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ボクシング屋と賢者は歴史に学ぶ。

私が好きだったボクサーは、主に1990年代に多く、当時好きだったチャンピオンの名は、今でもスラスラと口に出る。

だが・・・。一人だけ時に忘れ、時に思い出す、名チャンピオンがいる。その名は、ジエラルド・マクラレン。

ハンサムでパンチがあり、テクニックもある絵になる男であった。第4代WBO世界ミドル級王者第21代WBC世界ミドル級王者ジェラルド・マクラレン(米国)GERALD McCLELAN34戦31勝(29KO)3敗

これが彼の戦績である。かの伝説のチャンピオン、マービン・ハグラーが打っても打っても倒れなかった、ジョン・ムガビに初回KO勝ちし、世界に名を売った。

兎に角倒す。誰が来ても倒す。いつの間にか、マクラレンの試合は、何ラウンドで倒すか?と予想して見るようになった。

私はテクニックを駆使する選手が好きだが、彼はテクニックも持ち合わせる、速くて合理的なファイターだった。

当時、彼の一階級上のスーパーミドル級にはナイジェル・ベンというチャンピオンがいた。

同階級に敵がいなくなったマクラレンは、更なる高みをと、一階級上げ、スーパーミドルのチャンピオン、ナイジェル・ベンに対戦を申し込む。

困ったベンの陣営は、汚い駆け引きを行い、マクラレンの挑戦から逃げ回った結果、ベンの地元、イギリスで行う、と言う発表を聞いたとき、ものすごく嫌な予感がした事を覚えている。

ベマクラレンが好きな私は、WOWOWエキサイトマッチに齧り付き、この一戦を見た。

1ラウンド早々、マクラレンがあっさりとベンを倒す。最早、格が違う。立ち上がってきたベンに対するレフェリーのカウントや、動作が遅い。時間稼ぎと思うのは気のせいか?

これがネックになるとは、この時、思いもしなかった。2ラウンドも壮絶に攻めるマクラレンに対し、ベンはクリンチに逃げる。これは仕方ないが一つだけ、許されない事がある。

ラビットパンチ。ボクシングでいう相手の後頭部を打つことだが、勿論、ルール違反である。

マクラレンに対し、これを繰り返すベンに失望し、減点も取らないレフェリーは共犯だと確信した。物には限度がある。

8ラウンド。マクラレンが再度ベンを倒す。しかし、この頃マクラレンは、毎朝のロードワークをしてなかったのでは無いか?

もう証明のしようはないが、強打者によくある事だ。この日は特にスタミナの消耗が激しい、と私は感じた。

だからなのか、ダウンから立ち上がったベンは、1ラウンドに倒された時のような、ダメージが無いようにも見えた。

ベンは、ポイントは取られているものの、ペースが自分に来た事を確信し果敢に打ち合う。後頭部も含め、だが。

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迎えた10ラウンド目に、逆転が起きる。ベンがマクラレンを倒し、マクラレンは立ち上がれずコーナーで意識を失った。


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緊急手術が行われ、一時危ないと言う話もあったが手術は成功した。しかし2度とリングに上がれない体になる。

この時、私はベンを心の底から憎んだ。反則のチキン野郎!と。

イギリスのボクシング協会は、自己調査委員会を発足させた結果、事故の原因として、ラビットパンチの影響は否定できない、という見解を発表した事が、幸いだった。

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※マクラレンの妹、リサが介護をする姿

勝ち負けだの、白か黒かだのという事を、はっきりさせないと気が済まない当時の私は、マクラレンが妹のリサにより看病されてる姿を見たあと、更に試合をするベンを心から憎んだ。

今後一切、ベンの試合を私は見ない、と誓った。マクラレンの妹、リサは、ベンが何度病院に面会に来ても、拒否したという。

ラビットパンチに注意を与えなかったレフリーは、未必の故意による殺人未遂の共同共謀正犯が成立する、と思った。

しかし話はこれで終わらない。リサがベンの面会を拒否する一方でベンは素晴らしい仕事をする。

私が見ない、と言った試合の報酬を、匿名でマクラレンに送っていた。入院やリハビリの足しに、と。こう言う事は後に分かる言だ。

現に、後に知ったリサは、それからベンを温かく病室に受け入れた。マクラレン基金というものが確かあの頃発足したが、ベンが興したのではないだろうか?

私はベンを敬っている。ベンが一番、苦しんだに違いない。

よく選手の親に言われる事がある。「うちの子は大丈夫か?」と。

私の答えは、今も昔も変わらない。

「五体満足で返すお約束は出来ません。それに限りなく近い状態で戻します」。

嘘はつかない。綺麗事も言わない。

不幸な試合を私は多く見てきたので、早めに試合を止め、ボクシングを辞めさせる事も必要だという信条で来た。

ボクシングも、賢者は歴史から学べば、試合のストップが早くなるのは当然だと気づく。だから今のボクシング界と、この時のストップの早さは、私とジャニーズの顔程、違う。

ボクシングは。人に勇気を与える最高のスポーツである。

アメリカのマクラレン、イギリスのベン、日本人の私。この世に普遍に続く原理原則は、世界共通である。

だからボクシング界の皆んなや、私も含め、親御様から預かった選手を、危険な目に合わせてはならない。

利益次第で、スポーツの原則が、コロコロと変わる事があってはならぬ。私は練習では厳しく、試合ではストップが事の他早い。

20数年間、この世界にいて、数人に引退勧告を出した事がある。

そのうち一人は、私がトレーナー時代で、移籍に関する話は先方のジムとは出来ず、私と選手間の話しとして終わった。

その当時、所属した会長に聞くと、移籍金が多かったので移籍させた、と聞いた。

私がジムを開いた後、聞いた話ではそこも続かず、総合格闘技に行ったと聞いた。もう20年近く前の事だが元気にしてるだろうか?

恨まれても、人を預かると言う事はつまりそう言う事だ。
指導者に、教え子の命がかかる時の失敗は許されぬ。

ボクシングは芸術で、スポーツで、教育だ。こんな素晴らしいスポーツは無い。






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