起業のファイナンス
将来的にCFOになる可能性もなきにしもあらずと思い、”起業のファイナンス”という本を読んだので、自分が参考になったポイントをまとめます。ベンチャー企業の資金調達についてのポイントがまとめられている本です。
イケてるベンチャーの大事な要素
イケてるソーシャルグラフ(=友達の輪 or ネットワーク)の中に潜り込んで、自分の必要をかなえる能力(資金を出してくれる人にたどり着いたり、人材を見つけ出したり)があること。これがあると、「状況に合わせて臨機応変に対応できる能力」につながり、革新的な事業自体は理解されなくても、ベンチャーとしての能力があると判断される。
事業計画の構成
・Executive Summary:全体のサマリー
・会社の概要:資本金などの基本事項、マネジメントチーム(経営陣)の経歴等、組織図、現在の事業内容の概要、顧客などを記載。
・外部環境:マーケットの概要、市場の規模、市場の構造などを記載。
・数値計画(損益や資金の計画):事業の基本的な戦略、販売計画、人員計画と共に、これらと整合した損益・資金計画などを記載。直近1年くらいは月次で詳細に、その後5年くらいはおおざっぱにでOK。いつ、どのくらいの利益がでるのか?や、いつどのくらいの資金が必要になるのか?がチェックポイント
・検討している資金調達の概要や資本政策:EXITを目指すのか?(上場を目指すのか、買収されることを目指すのか)、想定している企業価値の根拠、資金調達のスキーム、株主構成等を記載。
いろんな質問を想定して、それにこたえられるような計画になっているかを吟味していく。投資家に、「これはいけそうだ」と思わせられるかが大事。
企業価値について
DCF法の復習。DCF法で利用するCFは事業計画から持ってきて、割引率についてはWACCを用いる。
WACC= 資本コスト×E/(D+E)+負債コスト×(1-税率)×D/(D+E)
※E=株主資本の時価 D=有利子負債時価
資本コスト(株主に支払わなきゃいけないリターン)の考え方を完全に忘れてしまったので復習する。株式期待収益率を推定するCAPM(Capital Asset Pricing Model)という理論に基づくと、下記の式で算出される。
資本コスト=リスクフリーレート+ベータ×マーケットプレミアム+固有リスクプレミアム
リスクフリーレートはノーリスクで得られるリターンで、10年物の国債利回りを通常利用する。
ベータ:個別の株価と市場全体の株価の変動の比の値。例えば、TOPIX(東証1部の時価総額を指数化したもの)が10%増減したときに、ある株式の株価が20%増減するときのベータの値は2となる。同様に市場全体の値動きと完全に同調する株式のベータは1になる。システマティックリスク(分散投資しても排除できない市場全体に存在するリスク)を反映している。
マーケットプレミアム:"市場全体の期待収益率 ー リスクフリーレート"で計算する。「市場全体の株式に平均的に投資した場合に安全資産よりもどれだけ多いリターンが必要か」を表す。
固有リスクプレミアム:アンシステマティックリスク(その企業特有のリスク)を反映するためのもの。
理解のためにざっくり一言で表現すると、
株主の期待するリターン=そもそもノーリスクで得られるリターン+市場全体から期待したい追加のリターン+その企業特有の事情を考慮して期待したい追加のリターン
と言っていいと思われる。
実際の創業間もないベンチャーの企業価値評価の際は、割引率は40%や50%など、むちゃむちゃ高くなってしまうが、これは固有リスクプレミアムを30%や40%などと見積もったりするから。計算式の他の要素は基本的に第三者データから持ってこれるが、この固有リスク部分は理論的に設定根拠があまりない。参考に、創業期のベンチャーで黒字化もしていない場合の割引率は結果として4-60%前後、上場が確実視されるような企業の場合は十数パーセントから二十数パーセントのレンジが多い。
ストックオプションについて
ストックオプションに関して、ざっくりした目安として、上場までの累計で発行済株式の10%以内に収まるように考えておけば無難。多くて20%くらい。人員計画と資本計画を合わせて発行計画を考える。発行済株式の30%や40%など、大量にストックオプションを発行すると上場できなくなることがある。主幹事証券から株に変えるように指導されたり、そもそも上場の俎上にあがらなくなることも。一度付与してしまったストックオプションを返してもらうのは非常に困難。
資本政策はどんな人にいくらでどんな株やストックオプションを割り当てるかの計画だが、初期に間違えると後になって修正がきかないため、非常に重要。特に創業者の持ち分は一度薄まったら二度と高まらないと考えておくべき。
持ち株比率について
ベンチャーキャピタルやエンジェルに株を何パーセント渡すのがいいのか?に対する答えはなく、ケースバイケース。考慮すべき事項は
・必要となる資金が集められるか?
・上場後も安定した株主構成になるか?
・その株主が企業価値の向上に果たす役割をはるかに超える比率になっていないか?
・上場基準は満たしているか?
等があるが、他に覚えておくべき数字として、①50%超、②33%超がある。①はシンプルに50%超抑えていれば、株主総会の普通決議は必ず自分の思い通りにできる。②について、ある投資家が3分の1超の持ち株比率の場合、会社の重要な方針(ex. 事業譲渡等)については特別決議が求められ、ここでは3/2以上の賛成がないと可決されないため、3分の1超の株を持っている株主は拒否権を持つことになる。
また、この投資家は安定株主だからいつも自分の提案に同意してくれるだろうと思っても、提案が合理的でない場合は意見をしなければ株主代表訴訟で訴えられる可能性もあるので異論を唱える可能性もあるし、その他裏切りもある。安定株主だからと言って常に同意してくれるとは限らない。
企業価値を高めてくれる投資家であれば、自分の持ち分比率が下がっても結果として、自分の持ち株の価値は上がることを忘れずに。その投資家がどう価値向上に貢献してくれるのかを確認しよう。
投資のプロセスと契約内容について
プロセスの例は以下の通り。
①守秘義務契約(NDA)の締結⇒②タームシートを締結⇒③デューデリジェンス⇒④投資契約締結⇒⑤投資の実行
いきなり④、⑤と進む場合もある。タームシートは大体どの程度の金額を投資して何パーセント分の持ち分が欲しいか、どんな内容の投資契約になるかを書面に落としたもの。ベンチャーキャピタルと付き合いだしてから実際に資金が払い込まれるまでは、3か月くらいは見ておいた方がいい。ちなみに1回の増資で会うべき投資家の数は数十人くらいが普通なので、資金調達は断られ続けることを覚悟する必要がある。
投資契約の内容にベンチャーキャピタルから取締役を送り込むことなどが盛り込まれるイメージがあるが、実際は、取締役に就任しているとインサイダー規制などにより株式を好きなタイミングで売れなくなるため、上場が見えてきたら派遣していた取締役を引き上げることが多い。
また、株式には優先株式が用いられることが多く、以下の4つがメイン
・残余財産の分配を受ける権利:普通株主より先に分配を受けれるようにする
・会社による取得条項:上場時や買収時に会社が優先株式を取得して、普通株に交換
・種類株主総会での決議事項:例えば合併や事業譲渡など、一定の事項について、種類株主総会の決議を求めるようにする。これによって投資家に拒否権を与えることができる。
・取締役または監査役の選任権
こういう内容を調整することで、優先株式は投資家との関係を決めるほか、投資家間の利害調整にも利用される。便利であるため利用は増加しているが、そのわかりにくさから利用されにくい実情はある。
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