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筑肥日記

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記事一覧

京都行2

新幹線駅のアナウンスが憎らしい。
いっそバスに乗り遅れれば良かった。
小窓に表示される唐津行きの電車が来るまでのカウントダウンがバカバカしい。
明日博多には6時40分に到着する。早すぎる。
バイトを休む必要はなかった。

講堂のスピーカーは壊れてでもいたのだろうか。会場がザワつくなか、微かに始まりますという声が聞こえ、そぞろにオープンキャンパスは始まった。
我が幼き従弟は叔母の膝の上で紙を破いて遊

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京都行1

ものを作る人を間近で見る。
末恐ろしい。
とてつもなく残酷な情景を潜める人。その冷ややかな世界に支配されようとしてしまう。
私の暖かな故郷からは遠く離れてしまった。この不安感。
なにか物語を作る人というのはそういった世界を忍ばせているものなのだろうか。
きっと私もその残酷な世界を持っているからこそ、共振してしまっているのかもしれない。

最果て

あやふやな、宇宙とこの世との境に漂っていた。どこまでも、どこまでも広がる水面の下にも星々が広がっていた。
私と星々とを隔てる夜空すらなかった。ひとつひとつ、星が手に取るようにそこにある。

薔薇の香りが微かにしたように感じた。
水平線に影が見えた。
次第にその影におうとつや色が感じられるようになった。端麗な顔立ちをしている。
もう出で立ちが分かる。
絹を纏って髪も軽く覆っている。
薔薇の香りはその

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おかし

大量のお菓子。鞄にはお菓子しか入っていなかったのかと言うほどの量だ。
それをひとつひとつ見せて勧めてくる。
喉を悪くして声が出せないと言う。咳が度々出ていた。
しばらく話していなかった。互いに用事がなければほとんど話さない仲だ。
それが久々に用事ができた。
手振り身振りだけでお菓子を勧める様子がけなげだった。
しばらく、そういうことが続いた。
繊細な時間が流れていた。

月曜日

ドアが開くと思いがけず頭に浮かんでいた人間が現れた。
そいつは私の机の上に置いてあった英語のテキストをパラパラめくってしきりに、やるじゃん、とか、さすが、とか言って褒めてみたかと思えば、問題か解答解説だかを読んで、何言ってんだよ、などと適当なことをだらだらと言って見たりした。
私がそのちょっかいを楽しむとも楽しまないともつかない態度で、つまり追い払うことはしないでいると、笑ったり、綾波の金ズル

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後悔

総合図書館は朝10時に開館する。その30分以上前に到着してしまう。バイト上がりである。

バイト先に先々週から言い忘れ続けていた日曜日に休み入れた。
バイト先の店長はとても神経質な上に直接怒ることが出来ないほど気の弱い人であった。その繊細さは可哀想なほどだったので、配慮してマネージャーがいるタイミングでシフトの相談をするようにしていた。
しかし、今回は運が悪かった。既に2人も日曜日に休みを入れてい

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全日本恥ずかしい人連盟代表

せ、い、しゅ、ん。
心の中で呟きながら、結局何が言いたかったのか分からなくなってしまった。

生徒会は青春だった。
校内誌を刊行したのも青春だった。
失恋もした。

青春はしている。別に思い残すことは無いはずである。しかしなにか晴れない感覚が残る。

今日は下心から参加したバドミントンの県大会予選であった。本当に下心しか理由がないから理由を説明するのが大変であった。
とにかく、勝てる実

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日傘

その子は日傘をさした。ジャージでさしているのがとても可笑しかった。
とても日差しが強い日だった。朝は寒かったのに、午後二時を過ぎた今は確かにその子が言うように焦げそうなほど暑い。私はその子の日傘の中に入った。
日差しを避けるためだけでは無い。

信号が青になった。高架がみえる。博多駅はあの高架を沿っていけば必ずたどり着ける。
渡りきってまた信号を待つ。
日傘の縁の突起が私の頭をこつんこつん

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