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トム・アイゼンマン『起業の失敗大全ースタートアップの成否を決める6つのパターン』ダイヤモンド社

著者はハーバード・ビジネス・スクールの教授で、「なぜスタートアップの大部分は失敗するのか?」という質問に答えられないことに気づき、また、立て続けに、教え子の2つのスタートアップ(オンライン出会い系サイトのトライアンギュレート、若いプロフェッショナルな女性向けに体にフィットした仕事着を販売するクインシー)が崩壊するのを目の当たりにしたことが、本書のきっかけであるそうだ。

著者は、スタートアップの成否を決める6つのパターンがあるという。アーリーステージの失敗として、①良いアイデアと悪い相棒、②フライング、③偽陽性、レイターステージの失敗として、④スピードトラップ、⑤助けが必要、⑥奇跡の連鎖があると言う。

①良いアイデアと悪い相棒。優れたコンセプト(構想)は必要ではあるが、それだけでは十分ではない。起業家が、従業員、戦略的パートナー、投資家など、幅広いステークホルダーとの関係が機能不全に陥るパターンを言っている。

②フライング。スタートアップの失敗要因の半分近くが「市場のニーズがなかった。」というものである。エンジニアリングを開始する前に顧客ニーズを調査することを怠ったため、的外れなMVP(実用最小限の製品による)テストに貴重な時間と資金を浪費してしまっている。

③偽陽性。スタートアップの初期の顧客から良い反応に基づいて市場の需要を過度に楽観視すると、起業家は間違った機会を追求し、その過程で手元の資金を使い果たしてしまう。メインストリームの顧客に十分に焦点を当てなかったため、方向転換できずに間違った顧客ニーズを満たすプロダクトをつくってしまう。

④スピードトラップ。初期の急成長で当初のターゲット市場が飽和状態になると、次の顧客層を獲得しなければならない。しかし、次の顧客層はアーリーアダプターほど提供価値に魅力を感じず、消費金額も少なく、再購入の可能性が低くなる。クチコミも少なく、顧客獲得コストも上昇する。その一方で、ライバルを引きつけてしまうので、価格の引き下げ、プロモーション資金の投入で、資金を使い果たしてしまう。

⑤助けが必要。ある産業セレクターが突然VCの人気を失うことがある。急成長のスタートアップが新たな資金調達しようとしているときに、こうした干魃が始まると生き残れない。また、規模が拡大すると、エンジニアリング、マーケティング、財務、オペレーションなどの分野で急速に拡大する従業員を管理できる、各分野に精通したシニアマネージャーが必要となる。このような人材の採用を遅らせたり、不適切な人材を採用すると、戦略の迷走、コストの高騰、組織文化の機能不全などを招く。

⑥奇跡の連鎖。VCから何億ドルもの資金を調達し、何百人の従業員を雇用しても、多くの顧客の獲得、新しい技術、強力な企業との提携、規制緩和などの政府の支援、膨大な資金調達という課題を抱えている。すべてが良い結果となる「奇跡の連鎖」が必要で、どれか1つでも失敗すれば、ベンチャー企業は破綻する。

著者は、初めて起業する人に次のように語りかけている。                        ①とにかくやってみよう。                      ②根気よく続けよう。                                            ③情熱を持とう。                                    ④成長しよう。                                               ⑤フォーカスしよう。                                           ⑥スクラッピー(断片的なものをつなぎ合わせる人)になろう。

ミスをすると失敗する確率が高まる複雑な決断は、選択肢とトレードオフを慎重に検討する必要があるという。起業家は自分の直感を信じて、それに従うべきという一般的な考え方には注意が必要ともいう。二晩くらいかけ選択肢とトレードオフを文書化し、チームメンバーや投資家と共有する。論理的に思考する。ダニエル・カーネマンの「スローシンキング」は、生き延びる確率を高められると信じているという。

スタートアップして失敗した、かつての教え子に手紙を書いたが、1人を除いて後悔していないと回答したという。傍観者から抜け出して、素晴らしい旅に出かけることを勧めている。

日米による差はあるものの、過去の失敗事例に学ぶことは大いに参考になると思われる。起業したい人、既にしている人にとって、貴重な教科書となるであろう。本書を読んで、日本の多くの起業家が成功してもらいたいものである。


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