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たゆたえども沈まず(著者:原田マハ)

著作者名:原田マハ 発行所:株式会社幻冬舎 令和2年3月発行

画家のゴッホと彼をめぐる三人の画商の話である。三人とはゴッホの四歳年下の弟テオ、日本人画商の林忠正と部下の加納重吉である。ゴッホとテオはオランダ人である。時代は19世紀末。

忠正と重吉は、開成学校でフランス語を学んだ。忠正は重吉の三年先輩である。二人ともフランスへの留学を望んでいた。パリこそは、産業も文化も世界一だと聞く。世界の中心である。

忠正と重吉が日本橋のたもとを歩いていると、忠正が重吉に語りかけた。「たゆたえども沈まずーって、知ってるか」「パリのことだよ」「たゆたえども、パリは沈まず」ヨーロッパの、世界の経済と文化の中心地として、輝く宝石のごとき都、パリは、いまなお洪水の危険と隣り合わせである。パリは、いかなる苦境に追い込まれようと、たゆたいこそすれ、決して沈まない。

テオは、「グービル商会」モンマルトル大通り支店の支配人である。しかし、テオは、フランス芸術アカデミーの画家たちの絵を売りさばくことに嫌気がしていた。テオは、1879年に開催された「印象派の展覧会」を見た。「これは、まるで、光の洪水のようだ。」「これこそ、新しい絵だ。自分たちの時代の美術だ。自分が扱いたいのは、こういう作品だ。」

テオにとって、印象派の画家たちの作品は、新しい時代に向かって開け放たれた、新しい窓。第一の窓は、日本の美術。第二の窓は、印象派。そして、第三の窓こそが、ゴッホの作品なのだ。忠正と重吉は、ゴッホやテオに日本の美術を紹介する。また、彼らは、ゴッホやテオに精神的な支援をする。

重吉がゴッホの絵に接したときに覚えるのは、いままでに体験したことのない、見知らぬ感情だった。「引きずり込まれてしまうような荒々しさ。ふいに平手打ちをくらったような・・・鋭い刃物を突き立ててくるような・・・痛みと叫びがゴッホの絵にはあった。」

ゴッホという画家を、この世でもっとも理解しているのはテオである。ゴッホの画家としての力量を推し量り、将来性を信じ、経済的にも精神的にも、全力で支えている。テオは兄の「専属画商」なのだと信じている。

この後、ゴッホの人生はどう展開していくのだろう。波乱に満ちたゴッホの歩みを読んで下さい。

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