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vol.8 士業のビジネスマッチングサービス: 振り返り回

これまで士業のビジネスマッチングサービスについて、対象企業を定め、Step2~Step5に沿って、それぞれの企業の理解を深めてきました。今回は、これらの企業を「振り返り」つつ、業界全体での「着目すべき戦略」を整理し、「財務諸表を読む際のポイント」をまとめてみたいと思います。

まずは全体像を以下示します。


1 振り返り

vol.3 ~ vol.7の内容を振り返り、士業のビジネスマッチングサービスにおける「着目すべき戦略」に関し、ビジネスモデルキャンバスを用いてマッピングしてみます。

vol.3~vol.7をベースに筆者作成

以下では各項目に対し、公開情報を基にした解釈を加えていきます。

2 着目すべき戦略

A 顧客セグメント

A-1 士業の種類
法務分野を対象とするか、経営管理分野を対象とするかが分岐点です。

弁護士ドットコムやアシロは法務分野、MS-JapanやブリッジコンサルティングGは経営管理分野をメインにしています。

アシロのように他士業への展開を図る動きも見られます。

A-2 個人 (「B to C」) または法人 (「 B to B」)
個人(「B to C」)を対象とするか、法人(「B to B」)を対象とするかがポイントです。

全対象企業を見る限り、弁護士や税理士関連は個人 (「B to C」)、公認会計士関連は法人 (「B to B」)がメインです。

B チャネル

顧客セグメントの顧客数を増やすために、対象企業はそれぞれのチャネルを活用しています。

B-1 広告宣伝
ネット広告やオンラインイベントを通じて認知度を高める動きです。特に「B to C」向けの企業で採用されています。

B-2 人的ネットワーク
業界でのつながりや金融機関からの紹介など、人的ネットワークを活用する動きです。「B to B」向けの企業でより採用されています。

C キーパートナー

C-1 士業の種類
キーパートナーの選定は、顧客セグメントにおけるターゲットによって変わります。

D 主なリソース

D-1 オンラインプラットフォーム等
顧客とキーパートナーとのマッチングを促進するためのWebサイトなどです。各社はマッチング精度を高めるために、検索性など、使い勝手向上に投資を続けています。

また、一部の会社、例えば弁護士ドットコムでは、独自大規模言語モデルの導入等、AIに対する投資の動きも見られました。

オンラインプラットフォーム等は「B to C」の方でより投資が加速しています。これは、顧客が個人の場合その数が多いため、オンラインでの調整がより効率的だと考えられます。

D-2 社内コンサルタント
顧客とキーパートナーの間で調整を行い、マッチングを促進するために、採用や教育に投資を続けています。

社内コンサルタントへの投資は「B to B」向けの企業で特に加速しています。これは法人顧客の課題が幅広く複雑であるため、優秀なコンサルタントによる丁寧な調整が求められるからです。

E 価値提案

マッチング対象となる内容は、案件マッチング、転職支援、マーケティングサポートに分類されます。

E-1 案件マッチング
顧客の抱える具体的な問題点 (法務相談や経営管理相談)について、専門家をマッチング

E-2 転職支援
士業の求職者と専門職を探している法人とをマッチング

E-3 マーケティングサポート
オンラインプラットフォーム等に集まるコミュニティに対し広告枠を提供

3 財務諸表を読む際のポイント

ROE、PBR、時価総額を図にしてみると、弁護士ドットコムが特に高い数値を示しています。これは、市場規模、IT投資の進捗、顧客および士業登録者数、AIへの投資などが評価されているためと考えられます。

例えば日弁連のホームページによると、日本における弁護士の数は2023年10月現在44,800人であるのに対し、弁護士ドットコムの弁護士登録者数はvol.4で示したように、2023年3月期において23,659人であり、実に半数以上の弁護士を囲い込んでいる形になります。

vol.3をベースに筆者作成
円の大きさは時価総額 (10月6日時点)


今回のような業界の財務諸表を読む際には、財務諸表の表面的な増減や分析に加え、同業界で重要な戦略の内容やそれらに関連するKPIに着目しなければならないと考えます。これは社内、社外の利害関係者全てに言えることであり、限られたリソースの中で日本の生産性を上げていく際、どこにフォーカスすべきかの示唆を与えてくれます。

4 まとめ

士業のビジネスマッチングサービスに関する分析を通じて、財務諸表だけでなく、ビジネスモデルや戦略にも注目することの重要性をお伝えしましたが、いかがでしたでしょうか? 

会計数値を単純に見ただけでは捉えられない対象企業の姿を、有価証券報告書をビジネスモデルキャンバスにあてはめ、ストーリーを再構築することによって理解を深めることができる、という点をお伝えすることができれば幸いです。

最後に、このnoteでの目的は、財務諸表の読み方を一例として共有することであり、特定の銘柄を推奨しているわけではない点をご理解いただければと思います。

5 次回予告

これまで専門的な内容の投稿が続いたため、次回は雑談回と位置付け、noteでの情報発信を通じて得た気づきを共有したいと思います。

6 おわりに

この記事が少しでもみなさまの参考になれば幸いです。ご意見や感想は、noteのコメント欄やX (@tadashiyano3) までお寄せください。

なお、投稿内容は私個人の見解に基づくものであり、過去所属していた組織とは関係ございません。

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