見出し画像

忍び寄る人件費削減の波

(Twitterはこちら → @yanagi_092)

今から約10年ほど前、東京海上では総合職の昇給を遅くする改悪があり、社内ではそれなりにザワつきました。

画像17

ぼく「いやいや、東京海上の総合職って、何だかんだで給与の高さが採用に寄与している部分が大きいと思うんだけど、こんなことしてたら人が来なくなるよ・・・。東京海上の中の人は『給与じゃない、我々はgood comanyなのだー!』と言うけれども、外の人はもっと冷酷だぜ(笑。というか、『女性の活躍推進』の名の下に一般職を酷使して、実質的な給与削減が行われているけど、なぜこんな施策を展開しているんだ?」

画像17

損害保険会社における事業費率の競争

人件費率

出典:https://www.tokiomarinehd.com/ir/download/2021.htmlの各年度にある「決算データ集.xlsx」を基に加工

急に衝撃的な表を出しましたが、私もびっくりしました(笑。この内容は、コンバインド・レシオを細かく分解すると上記のデータに辿り着きます。

私自身、難しいことを言ってドヤるのは好きではありませんし、できるだけ簡単に書きます。是非、最後まで見てくださいね。今回は大事なことをお伝えしたいので、何卒お願いします。

まずはコンバインド・レシオの考え方から。

ああ

注)本当は、損害率はもう少し複雑ですし、そもそも保険料のベースも違ったりするのですが、細かいことを知りたい人は自分で勉強してください。全て分かったうえで、細部は大胆に省略していますので、玄人の突っ込みはお断りします(笑

この考え方から、売上に相当する保険料よりも「保険金+事業費(=人件費+物件費+代手+その他)」が多くなると赤字、すなわちコンバインドレシオが100%を超えることになります。このように考えると、損害保険各社がコンバインド・レシオの損益分岐点である100%を下回るように必死になっているのは、感覚的にご理解いただけるのではないでしょうか。

そして、「損害率」については、商品性だったり再保険だったり様々な要素が交錯するので、他社との単純比較は難しいのですが、「事業費率」は「保険料を稼ぐにあたって、どれだけ事業費を使ったか」という分かりやすい指標であり、他社との単純比較が可能です。

このように、事業費率は感覚的に分かりやすい&他社比較が容易といった背景もあり、各社の役員は「事業費率で他社に負けるな!」と声高に叫びます。

画像6


そして、事業費の内訳は以下の構図となっており、事業費の削減、それは「人件費と物件費の削減」と言い換えても過言ではありません。

事業費

注)ここで、これらの人件費等は「保険引受に係る営業費及び一般管理費」という名目ですので、損害サービス部門の人件費だけは「事業費」ではなく「損害率」の中に組み込まれてしまう構図になっています。とはいえ、人件費のトレンド分析においては、特段問題ないと思います。


東京海上の事業費率の詳細分析

東京海上における事業費率を分解すると以下のようになります。
※「その他(拠出金等)」は僅少であり省略

事業費率

全部

出典:https://www.tokiomarinehd.com/ir/download/2021.htmlの各年度にある「決算データ集.xlsx」を基に加工

なお、上記の「②物件費」については、2020年度は会計処理方法の変更により落ち込んでいますが、会計上のテクニカルな要因であり、実質的には前年と同じ程度と推察されます。そうすると、「③代理店手数料率」の上昇を、「①人件費率」の抑制によって、合計の事業費率はギリギリ「横ばい」で耐えているような状況とも言えます。

このように、事業費率は何とか「横ばい」を維持している状況とも言えますが、以下に公表された中期経営計画において、更に事業費は「▲2~3割」の削減を目指すようです。

「▲2~3割」ということは、事業費率で考えると「6%~9%」ですので、大胆に事業費を削減しないと達成できません。当面、デジタル関連で物件費の削減は難しいでしょうから、会社側からすると人件費をどれだけ落とせるかが勝負になることは目に見えており、今後も女性の活躍推進による人件費の削減に拍車が掛かりそうですね。

画像7

出典:https://www.tokiomarinehd.com/ir/event/presentation/2021/l6guv3000000c83x-att/IR_conference_2021_j.pdf P,9(連番では10ページ目)スライド右下部分

役員


女性の活躍(一般職の活躍)を考えろ

この頃から頻繁に、人事部から各事業企画部に対して「女性の活躍を推進してください」という通達がきます。

金融機関において、人事部の存在は絶対であり、東京海上においても例外ではありません。彼らの言うことには絶対服従です。営業、損害問わず、本社事業部の人たちも、本音では「女性(一般職)の活躍推進って言ってもなぁ、これ以上推進したら反発くるよ・・・」と思っているにもかかわらず、人事に対してこんなことは言えません。

「女性の活躍は大事だよね」「good companyだよね」「ダイバシティだよね」等の言葉で返すしかないのです。

画像14

画像14

画像14

画像14

画像14

このように、事業費率の各社間における競争が人件費の削減圧力に転じており、その結果として「総合職の給与削減」および「女性(一般職)の活躍推進による給与削減」が生じていることに気付いていたのですが、この頃は私も出世を気にする品行方正な奴隷(?)の一人だったので、正面から異議を唱えるようなことはできませんでした。うわべで「女性の活躍推進には、どうしたらいいんだろうなぁ、大事だよねダイバシティ」と真面目に考えているフリをしていました。

ぼく


不都合な事実に対するアンテナを広げる

このような「人件費を下げつつ一般職の活躍を推進することで、事業費率の更なる削減」という一連の流れを、従業員に対していつまで隠しきれるのか疑問に思っていました。そして、これは一般職の話だけではなく、総合職の給与削減からも分かるとおり、会社の人事施策については、表向きの綺麗な表現の裏側にある真相を掴んだ方が良いのではないかと考えるようになります。

ちょうどこの頃から、私自身も人事施策の裏側を気にするようになり、アンテナを高くして各種情報収集を始めたのですが、このような気付きの積み重ねもあって、8年後に退職をすることになります。

「質問すれば返ってくるのが当たり前か?世間は、肝心なことは何一つ答えたりしない!」(「カイジ」利根川幸雄)

会社生活も同じで、本当に肝心なことは自分で掴みにいくしかない。少なくとも、うわべの綺麗な言葉を信じていいのは大学生まで。本社部門を経験したからこそ、会社が発する綺麗な言葉の裏側には何かが隠されていることを知り、そこに意識が向くかどうかで、情報の収集力が格段に変わってくると思うようになるのでした。

画像16


添付資料1:各社の事業費に関する中期経営計画等

中期英英

上図は


添付資料2:各社の事業費率に関する詳細分析データ

画像20

画像21

画像22

画像23

添付資料3:詳細分析データの4社比較

画像24

(続く)

この記事が参加している募集

業界あるある

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?