降下した。

 さすが隊長は手慣れたものだ。易々と背後から接近し、皮膚の露出している部分に取り付いた。早速、体液の収集作業に取り掛かっている。

 私も目標の死角から肌の露出部分を目掛けて接近し始めた。

 その直後、目標の動きが変化した。馬鹿な。私は完全に奴の死角に居たはずだ。気付かれるはずが無かった。だが、奴は明らかにこちらに気付いている様子だ。何故だ。

「気付かれた。攻撃が来るぞ!」

 隊長は作業をやめて飛び立った。とにかく一旦、奴らの攻撃が及ばないところまで逃れなければならない。

 私達は攻撃を避け、死角となる物陰に身を潜めた。

「どうして奴ら、私達に気付いたのでしょうか」

「恐らく、接近した時の高周波音を探知されたんだ」

「奴らにそんな能力が?」

「奴らの能力は未知数だ。何が起こっても不思議じゃない」

「それではどうすれば」

「頭部への接近をやめて、末端の露出部分を狙う。奴らも動き回っているし、かなり難しいが、それしか方法は無い」

「分かりました。やってみます」

 私達は再び飛び立った。時間が経った為か、奴らも戦闘態勢を解いている。これなら何とかなるかも知れない。

 私達はそれぞれの目標に向かって再び接近し始めた。やはり頭部に接近しなければ探知はされないようだった。もう少しで目標に取り付けると言うところまで来て、突然、隊長が叫ぶ。

「しまった。罠だ!」

 目標の周囲には白い霧のようなものが掛かっている。それは目標に近づくにつれて濃くなっていくようだった。霧の中に突入した途端に息苦しくなり、推力が弱くなってくる。

「隊長、出力が上がりません」

「空域から離脱しろ。早く!」

 隊長も同じ状況らしく、辛うじて高度を維持している。隊長は何とか私に指示を出したものの、高度はどんどん下がっていった。

 私達の動きを見計らってか、奴らが攻撃に転じてきた。巨体の癖に攻撃はかなり俊敏だ。こちらの動きがかなり鈍くなっていることも影響しているだろう。

 それは油断だったのか。或いは運命だったのか。

 パンッ!

と、大きな音がした、その瞬間……私の目に映ったのは、攻撃をまともに食らって粉々になる隊長の姿だった。それまでに回収した体液や、バラバラになった羽を周囲に撒き散らしながら、さっきまで私が隊長と呼んでいたそれは墜ちていった。

「隊長」

 私には、それを悲しんでいる余裕は無い。この任務を遂行しなければ、どのみち私達は滅びるしか無いのだ。

 隊長を撃墜したことで奴らは慢心しているようだった。今が最後のチャンスだ。私は最後の力を振り絞って、末端の露出部分に取り付いた。

 直ちに体液の収集をおこなう。先に凝固を防ぐ薬剤を注入した上で体液を吸い上げる。気付かれないように慎重に、少しずつ。まるで、この時間が無限に感じられるほどに焦燥する。

 限界まで収集したところで離脱した。あとはどうにかして逃げ延びるだけだが、収集した体液はかなりの重量増となり、思うように飛べない。どうやっても高度が上げられない。ここで見つかれば、私も隊長のようになるのは目に見えていると言うのに。

 物陰伝いに奴らの勢力圏からの脱出を図る。高度も速度も出ないこの状況だが、奴らに気付かれないことを祈りながら、私はひたすら太陽の方向へ飛び続けた。

◇◇◇

「お父さん、ちゃんと網戸締めてなかったでしょ」

「ああ、ごめん。二匹ほど入って来てたな。さっき殺虫剤捲いておいたから」

「もー。あたし、ちょっと刺されちゃったよ。薬ある? かゆみ止め」

「はい、薬。この時期は仕方ないよ。あいつらも生きるためにやってるんだから」

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