実家が全焼した話③

 奇しくも、この日の翌々日から新入社員が私の業務の引き継ぎのために入社する予定だった。
 葬儀をやるとなると、この状況じゃどう考えても1週間くらいは会社を休まねばならんが、新入社員どうすんねん……。業務のマニュアルは全部用意してあるが、自分と同じ仕事をやってる人間が一人もいないので誰も説明ができない。困った。


 そんなことを考えてたら妹の方から連絡が入った。


「消防の人に見ない方がいいって言われたから遺体はみてないけど、お風呂の脱衣場のところで正座みたいな体勢で亡くなってたって。
検死があって、警察の予定次第だけど10日〜2週間くらいかかるらしい。だから、急いでこっちに来なくてもいいよ。
明日は消防の人と現場検証だよ」


 なんでそんなところで亡くなっていたのか。勝手口から逃げようとしたのか、お風呂のお湯で火を消そうとしたのか、熱くて無意識に水場に行ったのか……。


 火災現場を直に見てる3人のメンタルは心配だけれど、現場検証の件をお願いして、今日の件を労って電話を切った。本当にお疲れ様。


 とりあえず新人さんの事に関しては1週間以上は余裕がありそう。詰め込みで教える事を決意する。事務だから、2週間くらい引き継ぎ期間があればなんとかなるやろ。


 以降やるべき事を考えるが、流石に調べないと何もわからん。
 困った時のgoogle検索。「火事になったら」で調べた。流石の集合知!やるべきことがすぐに出てきた。ありがてえ、ありがてえ。


1、罹災証明をとる→現場検証後、消防署で発行。

2、近隣へのお詫び→幸い延焼はしてないみたいだけれどお詫びは必要。金銭は(ここ10年以内に建てられた新築のため)相手方がおそらく火災保険に入っていてそちらから保障されるため何か言われない限り不要

3、ライフライン各社へ連絡→どこが取引先だったかわからないため不可

4、火災保険会社へ連絡→保険会社がわからないので不可、そもそも入っているか不明

5、解体業者等への見積もり→所有不動産でないし不動産情報不確定のため不可


 困るわー。ホント困るわー。


 家には父が一人で住んでいた。当然、引き落としなども、全て父の口座から行っていた。
 しかし、預金通帳は全て燃えた。
 何がどこからいくら引き落とされているかが一切わからない。そもそも銀行がわからない。


 ……………ハイ、やめやめー!今日は考えるのおしまいっ!


 妹に罹災証明をもらっておくこと、隣の人に菓子折りもってお詫びに行くこと、金銭での保障はとりあえずしなくていいことなどを頼んで、この日は終了。


 寝る前に少しだけ家のことを考える。
 最後何年間かはそれこそひどいものだったけれど、小学生くらいの頃は従兄弟やはとこ兄弟と夏やクリスマス、新年に集まって一緒に遊んだりした。家族みんなと、親戚みんなと、笑って楽しく過ごしたこと、弟や妹とたわいもない話やゲームをしたこと、家族で食卓を囲んだこと、庭の草木やまわりの田んぼの蛙の声や、台風が来るたびに揺れることだとか。
 全部昔の事ではあるけれど、良いも悪いもひっくるめて全部燃えちゃったんだなー、と思うと流石に少し切なかった。



【罹災証明書と被災証明書】
罹災証明書:住宅が自然災害、火事などにあったことを証明する文書。保険の申請などに利用する。火災の場合は消防署、それ以外は各市区町村の担当部署が発行する。

被災証明書:住宅以外の家財、自動車、屋外のものが被害にあったことを証明する文書。

 今回は現場検証があるため証明書作成時には不要だが、通常は被害状況の写真の添付が求められる。保険の請求時にも必要になるので、写真はどちらにしても撮っておいた方が良い。今回はそこまで知らなかったので後で改めて撮りに行くことになった。


④へつづく


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