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2015年に放送した「被災地 極上旅」のあとに書いたこと。

2015年、福島局のディレクターとして「被災地 極上旅」という番組を制作した。福島県いわき市の観光課の女性たちと、ふだんはなかなか観光マップに取り上げられない、地元のおすすめスポットを取材して、新たな観光マップをいっしょに制作するというちょっと変わった番組だった。
(実際につくった地図は、初版2000部が放送後1日で全部なくなった)
その放送後、会社の内部向けに書いた文章が、Facebookの思い出機能のおかげで掘り起こされた。今読んでも「そうだよな」と思うことばかりだったので、noteにも転載。

■「この番組で誰が喜んでくれるだろう」

最近はいつもそんなことを考えて番組を企画しています。その時に最初に考えるのが『課題』です(当たり前すぎて、ごめんなさい)。今回で言えば「観光」なわけですが、福島県の観光客数は震災前に比べて2割減のままです。その課題に対して、解決とまではいかなくても「役に立つ」番組は作れないかと思って2年前に考えた企画が「被災地 極上旅」です。番組を見た人が実際にいわきに足を運んでくれれば、地元の人が喜ぶだろう。さらにマップという形に残るものを作ることができれば、番組を知らずにマップを手にとってくれた人にも喜んでもらえるのではないかなと思いました。傲慢かもしれませんが、どうせ番組を作るなら福島を少しでも良くしたいと思っています。

■「間口は広く」

震災関連の番組の視聴率は下がり続ける一方のようです。推測ですが、NHKの震災番組を見てくれている視聴者は、いつも同じ人たちなんじゃないでしょうか。「あさイチ」とか「マサカメTV」を作ってきた自分の役目は、ふだんそういう震災関連の番組を見ない人たちにも見てもらえる番組を作ることなのかなと異動してきたときに思いました(すさまじく優秀な報道系の先輩がいたので、違う土俵に行こうと思っただけですが)。「あさイチ」には番組立ち上げの時からいたのですが、何本も作っているうちにネタ選びの時に自分のなかでひとつの基準ができました。それは「誰でもできる。今日からできる。」ということでした。ターゲット層の興味を惹くためには、その人たちに身近な話題である必要がありました。今回の場合も、たいていの人は旅行に行くだろうから、観光を入口にすれば震災に関心のない層にもリーチできるのではないかと考えました。
(その後、「地続き感」という言葉をモグラの番組で教えてもらい、つながっていくことになる考えでした)

■「パッケージも大事」

中身が大事なのはもちろんのことですが、視聴者の気を惹くためには見た目も大事。そこで今回はカメラマンが所有している機材をフル活用させていただきました。どうしたって番組冒頭の導入部分は説明が多くなりがちです。そこをうっかり見させるために一眼レフで撮ったり、テロップも試行錯誤してみました。新人の頃、ある先輩ディレクターから「『FIGARO』の配色がいいんだよ」と言われたことがあります。今回、私もプラナスの横に「OZマガジン」を置き、参考にさせてもらいました。テロップや映像加工は好みの部分だとは思いますが、自分が好きだと思えるパッケージに仕上げることができれば、他の誰かもいいなと思ってもらえるのではないかと思っています。

■「8割明るく、2割重く」

編集の時にそんなことを思ってました。さまざまな人から「もう暗い番組は見たくない」とよく言われます。ひとりでも多くの人に見てもらいたいので、ベースは明るく。でも、震災のこともわかってもらいたいからスパイスとして重さを加えるぐらいにしました。

■「語られないことを語る」

震災番組が見られなくなってきている理由のひとつは、どれも似たような番組だと思われているからではないでしょうか?もちろんそれぞれの番組では個別の問題を取り扱っているわけですが、視聴者からしてみれば結局「福島は原発事故があって、放射能で大変」とざっくり受けとめられてしまってるんじゃないのかなと思っています。ひとつひとつの番組にそのつもりはなくても、総体としてそう受け取られてしまっている。さらにはそこから福島に対する「誤解」という新たな問題も生まれているようにも感じます。原発事故から5年がたとうするなかで、問題は絡み合った糸のように複雑です。糸を解きほぐすためには、小さな課題ひとつひとつに根気よく向き合うしかないと思っています。

今回の番組で向き合った問題は「福島に対するイメージ」です。「福島=放射能で危険」という画一化されたイメージに対して、「被災地にだって普通(=日常)がある」ということを伝えたいと常々思っていました。通常、そんな話は当たり前すぎてネタにはなりません。だって「普通」なことはnews
ではない、つまりは新しいことでありませんから。でも、意外と県外から福島に初めて来た人が「普通なんだね」とびっくりします(そういえば6月に県外から着任された上司もびっくりした一人でした)。それは、福島のある部分だけが語られてきた結果なのかもしれません。今回は観光に関する企画の番組だったこともあって、福島で暮らすふつうの女性たちが主人公となり、そのことを顕在化することができました。「普通であることを伝えなきゃいけないおかしな状況がある」とちょっと俯瞰して認識することが、絡まった糸をほどくきっかけになっていくのではないかと思っています。

そして語られてこなかったことを語るために、最も効果的な番組はどんなものだろうかと考えることにしています。その結果、今回は私が市役所などに企画を持ち込み、観光課といっしょに番組化しました。そう言う意味では、この番組のきっかけは制作者にあるので、いわゆる「ドキュメンタリー」ではないでしょう。でも、大事なのは「誰が喜んでくれるのか?」。つらく苦しい現実を記録することよりも、誰かが喜んでくれる伝え方が思いついたのならば、迷わず後者を選び取っていきたい。私にとって、ドキュメンタリーはテレビ番組を作る手法のひとつでしかありません。なので、これからも課題に対して最適なアプローチは何かということを意識して、さまざまな演出にトライしていきたいと思っています。

以上、まだディレクター歴10年程度の若造が偉そうに、ごめんなさい。

でも最後にもう1つだけ。ロケで夏休み最後のアクアマリン水族館を訪れたときのことです。駐車場には他府県ナンバーの車があちこちに停まっていました。その光景が無性にうれしかったのですが、そのことに自分で驚きました。当たり前の景色をうれしく思う、その裏側には、自分たちが住んでいる福島という土地を誇れなくなっているつらさがあるのだと思います。原発事故に限らず被災地の住民はどこでもそういう思いを抱いているのではないでしょうか?でも(番組の冒頭にコメントしたように)だからこそ被災地には「極上」が育っています。

もしこの番組を他の被災地で作ってみたいという方がいましたら、どうやって作ったのか全部お伝えしますので、ぜひお願いいたします。

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