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明日からの僕の日常に、彼らはもういない。


寝ても覚めても、みかん。
右を見ても左を見ても、みかん。

そんなみかん尽くしの農家生活が終わりを迎えました。


1ヶ月半前、僕は初めてこの街にきた。

緊張と不安を胸に降り立った駅のホーム。
小銭を手に乗り込んだ、初めて見る色のバス。
車窓から眺めた山や海、下校途中の子供たち。

そのどれもが、まだ鮮明に思い出せる。


あれから、1ヶ月半。

いただいたお給料を手に、今日、僕はこの街を出る。

時に嫌になるほど通ったみかん畑。
毎日寝起きしていた7畳ほどの小部屋。
いつも何気なく歩いていた路地裏の小道。

昨日までは全部ただの日常だった。


でも、今日は違った。

みかん畑も、路地裏の小道も、7畳ほどの小部屋も、そのどれもがいつもより少しだけ愛おしく見えた。だけど、明日からの僕の日常にはそれらはもういないのだと思うと、少しだけ切なくなる。


始まりがあれば「終わり」があるのだ。

そんなことは初めから分かっていたはずなんだけどなあ。


          * * *


「終わり」は、僕らに別れを突きつけた。

毎日一緒に生活していた農家さん。
鍋を囲み、夕日を眺め、お酒を飲み交わした友人。

明日からの僕の日常には、そんな彼らはもういない。
明日からの彼らの日常にも、僕はもういない。

別れというものは、とにかく切ない。
それでいて、何度味わっても慣れることはない。


思い返せば、たくさんの思い出とわずかばかりの心残りが浮かんでは消えていく。

僕にとっての彼ら、彼らにとっての僕は、これから先どういう存在になっていくんだろう。

もしかしたら、また来年も同じ場所で働くことになるかもしれない。

もしかしたら、何年後かの同じ季節にまったく別の場所で再会するかもしれない。


その時、僕はどんな顔をして会おうか。


どうせなら、昨日までみんなと一緒にいた自分よりも少しだけかっこよくなった自分で会いたい。


そのためには、いつまでも別れの寂しさにかまけていてはダメだ。

まずは、ビールを飲もう。日本酒でもいいし、焼酎でもいい。好きな酒を片手に、こみ上げてくる寂しさを噛み締めるんだ。そして、ぐっすり眠ろう。


あの月が沈めば、また新しい朝がやってくる。
温かな陽がのぼり、爽やかな青空が広がる。

そしたら、何をしようか。

昨日の自分よりかっこいい自分になるために・・・


          * * *


おわり。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます!


▼ 過去の記事はこちら。

『勇気をもって踏み出した “はじめの一歩 ” を守り、育てていくために必要なこと。』




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