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「あわいの力」に関する考察

関心を持ち続けていることがある。読書、サーフィン、海外旅行、山登り、入浴だ。

好きなのかと問われると、自身の中で好きなこと≒楽しいこと、というイメージがあるので、そうとは言い切れないが、エネルギーを費やすことができるものである、と言うことはできる。

先日、能楽師・安田登さんの「あわいの力」を拝読した。書籍の中で「異界」というキーワードがあり、その言葉が上記に対し自身が関心を持っている理由に関わっている印象があり、今後の方向性を指し示すヒントとなり得る気がしたので書籍を参照しつつ、徒然なるままに考察した。

「シテ」と「ワキ」

能の中でも「夢幻能」といわれる演目では、霊的な存在、異界に住まう亡霊が登場することが多い。その亡霊を演じるのが、面をつけて舞うシテ方です。対してワキ方は現実の世界に住む人間を演じます。
(中略)
つまり、媒介者であるワキが、異界の存在であるシテと出会い、現実世界と異界をつなぐ「あわい」の存在として、シテの思いを晴らすまでを描いています。

あわいの力 P24、26

能には「シテ」と「ワキ」と言う二役がいる。特定の演目において「シテ」はあの世の住人(亡霊)、「ワキ」は現実世界の住人を演じ、亡霊の残痕の思いを晴らす手助けを行う。つまり、「ワキ」はあの世と現実世界の「媒介」としての役割を担うことになる。

自身の経験に置き換えるとどうだろう。読書、サーフィン、海外旅行、山登り、入浴は私にとって非日常に触れるものであり、書店、サーフショップ、空港、山小屋、銭湯や、そこで働く方々の存在は、私を現実世界から非日常へ誘ってくれる「ワキ」としての役割を担った存在だと定義することができる。

「ワキ」との出会い

人は誰しも欠陥を抱えて生きていて、ちょっとした出来事をきっかけに、その欠落と向き合わざるをえなくなり、「ワキ」としての人生を歩み始める可能性があります。自分の欠落を自覚している人は、他人の欠陥にも敏感になります。

あわいの力 P83

異界の入り口

なぜ「異界」関心を抱くようになったのか、今でも抱き続けているのか、それは自身が「ワキ」を担う方と出会い、自らが「ワキ」となる経験を得たからだと考えている。

ワキ方が演じるのは漂泊の旅人、子や妻を失い、あるいは、心ならざる仕事を続けるうちに、生きる意味を見失い、無力感に打ちひしがれて放浪の旅に出た人たちです。なかには、生まれながらにして人生の道を閉ざされた悲惨な人物もいます。そういう欠落を抱えた人たちが、新たな生を獲得するために旅に出た先で、シテ方が演じる亡霊と遭遇します。

あわいの力 P24、25

学生時代に体調不良が続いたことがある。大学受験や就職活動など同世代の方々が当然のように行っている活動が、体調が悪い自分にとっては難しい状況だった。

同世代の方々が当たり前のように行っているように見えることが、自分にとっては当たり前でなくなる。今まで培ってきた居場所が足元からガラガラと崩れ落ちていく気がした。

その際、自身を支えたものが、読書とサーフィンである。当時はいつ体調が悪くなるか分からず、他者と予定を組むことが難しかったので、一人で行える読書やサーフィンに次第に多くの時間を費やすようになった。本を通して様々な知識に出会うこと、海へ行き波にのる文化に触れることは、今までの居場所がなくなったと感じていた私の世界を拡張し、自分の居場所を再定義する機会となった。

今思えば、書店やサーフショップなど、それぞれの異界の媒介であるワキ的な役割を担っていた場所や、そこにいる人々と触れ合い続けることで、結果的に自身がそれらの異世界に対するワキとなっていったと感じている。

資本主義と異界

自身の体調が回復した後も「異界」への関心は続いている。資本主義を前提とした社会で働くことを通して、見えてくる課題があったためだ。

人は「異界」に足を踏みいれることで、自分が普段囚われている身体性や自分の時間から抜け出し、新たなものに目覚めるきっかけを得られます。
(中略)
人は、異界との行き来を通して日常の生を充実させることができたのです。そして「異界」を作り出す聖なる娼婦(夫)たちは、日常と「異界」をつなぐ「あわい」の存在であり、「ワキ」としての役割を担っていたのです。

あわいの力 P175

自社の大きな成長を前提とした組織において働くことは、多かれ少なかれ、社会性と事業性のバランスを取る必要性があり、事業性を担う労働は「疎外された労働」となることがある。それを行い続けることは自分にとっては難しいこと、また、そのような環境において体調を崩す同僚を見ることが辛いことが分かった。

再び自身の世界を見つめ直す時期であった。その時には読書やサーフィン以外にも、山登り、海外旅行、銭湯といった、触れることができる異界の種類も増えていた。現実世界を俯瞰的に捉え直す契機となる時間が、自身にとって重要なものであった。

オードリーについて

余談であるが、オードリーのオールナイトニッポンを聴き続けていたり、出演番組も視聴し続けている。なんとなく気になり続けている存在であるが、「あわいの力」を拝読し、若林さんが「ワキ」的であることが、現代社会において求められ続けている理由の一つではないかと感じた。

「そっくり館きさら」と言うショーパブでで下積み生活を送り続けてきた二人だからこそ、異界と現実世界のあわいをつなぐ力が養われた。ラジオや少人数の番組では、ワキとして傾聴するスキルがあるからこそ、あそこまでゲスト(シテ)や春日さんを活かす場作りが可能となっているのではないだろうか。

異界で考える特殊性

異界に触れると、なぜ人は現実世界を俯瞰的に捉え直すことができるのであろうか。

人は「異界」に足を踏みいれることで、自分が普段囚われている身体性や自分の時間から抜け出し、新たなものに目覚めるきっかけを得られます。

あわいの力 P175

人は、異界との行き来を通して日常の生を充実させることができたのです。そして「異界」を作り出す聖なる娼婦(夫)たちは、日常と「異界」をつなぐ「あわい」の存在であり、「ワキ」としての役割を担っていたのです。

あわいの力 P175、176

「かんがえる」の語源は「か身交ふ(かみかう)」です。
(中略)
思考する対象と自分が「か身交ふ」ことも大事です。身体を「媒介」に環境と自己、あるいは思考する対象と自己とが「交わる」状態、いいかえると、環境や対象から刺激を受けながら、身体という「あわい」でさまざまなことに思いを巡らす状態-。それが「かんがえる」という行為なのです。

あわいの力 P209〜211

「自分が普段囚われている身体性や自分の時間」とはなんだろう。資本主義社会という前提条件の場合、人間の状態の「する」「なる」「いる」の3項目のうち、西洋的な「上を目指す」という価値観の影響に基づく「する」「なる」状態のことを意味するのではないだろうか。

感動、驚き、発見。なんでも構いません。そんな風に「自分」から離れられる瞬間が積み重なれば、人はただそこに「いる」存在になれます。
ただ「いる」だけのありのままの自分になれる。
「する」「なる」にまみれて毎日を送っている人が「いる」を実感するために旅にでることは、とても有効ではないでしょうか。

むかしむかし あるところにウェルビーイングがありました

「異界」に触れることで、「する」でも「なる」でもない、ただ「いる」だけのありのままの自分になる。結果として、身体という「あわい」でさまざまなことに思いを巡らす(か身交ふ)ことで、現実世界を俯瞰的に捉え直すことができるのではないか。

異界と経済合理性の探究

上記の通り、「異界」の存在は資本主義の世の中において、少なくとも私自身にとって大切な存在であり、各「異界」のシテも同様に必要なものだと考えている。

知的な活動や経済活動と直結しない「異界」は排除される方向に進んでいる。

あわいの力 P184

現代に「異界」を取り戻し、その「異界」から新しいものを生み出していくためには、「何もない」「何も与えない」時間や空間をつくることが大切でしょう。ワキが舞台の途中で何もしなくなり、「異界」から来たシテの残痕の思いにただひたすら耳を傾け、それがシテの思いを解き放つように、「何もない」「空白」の時間と空間こそが、「異界」の住人の子どもを、本当の意味での大人に育てることになると思うのです。
それが、「異界」と現実世界をつなぐ「あわい」の力です。

P264

組織に所属して感じた課題

「異界」や現実世界との接点である「ワキ」の存在が後世に残り続けること。以前組織に所属しながらその想いを実現するために活動して課題に感じたことは、経済合理性であった。

各地に様々な活動を行っている「異界」があるが、小規模な活動が多く、組織の営利目標を前提とした活動では予算を得ることが難しい。

所属組織で副業が禁止されていなけれまだ可能性はあったが、私の所属していた組織は副業も禁止されていたため、別の方法を考える必要があった。

異界に対してスモールビジネスでアプローチする

2023年3月末に前職を退職し、以後個人事業主として3つの事業を立ち上げた。

  • WEB・編集事業

    • 社会性

      • 「異界」に触れる人増やす

    • 事業性

      • 「異界」に関わる各業種に対するWEBを活用した広報・マーケティング支援

  • 宿泊事業

    • 社会性

      • 「異界」触れる人を増やす

      • 「異界」に携わる方々と知り合う

    • 事業性

      • 各地域アセット(空き家)を活用したインバウンド顧客が利用する宿泊施設の開発

  • 配送事業

    • 社会性

      • 「異界」に携わる方々と知り合う

    • 事業性

      • 各配送サービスや個人商店から依頼された物品の配送業務

根幹事業は「WEB・編集事業」であるが、一つの案件に関わる領域が多く、予算が少ないため、この事業以外の「宿泊事業」「配送事業」といった収益をより確保しやすい事業を兼業し、根幹事業が継続しやすい体制とした。

スモールビジネスで異界と向き合う、上記体制から得た経験を踏まえ、今後の体制に関して刷新をし続けていきたいと考えている。