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漫画教育を考えよう

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漫画家をやりながら、漫画の専門学校の講師をしています。 大学の准教授をしたり 海外の漫画学校に教えに行ったりしてます。 その中で教育というのを、真面目に考えよう、もっといい教育は…
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#教育

コマ割り、ネーム技法書成立させ方について

前稿で「コマ割りやネームの技法書は成立させにくい」と書きました。 ボクも10年間くらいウダウダ考え続けてきましたし、実際に何度も制作に取りかかってみたのですが、どうもうまくいかない。 この間に大学に勤務していて、日本漫画学会の総会に出席したり分科会に参加するようになりました。そこで、すごく多くの人が視覚芸術としての漫画を研究していると言うことを知ったのです。 漫画界は当然のようにそういうこと知らないんですよねえ。「学者に漫画がわかるか」みたいな態度とる人もいます。勿体ない

仕事の流儀8 漫画の教授法3

アダプテーション 前回内容をさらにスキルアップさせた講義。アダプテーションADAPTAITIONは文学で使う場合翻案などと訳される。例えば『フランケンシュタン』がアダプテーションされるとジョージ・バーナード・ショー『ピグマリオン』になる。それが舞台・映画向けにアダプテーションされると『マイ・フェア・レディ』になる。それが現代向けにアダプテーションされると『プリティ・ウーマン』になっていく。          ボクはこの定義通りではない講座をやっている。フランス漫画バンドデシネ

仕事の流儀7 漫画の教授法2

バンドデシネと漫画を比較するバンドデシネについて調べ始めて、6年くらいになる。バンドデシネの単行本(アルバムという)は総じて高いので、ぼつぼつと蔵書していってる。それでも50冊を越えて100冊に近づいてきた。日本でよく知られているメビウスとかエルジェはほとんどない。日本でみかけないものをフランスで買ってくるようにいてるからだ。それらはフランス語のセリフなので、ボクにはほとんどわからない。でも、コマや絵を眺める事は出来る。 日本の漫画とバンドデシネは同じ漫画のくくりには入るけ

連載漫画のはじまりと終わりについて2(改変あり)

あるいは『ヒカルの碁』でいっぱいの 最近人と話をしていて驚いた事がある。               「『ヒカルの碁』の終わり方が唐突だった」             と、その人は言う。 ボクはそういう考え方を聞くのがそれこそ唐突だったので驚いたが、さらに驚いたのは                 「韓国のせいで終わった」                     と言われたことだ。週刊少年ジャンプの漫画の終わりと韓国って関係があるのか? と首を捻ったものだけど……なるほど。

連載漫画のはじまりと終わりについて1

あるいは編集者の仕事について 漫画雑誌の定期連載がどうやって始まるか、みなさんはご存じでしょうか。大概は編集会議というヤツで決まるのです。 では、その編集会議で話すポイントは何か、というとこれは折々によっていろいろある。                          売れるか 人気は出るか 二次商品はできないか           今だとこんな感じでしょうか。掲載誌にどういう貢献が出来るかというところでしょう。 終わる時のポイントは何か?              

仕事の流儀5 地理・建物・暮らし②

人の作ったものは、人にフィットするようになっています。 上手くフィットできなかった失敗作もたくさんありますが、フィットする狙いで作られています。 建物も同じ。その土地の気候・風土にフィットし、使用する人の目的にフィットするように作られています。 キリスト教のカソリックに大聖堂と言われる建物があります。司教がいる聖堂です。司教というのは、カソリックの教区のとりまとめ役で、広い区域の監督役です。その下に司祭などがあり、そっちのは聖堂。 ヨーロッパにいくと、聖堂でもかなりデカイの

仕事の流儀4 地理・建物・暮らし①

漫画の学校で教える地理や暮らしってなんだ?と思われるかも知れませんが、ファンタジー漫画描くときになにかと便利な知識なのです。どういうものかってぇと、例えば次のようなもの。 写真は群馬県にある田島弥平旧宅。世界遺産になったものです。 この建物、特徴があるけどわかりますか? そう、屋根の上にある小さな屋根。目立ちますね。 では、これはなんのためについているか、ご存じですか? これはね、蚕の繭の熱を放つためのものなんです。この建物の二階は蚕部屋になっているわけです。蚕は繭に

仕事の流儀3 Attack Y

これもボクの講座の一つ。 同じ専門学校で教鞭を執っている久世みずきさんにこの講座の内容を話したら 「よくできますねえ」 と褒められました。呆れられたのかも知れないけど。まぁ限りなく自虐的な講座。 元ネタは東大大学院教授の吉見俊哉さんの著書『「文系学部廃止」の衝撃』。この本はタイトルはアレだけど、学問の考え方を分かりやすく伝えてくれるいい本だと思います。その中に、吉見さんがどうやって学生の論文を鍛えていくための見識とかやり方について触れている項があった。そして、自分の論文を学

仕事の流儀2 マスターピース講読

マスターピースとは傑作という意味です。先達の描いた傑作を丁寧に読み込もうと、企画した講座。2年生を対象としました(2学年制の専門学校なので卒業学年に当たります)。2019年度導入。まだ経験の浅い……というか、一年しかやっていない講座です。何年も前から考えては躊躇いして、ようやく踏み切りました。ためらった理由は、年間20コマのうち10コマ使うので 「果たしてそれに見合うだけの深みを持たせられるかどうか」 迷ったのです。躊躇って迷って結局踏み切ったのは、この講座に似た内容を自分自

仕事の流儀1 自分的始めの話(長いよ)

専門学校や大学で展開してきたボクの講義、講座について話し行きたいと思います。 漫画の「先生」として10年やってきました(漫画家ではなく)。先生をやれるのは長くてもあと10年くらいでしょう。それより先は、若い才能を指導するには多分感覚が追いつかない。巴里夫先生が70代くらいまで少女マンガの新人育成に関わっておられたそうですが、巴先生は長く編集にも関わっておられた。だからできたのでは、と思います。 もともと少年漫画でデヴューしたのが少年漫画家としては高齢でした。講談社がいまのビル

ブサメンガチファイターで      ライトノベルのコミカライズを考える

   「小説家になろう」という投稿サイトに掲載されている『ブサメンガチファイター』という弘松 涼さんの小説がコミカライズされている。 掲載誌は「ビッグガンガン」。タイトルは原題のまま、『ブサメンガチファイター』。作者は上月ヲサムさん。 実は上月さんはアミューズメントメディア総合学院でのボクの教え子だった。とはいうものの在学中から非常に上手く、大して教えることもない人でした。 上月さんにお願いしてスカイプで講演をして貰った。演題は ライトノベルのコミカライズについて ボクはオ

フランスからマンガの専門学校について考える3

そういうわけで帰国しましたが、この講座を受け持ったのはボクにとっても勉強になりました。それも大変に。 ボクは日本の漫画の専門学校では通常ないような授業をやっている自信があります。 例えば「アナリシス」。チームに分かれて担当した作品を褒め、相手の作品の悪いところをあげていくという授業。本心とは関係なく議論のために作品を見ていく必要があります。そう、アメリカなんかのディベートの手法を取り入れた講座です。普段クラスメートに訊いても「ああ、いいんじゃない」と曖昧な返事を返したがるも

フランスからマンガの専門学校について考える2

EIMAは三年制の学校ですが、遠くない先に四年制に移行したいらしいです。何故か。 漫画の修行期間として三年は短すぎるから、という理由だそうです。 この学校では二年まではペンの遣い方、漫画の歴史知識、それも含めて日本美術史などを勉強して、本格的に作品をこしらえて売り込むのは三年生になってから…という方針だそうです。 ボクはこれを聞いて何度も思い返して、そのたびに胸が詰まるような思いを感じるのです。大学の研究ならまだしも、漫画を日本美術の流れの一つとしてみる日本の漫画専門学校があ

フランスからマンガの専門学校について考える1

前回の更新から間が空いてしまいました。 前回触れていたEIMAに、実は講師として来ています。 全8日間の日程。 EIMA…… Ecole Internationale du Manga et de l'Animationはフランス南西部トゥールーズという都市のほぼ真ん中にあります。 トゥールーズは国内4番目か5番目の街。スペインへの巡礼路サンチャゴデコンポステーラのフランス側最後の大きな街です。ここから飛行機で一時間足らずでバルセロナに着きます。クラシック音楽好きの人には、ト