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『忘れる読書』

 タイトルに心惹かれて手に取りました。
 私が読書の楽しさに目覚め、習慣的に本を楽しむようになったのはかなり遅く、40歳前後の頃です。最初の頃は一冊一冊が新鮮で、具体的な内容を割と覚えていることができましたが、蓄積されてくるとさすがに覚えきれなくなってきて、さてどうしたもんかな?と考えるようになりました。ここ数年、忘備録がわりにしょうもない読書感想文をFBに残すようにしたのも、そんな動機からです。
 著者の落合陽一氏は、桁違いの読書家のようですが、物知りであることの価値が著しく低下した現代においては、忘れていい、むしろ忘れてしまう位でちょうどいい、と言います。
 これからの時代は、物事を抽象化して捉えること、点在する知識を線で繋いで問題に気づくこと、それらを組み立てストーリーにすることが価値なので、そのセンスを磨くために、読書によって「持続可能な教養を身につける」ことが大切だと。そう言っていただけると気持ちが晴れるし、心に染み入ってきます。
 後半は、読書指南というよりも、落合氏が読書を通じて到達した世界観の解説に重点が置かれていいます。デジタル技術を駆使したアートも手がける落合氏ですが、創作活動の礎となっているのはニーチェの哲学書、能や禅に関する古典、エジソンの伝記など、時の試練に耐えた本を俯瞰的に読むことで磨いた独自の美意識であるそうな。
 例えば、清少納言や松尾芭蕉にツイッターやインスタグラムを与えたらどんな作品を作るだろうか?
 或いは、資源を消費して大量にものを作る「近代」が終わった今、大切なものは何か?サーキュラーエコノミーの時代などと言われるが、減価償却とともに価値が落ちていくという経済の常識と対峙する概念として、枯れたものに美しさを見出す千利休の侘び寂びの美学を通じて世界を見るとどうなるか?
 こんな感じで、過去を知ることを通じて新しい問いを立てること、面白い妄想を掻き立てることが読書の効用。そんなヒントに溢れた一冊でした。

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