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『ビジネスと人生に効く 教養としてのチャップリン』

 人生には笑いが必要。世界中の人を笑わせたい。笑いで平和な世界を作りたい。
 言わずと知れた喜劇王チャップリンについて、研究者であり日本における権利の代理店でもある著者が解説した本です。
 イギリス生まれのチャップリンがアメリカに渡った当時、映画は最新のメディアでした。今ならユーチューバーかティックトッカーと言ったところですかね。当時は無声映画しかなかったので、チャップリンは得意のパントマイムで「あの」チャーリーと言うキャラクターを作っていきました。途中でトーキーという新技術が現れますが、チャーリーは喋りません。でもチャップリンはただ頑固に技術進化を拒否したのではありませんでした。チャーリーを追いかけ回す警官だけに言葉を話させることで、権力者と弱き庶民の対象を象徴的に描き、またセリフの代わりに自作の美しい音楽を入れるという斬新な使い方で技術を手の内に入れたのでした。
 完璧主義のチャップリンはどの作品も莫大な時間とお金をかけて作っていますが、一方で算盤勘定にはめっぽう強く、赤字作品は皆無だそうです。「チャーリー」を権利化し商品化するキャラクタービジネスの先駆者でもあり、そのビジネスモデルという意味ではウォルト・ディズニーの師匠でもあったのだそうです。そういえばチャーリーとミッキーマウスにどことなくシルエットが重なりますね。
 世界中の誰もが笑える作品を作るために、チャップリンの作品は人種差別や性差別で下品な笑いをとりません。今では常識となりつつあるこの感覚も、当時においては時代を先駆けていたそうです。
 しかし、チャップリンの映画で笑えなかった人がいました。チャップリンが人生を賭けて戦いを挑んだその人は、奇しくも誕生日が4日違いで、チャップリンと同じちょび髭がトレードマークのヒトラーでした。数々の妨害を乗り越えて1940年にチャップリンが独裁者を笑い飛ばす映画を公開するや、ヒトラーは自らの最大の武器であった、大衆を扇動する演説をほとんどしなくなったそうです。確かにあのチャップリン扮する「ヒンケル」の演説を見ちゃった後じゃ、本物のヒトラーの熱弁も感動どころか思わずプッと吹き出しちゃいます。こうして喜劇王の「笑い」は最強の武器となったのでした。
 この本を読みながら、いくつかのチャップリンの作品を改めて観ました。タイムレスな面白さの根底にあるチャップリンの哲学と戦略がより鮮明に見えました。そこがこの本のタイトルである「ビジネスと人生に効く」だったのですね。

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