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【演劇感想】ナイロン100℃ 48th公演「Don't Freak Out 」近鉄アートシアター2023/04/01

ストーリーから、坂口安吾「茶番に寄せて」 の一節を連想しました。

「道化の国では、警視総監が泥棒の親分だったり、精神病院の院長が気〇〇いだったりする。そのとき警視総監や精神病院長の揶揄にとどまるものを風刺という。即ち風刺は対象への否定から出発する。これは道化の邪道である。むしろ贋物である。正しい道化は、人間の存在自体が孕んでいる不合理や矛盾の肯定からはじまる。警視総監が泥棒であっても、それを否定し揶揄するにではなく、そのような不合理事態を、合理化しきれないゆえに、肯定し、丸呑みにし、笑いという豪華な魔術によって有耶無耶のうちにそっくり昇天させようというのである。

坂口安吾「茶番に寄せて」岩波文庫「堕落論・日本文化私観」p78,10〜16

このお芝居はまさに茶番で、それも面白おかしい茶番ではなくて、怖いこわい茶番でした。
 ストーリーが全て女中部屋とその地下で展開するというのが、とても面白かったです。登場人物たちの、お屋敷の表では見せられない本音や素の姿が、ひょっと露わになる空間が舞台になっています。

 さまざまに悲惨な出来事が起きて、「え、どうなってるの、どうなっちゃうの」という驚きで、ぐいぐいひきこまれるのでありますが、
それよりも何よりも、なんと言っても台詞一つ一つの言葉の選択が、それぞれの役にピッタリはまっていて、見ていて自然に作品世界に入り込めるのでした。

戯曲が販売されたら購入したい。文字で読みたいと思いました。

 住み込み女中のくもあめ姉妹と雇い主一家、大奥様と奥様、のやり取り。
言葉遣いやしぐさに、現代の生活では見られなくなった家庭での主従関係が、きちんと表現されていて、かつ上辺だけではない本音の応酬がありすごいと思いました。

 私が一番怖いと思った人物、葬儀屋クグツ(入江雅人)。
登場始めは、履き物を抱えて部屋へ上がって入った所作が、いかにも業者らしくてよかったです。物語の後半で、口調と言葉使いがガラッと悪くなっているところが怖かった!
それから、天房雅代(奥様)役の安澤千草さん。「しびれ雲」の勝子役でも感じましたが、貫禄あって色気もあり、一見厳しそうで近寄りがたい感じがするけれど、身内の者は大事にして守るみたいな、まさに一家の刀自、という印象で好きです。

「しびれ雲」(KERA・MAP公演)、「イモンドの勝負」を鑑賞した際にも思ったことですが、どんなに荒唐無稽でおかしな設定でも、台詞一つ一つの応酬がきちんとしていれば、観ている方はその世界に入り込めるものなのですね。
もちろん、演じている役者の皆さんの力量に依る所が大きいわけです。

 お芝居の最後の場面。くもあめ姉妹が休憩時間にトランプ占いをしている所。
悲惨な展開が続いて、空気が緊張し重たくなったなかで、仲良くしている姉妹の姿にホッと安心しました。
将来の生活に持っていた、ささやかな明るい希望を砕かれた二人。
一生、女中部屋から出られずにこのまま過ごすのか、という諦観と、ご主人一家の秘密を握りこれからどうしてやろうか、という企みに満ちた二人の高笑いで物語は終わります
この時のくも(村岡希美)、あめ(松永玲子) の笑い顔が抜群に良かったです。
 暗い終わり方なのに、不思議と嫌な気分は残りませんでした。

作品を見て、住み込み女中という仕事と、明治大正期の警察官の制服について興味を持ちました。少し調べたので、次の記事へ続きます。


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