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坂巻正樹 監修、八島美菜子、小笠原文、伊藤駿 編著『未来をひらく 子ども学ー子どもを取り巻く研究・環境・社会』福村出版

子ども学は、「どのように子どもを見ることができるのか」ということを解決するために、様々な角度から、様々な学問領域から、子どものことを理解しようとする学問ではないかと思う。

序章は、「子ども学とはー実践学として子ども学の構築」となっているが、本書では、必ずしも子ども学の定義が明確に書かれていない。それでよいかもしれない。

子どもについて、比較的平易な文章で、いろいろなことが書かれているので、子どもについて勉強しようとする学生向けの本なのかもしれない。

第1部 子どもを取り巻く研究
第2部 子どもを取り巻く社会と文化
第3部 子どもを取り巻く現代事情
の3部からなり、全部で15章からなる。このうち、第3部の一部について、少し興味があるので、紹介してみたい。

「第11章 子どもと家族」では、児童相談所の児童虐待相談対応件数が増えている。児童虐待が起きていないかという監視の目が強化されていることも原因としている。「家庭の教育力の低下」より、むしろ子どもの教育に関する最終責任を家庭が一手に引き受けるようになったことを指摘する。

さらに、貧困家庭の子ども、ひとり親家庭の子ども、家庭崩壊により社会的養護を受けざるを得ない子どもは、経済的な困難ばかりでなく、精神的な困難も抱えていることを指摘する。

「第12章 インクルーシブ教育」では、国際連合の障害者権利委員会で、日本のインクルーシブ教育に強い懸念が示されたことを記している。その勧告では、特別支援学級や、特別支援学校での教育を受ける子どもたちが増加の一途をたどっていることを、即刻やめるよう勧告した。

文部科学省は、「特別支援学校」、「特別支援学級」、「進級による指導」、「通常学級」という多様な学びの場を用意し、様々な制約のある子どもたちへの支援を充実させようとする。

障害者の権利条約で規定する「同じ場で学ぶ権利の保障」を交流および共同学習で実現しようとしている。また、「学習内容の保障」については、「障害に応じた特別の指導」(通教による指導)で実現しようとしている。

この双方を融合したユニバーサル教育についても批判があるとする。障害の枠を超え、「すべての子どもに最適な学びを提供する」との視座から、これまでの通常学級における授業のコンポーネント(構成要素)を再検討する必要があると指摘する。

インクルーシブ教育への対応については、一部の障害者の親などから批判がある。障害者でも通常学級への通学を認めるよう要求する親子もいる。なぜなら、障害者が高等教育を受ける妨げとなり、最終的には自立を困難にさせ、保護を受けて生活をすることを余儀なくするからである。

欧米の大学には障害者枠が当然のようにあるが、東大などの日本のいわゆる一流大学は、そんな枠を設定することを想定すらしていない。それは冗談だと思っている。

文部科学省は、現状に囚われすぎて、大胆な発想がないように思える。国際的な取り組みなどについても研究し、広い視座で根本的に検討する必要があるのではなかろうか。子ども学に、このあたりの研究を期待したい。




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