【読書感想】人はなぜ「美しい」がわかるのか 橋本治著 3/4
記事その2の続きです https://note.com/yamyam5656/n/n23c694546b7a
私やむやむがこの本の中で一番印象に残ったのがこの第三章です。
第三章 「背景としての物語」
◇著者は、ここで枕草子を書いた清少納言と、徒然草を書いた兼好法師を登場させます。そして「枕草子を面白いと思う人にとって、徒然草はつまらない」と断言しています。
それはなぜか。
◇清少納言が王朝文化の花開いた上流貴族社会の真っ只中に生きて、自分が好きと思ったものは「いい」、だから当然「美しい」のだと言える存在「美の冒険者」だったのに対し、
兼好法師は、時代が下ること約300年のち、下級貴族として管理社会に生活し、清少納言や紫式部の描いた世界に憧れて「王朝の美学」を語ろうとして「徒然草」を書き始めるも上手くいっていない「美の傍観者」であると述べています。
「払拭されない影響は害になる」の段落より
p140「徒然草」の著者は間違いをしでかしています。それは、「自分の書きたいことはなんなのか」を考えていないことです。
「徒然草」の作者が気づくべき事は、「自分は源氏物語や枕草子の影響を強く受けていて、その影響からまだ脱していない」ということです。脱していれば「自分の描くものにオリジナリティはない」などと嘆く必要はありません。影響を受け、その影響下にあることを無意識に「よし」としているから、「自分の書いたものはもう言い古されている」などと思うのです。
p142 既に言いましたように人間は自分の存在を作ります。作らなければなりません。だからこそ、人に影響されます。影響されるのは簡単なことです。あるいはまた、必要なことです。
p143 魅了され、影響されたものと一つになるような、同一化への道を歩くーこれは「カッコいい」と思った人間の真似をして「自分もカッコよくなったと思う」というのと同じです。
当人は「カッコよくなった」と思っている。でも端から見たらそれは「似合っていない」でしかないかもしれないのです。
影響を受けると言うのは落とし穴に落ちるのと同じです。落とし穴に落ちるのは簡単です。うっかりしていればすぐに落ちます。落ちたら落とし穴から出なければなりません。出るのには「努力」が要ります。
「自分の存在を作る」とは、いつの間にか落ちていた落とし穴から出るということで努力が要ります。影響を受けたら、その影響を払拭する努力をしなければなりません。
それをしないのは「カッコいいと思った人間の真似をして、自分もカッコよくなったと思う」と同じです。
これをもっと酷い言葉で言えば、「自分の存在が醜くなっているのに気づかない」です。
◇・・・ 厳しい。厳しすぎます、橋本治先生!
◇しかし著者は「徒然草」第十九段「冬」の記述の中では、兼好法師自身が発見したオリジナルな視点が見られると分析しています。
p144 この人(兼好法師)はなかなか不思議な人です。自分の書くものが王朝女流のエピゴーネンになっていることに気づいて、「かつ破りすべきものなれば、人の見るべきにもあらず」と嘆き怒って、そこで筆を置きません。行くところまで行って半泣きになって、そこから自分の独自性を発揮することになります。
p145 「徒然草」の作者が発見したオリジナルな題材は「年の暮れはてて人ごとに急ぎあへるころぞ、またなくあはれなる」に始まる「年末」という時期の「人の世界のありさま」でした。これを書くことによって、「徒然草」の作者は、「終わってしまった王朝の美」とは一線を画した「人の世界のありようを書く作家」となったのです。
(中略) 気がつけば自分の周りには「美」を欠いた雑な「人間社会」があった。つまり「現実に目を向けた」のです。卜部兼好が世を捨てて、兼好法師という出家者になったのはその点で重要でしょう。
彼にとっての「世を捨てる」は「終わってしまった王朝の幻から離脱する」で、そのことによって彼は、彼の周りに広がる「王朝以後の世界」の住人になったのです。
「あきらめが肝心だ」という言葉は言うのが簡単で、言われる当人にとってはしんどいものです。「あきらめ」がなぜ肝心なのかと言えば、人というものが「方向違いの学習」をして、自分とは不釣り合いなスタイルを獲得してしまっていることになかなか気づかない生き物だからです。
◇これも厳しい!
ただ、自分の属する集団から抜けたことで、新たな視点を獲得し自分のスタイルが確立出来た、というのは納得です。
◇この著者の辛辣な視線は、清少納言にも向けられています。
枕草子の「桃尻語訳」で知られた著者ですので、清少納言をリスペクトなのかと思えば、作品は好きだけど作者のファンではない、という事のようです。
記事その4へ続きます。
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