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連載漫画の作り方10 体力と志3

漫画家の体力とは


大ベテランのH先生は今年デビュー55周年でいま連載してる漫画は35年目。近頃では、歩く歩幅も狭くスピードそのものが遅い。それでも月二回の連載を落とさず続けている。クオリティも落としていない。
「漫画家の体力」ってのは漫画を描く体力を言います。結構高齢になっても漫画描いてらっしゃる方がいるのは、この体力はかなり長いこと維持できると言うことなんでしょう。昨夏突如現れた生成系AIがもう少し高性能、使い勝手が良くなればもっと長く保つかも知れません。現状では個人のカスタマイズがまだできていなさそう。
それでも生物的な体力はもちろんあるにこしたことはないので、適当な運動はやった方が良いのでしょう。

さて、ここではあんまり語られていないだろう体力について話をします。
①好奇心の体力
好奇心って体力いるんです。これ、年齢や肉体の若さとは別。
「あー、もうこれ以上調べても無駄だ」
って自分に言い訳して何かを打ち切った事ってみなさん、山程あるでしょう。
それが危ない。
言い訳をしてる自覚があるうちはいいけど、オートマチックに打ち切っちゃうと好奇心の体力は自覚ないまま衰えていきます。自覚がないし目に見えるわけではないので、どのくらい衰えたか測りようもありません。
かく言うボクもそうです。仕方ないので対策だけ立てて「まぁこれだけやっておけばなんとか維持してるのでは?」と思い込むことにしています。

・漫画を読む……自分にとって新しい作品を少しでも読む。面白かったら愛読者になる。
・本を読む……社会科学系が好きなので、とにかく目についた本を買っておく。で、訳わからなくて良いから読んでいく。
・映画を見る……気分転換をかねて。でも混んでる映画は嫌なので、結果あんまり人が見なさそうな作品をみたりしてる。
・美術館にいく……遠くても「これは面白そうかも」と思ったら出かける。でも混んでる美術展は好きではないので、結果マニアックな美術展に行っちゃったりする。
・知らないメニューを頼む……よく外すけど、まぁそれはそれで。
・知らない土地へ行く……特に外国。昨年はチェコ。チェコ語なんか一切わからず出かけました。考えてみたら初めてフランスのEIMA(南フランスの日本漫画の学校)へ行ったときも、フランス語一切しゃべられないまま出かけました(今も話せないけど)。知らない土地、知らない言葉は全身の感覚をものすごく鋭敏にしてくれるのでとてもいいです。もちろん日本でもオッケー。
・知らない人と話す……無理矢理話すことはないけど、機会があったら一言二言でも話す。特に何かの専門家が、専門について話すのは、話してる様子も含めて面白いので刺激になります。
・上のようなことをやり続ける……少しお金が無駄になるかも…と思いながらもやる。

②連載の体力
上で、「漫画を描ける体力があればいい」といいましたが、連載となると話は別。
先日、思いついた漫画をネームにして知り合いの編集者に見せたところ「これ、モーニングでやってみてはいかがですか、紹介しますよ」と言われて固まってしまった。
話がまとまったら週刊連載やるのかよ!
ボクの様子を見た件の編集者、ニヤリとしながら「そうなんですよね、ベテランさんは週刊と聞くと二の足踏むんですよ」
そうなのである。上手くいけばありがたい話ではあるが、「またあの過酷な暮らしをするのか…」と思うと安請け合いはしにくい。一週一週は無理ではなくても、それを一年約50週、人気が出たら何年も……というのは、経験したからこそ二の足を踏む。
最近少し様子が変わってきたが連載開始・連載終了の主導権は編集者が握っていて、特に終了は市場的な理由しかない。さっさと終わっちゃうのも業腹なものだが必要以上に引き延ばされるのも、作品としての漫画、作家としての漫画家を損ねちゃうもんなんですけどね。

とにかく「この漫画を描けるペースは?」と自分の体力を知っておくのは大切です。石ノ森先生は最晩年まで制作のペースがあんまり落ちてないみたいだったから、週刊連載をやっていたら週刊に復帰するのはさほど難しくはないのか知れません。
ちなみにボクの今の連載の体力は月二回40ページが限度。ああ、どうりでビックコミックシリーズのような月二回刊行雑誌がいろいろあるわけだ…と悟った次第。


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