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コロナ禍のオフィス文化進化論|山をおりる Newsletter Vol.04 [Reads]

Photo by Dane Deaner on Unsplash

山をおりる Newsletter Vol.04 より転載(2020年7月1日配信)

世界的なオフィス家具メーカーであるvitraは、コロナ禍のオフィス動向を短期・中期・長期に分けて考察したレポートを公開した。

セヴィル・ピーチは長期的な考察の中で『それでもオフィスに戻る』と題しながら、以下の展望を述べている。

・オフィスは仕事をする場所だけではなくなり、ワークという言葉から始まることもなくなり、名前すら変わるかも知れない。
・オフィスは企業文化を体現する場所であり、社員同士または他者や第三者とのコラボレーションの拠点になる。
・オフィスは課題や作業に取り組むために必要なあらゆるサポートを提供する場所になる。
・オフィスは企業や組織の需要、テクノロジーの進化に合わせて常に変化する動的な場所になる。

オフィスが創造的な活動の場へと変わる──これらは以前からあった傾向だが、コロナ禍を経てより前景化してくるということだろう。

では、ピーチが予想する「創造的な活動の場」とは、どのようなものなのか。
オフィスが単なる労働の場所から、複数人による創造的な活動をおこなう場へと変化するなら、私たちの「創造的な活動」自体も変化するのだろうか?
本記事では人類史的スケールで「創造的な活動」がどのようにおこなわれてきたのか、文化進化のプロセスを紹介する。それをもとに私たちが戻るべきオフィスの姿を想像してみてはいかがだろうか。

  人と類人猿の生物的差異:文化的学習

人類は「文化(生存に有用な道具や慣習、知識)」を発展させる能力に長けた生物だ。

ハーバード大学の人類進化生物学者ジョセフ・ヘンリックは、人間はチンパンジーやオランウータンなどの類人猿と比べ、他者から影響を受けながら学習する能力、その中でも、他者の選好や目的、信念を推し量ること、また他者の行動を模倣することによって情報を得ようとする「文化的学習」能力が発達していることを指摘している。

この能力は、遺伝子進化が親から子(垂直方向)にしか伝達できないのに対し、人類は文化的学習を通じて生存に有用な道具や慣習、知識を親世代の他人から子(斜め方向)、また同世代の他人から子(水平方向)へ伝達することを可能にするのだという。

  文化進化のプロセス

単に情報を伝達するだけで文化が発展するわけではない。
文化学習には、情報を伝達するだけではなく、変異をもたらすというプロセスが含まれている。この文化の変異を、生物進化に見立てて捉えようとするのが「文化進化理論」だ。

この理論の研究者であるアレックス・メスーディは、文化に長期的な変異をもたらすプロセスにおいて、以下の項目が相互に影響し合うことを示している。

伝達
経路:垂直、斜め、水平
範囲:1対1、1対多
変異
文化的変異:無作為に革新を引き起こす
誘導された変異:個人が自らの認識バイアスによって、情報を修正する
文化選択
内容バイアス:本質的な魅力に基づいて優先的に取り入れる
モデルによるバイアス:モデルの特性、例えば社会的地位、年齢、自分との類似などに基づいて優先的に取り入れる
頻度依存バイアス:頻度、例えば同調(多数派の意見に従いやすい傾向)に基づいて優先的に取り入れる。
文化浮動
文化的変異、無作為の模倣、サンプリング誤差などによっておきる、文化的な特徴の頻度の無作為な変化
自然選択
人類の生存と生殖にプラスに影響する文化的特徴が伝わる
移動
デーム的拡散:人が集団から集団へ移動するのに伴って、文化的特徴が広まる
文化的拡散:文化の伝達により集団の協会を超えて文化的特徴が伝わる

人類はこのプロセスによって、火の扱いを覚え、道具を作り、文字や貨幣を発明し、都市を築き、技術を磨いてきたのだ。

  文化選択とコロナ禍の変容

さて、セヴィル・ピーチが投げかけた、オフィスは複数人での創造的な場になる、という長期的な予測に戻っていこう。

コロナ禍という大きな環境の変化に、私たちの文化進化のプロセスの内容も適応しようとするだろう。
たとえば「モデルによるバイアス」や「頻度依存バイアス」は、リモートワークによるコミュニケーション形式の変化によって、学ぶ対象としてモデルとする人物の選定や、コミュニケーションの傾向も変化するだろう。すると自ずと文化の変異(創造性)も起こるはずだ。
また、物理的に集まる場の用途として、他者も含めた協働(複数人での創造)が含まれるのも、「デーム的拡散」を促進する意図が読み取れる。これは現在のテクノロジーでは物理的なコミュニケーションの情報量には敵わないからだが、技術の発展がそれを覆す未来があるかもしれない。

こうした変化は遺伝子進化より圧倒的に早いスピードで進むとはいえ、数年から十数年の時間がかかるだろう。
こうしたプロセスを経て、私たちは進化したオフィスに戻っていくのかもしれない。──N

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Photo by Paul Earle on Unsplash

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