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弟(著者:石原慎太郎)

著作者名:石原慎太郎 発行所:株式会社幻冬舎 平成25年8月発行

弟とは、言うまでもないが、石原裕次郎である。この魅力ある俳優、歌手を幼年期から死に至るまで、兄慎太郎が語る。ここでは、俳優の初期に焦点を当てる。
 
石原慎太郎の作品「太陽の季節」の映画化の際、当時の日本では、片田舎であった、多摩川の上流の日活村から湘南にロケイションに来ている活動屋たちには、慎太郎の作品に出てくるような風物は未知のもので、現場でいろいろ滑稽な混乱があった。その度プロデューサーの水の江滝子が慎太郎に質してくるので、慎太郎は面倒くさくなって、専門家の裕次郎を相談役として推薦した。
 
主人公を囲む遊び友達の役者に、手とり足とり教えていた裕次郎に「映画に出てみないか」ということになった。裕次郎は日頃やっていたことを、地のままにやればいいだけの話だから、なんなくその役をこなしてしまった。その後、水の江が「誰より裕次郎があの役にぴったりだった」と慎太郎に言う。
 
時代は、自らは世の中の先端を派手に走っていると自惚(うぬぼ)れている活動屋たちよりもはるかに早く先の先を流れていた。
 
日活の映画部門を仕切っていた江守専務は、慎太郎の新しい作品の映画化権を買いたいと言ってきた。慎太郎は考えた末に、「この小説は必ず日活にゆずりますが、その代わり、映画化の時私の弟を主役で撮影して下さい。」と申し入れ、了承された。この作品は、「狂った果実」と名づけられた。
 
この「弟」という作品の凄さは、エンディングの裕次郎の死である。人の死とは、こんなにも崇高なものなのか、と思う。是非、味わってください。
 


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