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外山滋比古『90歳の人間力』幻冬舎新書

『思考の整理学』などの数々のロングセラーの著書による新刊である。少々失礼かもしれないが、文字が大きくて読みやすい。若い人に読んでもらいたいと思われる節があるが、高齢者向けでもある。

まえがきでは、若い人が自信を失っているという調査結果を引き合いに、若い人だけでなく、大人の社会を反映した結果とも言う。また、日本人は見えるものに心を奪われて、見えないものをバカするところがあるとも言う。

しかし、元々は、見えないものについて見ようとしたのが日本人である。しかし、現代の日本人が見えるものだけを追っているという批判は、甘んじて受けるしかないかもしれない。

本文は次の3つの章に分かれている。
第1章 失敗からより良く学ぶ力
第2章 厄介なことを忘れる力
第3章 欲を半分にする力

項目ごとに最初に言いたいことをあらわした文章が掲げられ、そのあと著書によるエピソードを交えた解説、また最後に教訓のような文章を掲げるというスタイルのため、どこからでも読むことができる。

例えば、第1章の最初の項目は次のような構成となっている。
「キズをのり越える努力が、
人を大きくする」
「無キズはキズに及ばないことがいくらでもある」と、文章が掲げられる。

青森へ行った帰り、キズのあるリンゴを買った話から、官僚としての最高のコースをのぼりつめたあと、大組織のトップとなった人物が、社内のちょっとしたトラブルで、「私は相談を受けていない。知らなかった。」と責任回避したことからポストを投げ出さざるを得なくなったK氏の話を述べる。

一方、家が貧しく、小学校もロクに出なく、両親も早く亡くなったが、二十歳のころ世界的発明をし、しかし、関東大震災でハダカ同然となり、あくどい同業者から商売をうばわれたが、めげず、へこたれず、努力をつづけて大企業を育てたH氏の話を述べる。

最後に、
「キズなどない方が
いいにきまっている
キズがあって
かえっていいこともあるのが
人間の不思議」
と、教訓を述べる。
実に読みやすい。教訓が腹落ちしやすいように工夫されている。

第2章では、子どもへの虐待や、家庭でのいじめについて、次の教訓を掲げる。
「自分の子をかわいいと思わない親はいないというが本当だろうか
ときにはそう思わない親もいる
だからこそこどもは
幼いとき、一生でもっともかわいい」

第3章の最後には、
「デモクラシーで
世が良くならないのは、
名前だけで政治家を選ぶからだ」
と「目で考える」ことに警鐘を鳴らす。

本書を読んで、自己の身の処し方を反省するのもよいと思う。人間力が増すかもしれない。



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