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保険金不払問題を振り返る(損害サービス現場のリアル)

(Twitterはこちら → @yanagi_092)

ずっと色々書いていますので、私の社歴のなかでどこを話しているのか定期的にお示ししようと思います。

今

ぜっ、全然進んでない・・・

保険金不払問題の幕開け

前回記事のとおり、世間を賑わした保険金不払問題が始まりました。本当は「不払い」ではなく「支払い漏れ」なんですけど、本稿では「保険金不払」を使用したいと思います。

まずは、保険金不払問題について簡単に触れたいと思います。一般的には以下のように説明されることが多いですね。

1998年の保険料の自由化以降、損害保険会社の競争は激化していった。特に自動車保険においては、各社が特約という形での独自の保障を競い合った結果、支払い体制の整備が追いつかない状況になってしまった。こうして、臨時費用保険金をはじめとした付随的な保険金の支払い漏れが続々と生じることとなった。(wikipediaより)

自動車保険で典型的な不払いは「代車定額特約」です(今は売ってません)。これは、レンタカーの使用有無を問わず、修理期間1日あたりXXXX円を支払うというものですが、「レンタカー使ってないから払わなくていいんじゃない?」という解釈をする人もいて、不払いの温床になっていました。

しかし、このような「うわべ」の話をしても面白くないので、今回は損害サービス部門で起こったリアルな状況を書きたいと思います。

上記の代車定額特約は計算も簡単なのですが、実はもっと複雑な特約がいっぱいあって、損害サービス部門の従業員も「えっと、、、これ払えるんだっけ?」という状況に追い込まれていました。


そう、、、「追い込まれていた」のです。

損害保険会社において、損害サービス部門の従業員は少数派です。ざっくりと、10%本社、70%営業、20%損害といった感じで、とにかく営業部門の影響力が大きい会社です。このような背景から、発言力の弱い損害サービス部門には、十分なヒト・カネを回してもらえず、自由化後の競争の激化によって複雑になっていく保険商品の支払対応も「まぁ、よろしく頑張れ!」という扱いを受けていたのです。

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損害保険会社におけるシステム構成

損害保険会社には「契約システム」と「保険金支払システム」というものがあります。契約システムは保険契約のとき、主に代理店さんや営業部門が使用するもので、お客様の名前・住所、特約の有無や、支払限度額等の保険契約に関する重要な情報を持っています。

そして、保険事故が起きた際には、契約システムのデータを保険金支払システムに連携させて、保険金支払業務を行っていました。このようにすれば、保険契約どおりの支払いができますね。

システム

ところが、1998年の保険の自由化により、状況は一変します。損害保険各社は、「保険の自由化、新時代の到来だーーー!」ということで、様々な新商品を投入します。「やらなければ、やられる。新商品をどんどん作らなければ・・・」という時代で、新商品を販売するための契約システムをどんどん変えていくのですが、一方で保険金支払システムには予算が回ってきません。その結果、契約システムのデータのうち、保険金システムに連動できないものが増えてきます。

このような状況下で、どんどん複雑怪奇な新商品を投入し続けた結果、契約システムはぐちゃぐちゃです(システム業界では「熱海の旅館化」といいます)。そして、直接的に収益を生み出さない保険金支払システムは放置され、以下のような構造になりました。

新商品

では、上記の非連携な部分はどうなるのか。損害サービス部門の従業員が契約システムを目で見て、手で保険金支払システムに契約情報を入力するのです。目で見るとはいっても、画面には「特約:A, F, L」等の情報しかなくて、「Aは臨時費用を表していて、Fは日額5000円限度のことで、LはXX損害の不担保特約のことだから・・・」といった感じで毎回マニュアルや約款を見なければいけない状況で、これが本当に大変です。

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このように、契約システムと保険金支払システムが非連携で、従業員の手入力が介在していることから、支払いミスを防ぐためのチェック機能を入れることもできず、一度ミスしたらそのまま闇に葬られる構図となっていました。

更に損害部門として最悪だったのは、東京海上がフラッグシップ商品としている超保険です。これは、生損保一体型の商品なのですが、あまりに斬新な商品であったため、ほとんどの情報が保険金支払システムと非連携だったのです。

超保険

これは本当に酷い状況でしたが、少数派の損害サービス部門の声は経営陣に聞いてもらえません。従業員は泣く泣く手入力をするのですが、支払いミスをした場合は、「間違えた損害サービス部門が悪い。不注意じゃないの?」という批判を受けるのです。

ぼく「あの、超保険ってほとんど手入力ですけど、支払限度額以上に払えちゃうんですかね」
お姉さん「そうねー、払えちゃうわねー。超保険って、損害システムに何も手当が無いからねぇ」
ぼく「・・・(マジっすか、何なのこの保険)」

ちなみに、今の超保険はしっかりと保険金支払システムと連携しています。金融庁さんから、めちゃくちゃ怒られましたので。(後述)

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システム投資に関する経営の意思決定

システム投資は巨額の資金が必要となり、経営会議および取締役会での決議が必要になります。その際は、どれだけ費用対効果があるのか、どれだけ収益に資するのかが問われます。

例1:契約システムに係る100億円の投資 → 売上の向上に繋がる。将来10年間で120億円の利益が出る → OK
例2:保険金支払システムに係る100億円の投資 → 利益出るの?損害部門がラクしたいだけじゃないの? → 却下

このような背景から、損害サービス部門には資金が投じられず、商品はどんどん複雑怪奇になっていくのに、保険金支払システムは古いまま放置され、不払い・過払いを量産してしまったのです。なお、お客様にご迷惑をおかけした不払いに注目されがちですが、実は同じくらい過払い(契約以上の保険金を支払うミス)も大量に起きていました。

そして、世の中から叩かれ、金融庁さんから猛烈にお叱りを受けて、ようやく数百億円規模を投じて保険金支払システムが刷新され始めたのは、これから6年後のことです。損害保険会社に限らず、金融機関にとって金融庁さんは恐ろしい存在で、彼らが「やれ!」と言うことは絶対です。こういった外圧によって、ようやく保険金支払システムの刷新が決まったのです。

とはいえ、新しくなった保険金支払システムも評判が悪いです(笑)。東京海上は優等生なので、金融庁さんの指摘を漏れなくシステムに反映させた結果、不払い・過払いは起きにくいけど、とっても使いにくいシステムになってしまって、導入当初は大混乱でした。金融庁さんは「いいねっ!」って言ってくれたみたいですけど。

このように、損害サービス部門の社内政治力の弱さゆえに、従業員に負荷をかけ続けてきたといっても過言ではありません。保険金不払問題によって状況は改善しましたが、それでも損害保険会社の少数派であることに変わりはないという観点からも、損害サービス部門はお勧めできないなぁ・・・と思います。

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過去の書類との格闘

この日以降、通常の仕事をしながら過去の書類を見て、不払いの有無のチェックです。通常の仕事は減りませんので、追加で不払いチェックの仕事が上乗せとなります。私は新入社員でしたから、「俺が高校生のときの事案や・・・」という古いものまで遡ってチェックをします。

「俺、会社間違えたかな・・・」

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(つづく)

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