見出し画像

【演劇感想】その3ナイロン100℃「Don’t freak out」を見て 大正時代から昭和初期の「警察官の制服」について

ナイロン100℃ 第48回公演「Don't freak out 」(2023/4/1 近鉄アートシアター) 感想記事その3です。

 ナイロン100℃とKERA・MAPの舞台は、いつも衣装が役と役者さんにぴったりで楽しみです。本作も、皆さんの和装姿や、颯子(松本まりか)のモガファッションが決まっていました。
その中で警察官カブラギ(藤田秀世)、若い警察官(大石将弘)、年嵩の警官(廣川三憲)の制服について、調べてみました。

作品の時代設定は大正元年(1912年)〜昭和11年(1936年)と推定しました。
  根拠は感想その2 へ→https://note.com/yamyam5656/n/n93a654f3a0f0
  内容の感想はその1へ→https://note.com/yamyam5656/n/n395060b376fb

参考資料
山口県立図書館蔵書 「山口県警察史 上巻」山口県警察史編さん委員会発行 
  第13章第五節 服装と装備 p844-p865

上記資料によりますと、
 明治8年(1875年)11月に警察官の服制の全国統一が行われます。その後、昭和11年(1936年)までの期間に、警察官の制服は4回変わっていました。
第一期から第三期までは「警部長、警部、警部補」と「巡査」の制服は区別されていました。

 作品の時代設定では、第四期の制服に相当します。
第四期 明治41年(1908年)2月改正6月施行から昭和11年(1936年)3月まで

山口県警察史 上巻 p854-855
山口県警察史 上巻 p865

警察官(警部補以上警察官)の制服
 (第三期の)肋骨式の制服は、(明治23年の)制定以来十八年間にわたって着用されたが、常衣の組紐が擦り切れたり、常帽の側章に用いた白絨が汚れ易く、激務に従事する警察官の制服には適当でなかった、また、陸軍将校の服装と酷似していて誤認されやすいなどの理由から、改正され〜中略〜 上衣は詰襟五つボタンとし、襟章は線を廃して略日章を用い、帽章・肩章および袖章も改め、肋骨式胸章や袴章を全廃して簡素な中にも威厳のある近代的な服制となる。夏季は上衣・袴とも白地とし、略肩章は付けず、略帽に白布を覆って用いることにする。

山口県警察史 上巻 p851, 6-14

巡査の制服
 従来、根本的に区別されていた警察官服制と巡査服制とを同一デザインにし、巡査部長と巡査の区別を袖章と肩章によって明確にした。
 その他、主な改正点は(1)帽子の横章の白絨太線を廃する (2)渦紋状の袖章を直線に改め、巡査部長は銀線一条を加える (3)肩章は正・略二種を定めて常時着装(夏季を除く)とする (4) 略肩章は黒ラシャ地に赤線で縁取りした、いわゆる「赤肩章」で巡査部長にのみ略日章一個を付する。
 この時制定された赤肩章は一般に不粋として評判が悪く、着用する巡査からも嫌われたので、昭和十年六月二十日に改正して、同十一年四月一日から新しい肩章を着装した。この改正ででは正・略肩章とも巡査部長は略日章二個、巡査は同一個を付し、略肩章の赤線は平織り銀線に改めた。

山口県警察史 上巻 p864, 1-16

 この作品では、警察官の服装が「警察官であること」を観客に認知させる機能を果たしていれば十分なので、細かい検証をするのは、あまり意味がないと思います。ですが、そこを敢えて考えてみますと、

 アララギは、肩章と袖章が黄色線に略日章一つ。
黄色を金色とみなすと、警部でしょうか? 
 ちなみに警部補は袖章の略日章、略肩章・略帽の金線がないそうです。
「若い警察官」と区別を付けやすくするための演出で、肩章の赤線を黄色に、袖章の銀線を黄線にしたとも推測できます。何せ出演者全員が、顔が白塗りであったので。
そうなると巡査部長の可能性もあります。役柄からいくとこちららが相応かも。

「若い警察官は赤い肩章、袖章は赤線一筋でした。巡査と考えられます。

「年嵩の警官」については、・・・すみません、服装の細かい部分が記憶に残っていません。

 上記資料を読んで、第四期巡査の制服の黒に赤線が不粋とも思われないのですが、いつの時代も制服が格好いいかどうかは重要ですね。
 ちなみにこんなエピソードも載っていました。

第二期 明治14年(1881年)6月から明治31年(1898年)3月の改正で、四等巡査の服装が他に比較して貧弱となり、「四等巡査が人間ならば、蝶々トンボも鳥のうち」という俗歌が流行したといわれているほどである。

山口県警察史 上巻 p859

次回のナイロン100℃公演も楽しみにしています!!    
以上。

◇追記◇ 今回、警察官の衣装を調べようと思ったのは、近鉄アート館(大阪)の舞台で見た時にアララギの制服が、胸のところに横に飾り紐が平行についている肋骨式と呼ばれるデザインに見えたからです。 警察官の制服にこういう形のがあるのか、と思ったのです。しばらくして、公演の動画の配信があるとわかって、確認のため試聴したら、前ボタンが一列に並ぶ学ランのようなものでした。
 コートを着ていたシーンもあったので、それを勘違いしたのかもしれません。
ただ調べてみて、実際に第三期の制服が肋骨式だったと知りました。
 また、配信の動画を見て、くもの着物の柄も正確に記憶していなかったことに気づきました。
あれだけ舞台を注視していたのに。記憶って頼りにならないな、と思いました。

読んで頂いてありがとうございます。サポートは、次の記事を書くための資料や交通費に充てる予定です。