「Lunatic Corona」ー過去制作作品解説と反省①

Lunatic Corona
約14分。おそらく2014年〜2016年の作品。

「マルチフォニックをオーケストレーションすること」にフォーカスを当て、
表情を持たないノンヴィブラートのトーン・機械的とも言える「自我」が、「非我」と融合し新しいテクスチュアを生み出すまでの過程を表現した。

1.マルチフォニックトーンの拡張と再現

2.ループされるパッセージの中で1.はどう存在を示すか

3.ランダムなパッセージを加えた時1.2.はどのように変化するか

上記を繰り返し一つの音楽作品として構築した。


以下、解説及び反省点を述べていく。

※マルチフォニック(マルチフォニック奏法)とは本来一つの楽器から重音を出すテクニックのことですが、今回の作品を解説するにあたり、マルチフォニックを複数の楽器で再現させた音も「マルチフォニック」としたいのですが、いいでしょうか。(誰か良い説明法、表現法を教えてください)

「Lunatic Corona」冒頭〜練習番号Bにかけて

冒頭〜練習番号A:
機械的な音をオーケストラで再現することにこだわっている。non vib.(ノンヴィブラート)で揺らがないトーン。冒頭に休符があるのは、一拍目でダラっと始まって欲しくないため。「テーーー」より「ッ!テーー」の方が締まるため。なにより細かい休符を書き入れると譜面(フヅラ)的に映えるため。BPM50のゆったりとした呼吸。この拍子の付け方は私のセンスなので解説のしようがないんだが、3/4→→→→3/8→3/4→3/8→2/4…みたいに半分の拍(?)をところどころ入れると、単調な音楽に少し前のめりになるような感覚が出てくると思う。ずっとロングトーンが続くため緊張感を出したい。

この「揺らがないトーン」を出したいがためにクラリネットには「non vib.」のみでアーティキュレーション(書き込み)を追加しなかったが、ただの手抜きに見えたかもしれない。その割に弦は少しだけ強弱がついている。こちらを消して、冒頭は全て「non espress.」としてしっかりとトーンの性質を提示し、練習番号AからBにかけて初めてクラリネットと弦のアーティキュレーションを分離(クラリネットはnon vib.のままで、弦は表情豊かに)させ、拡張していくような表現にすればよかった。

練習番号C:
冒頭からの流れの逆再生みたいなことをしたかったんだと思う。だとすればpとfの流れ逆だけどな。終わりもトレモロじゃなくてよかったはずだし。ここはちょっと核不足というか。

練習番号D:
クラリネット重音をフルートとファゴットで再現。一つの楽器から出る重音をさらに音の高低差に差をつけた音にした。冒頭であれだけ休符にこだわっていたのにここでは四分休符。また、たぶんクラリネットから重音が出る際の音の引っかかり(?)をファゴットのタイの有無で表現したかったのだが、絶対伝わってない。休符とアーティキュレーションを書き込まないと。ずっと、意味があるべき表現に意味がついていない。


「Lunatic Corona」練習番号G〜Iにかけて

練習番号E〜I:
急に始まる6/8拍子。B♭m6のコード感でそれを壊すようにフルートのEが登場。
フルートから派生するようにトランペット、トロンボーン、チューバが現れ、このトーンがリズムのパッセージを飲み込んで収束し、そしてその音からマルチフォニックトーンの拡張がふたたび現れる。6/8拍子で進むセクションは練習番号Vで再度登場するが、はっきり言ってメチエ(記譜法、表現法)の探求不足である。弦の駆け上がりとシンフォニックな響きがもっと欲しかったはずだけど、表現方法がわからなくて思考が停止している譜面である。

練習番号J〜L:
マルチフォニックのロングトーンを拡張させさらにピッチを下降させる変化をつける作業。G#スケールとC#スケールを重ねた。当時無限音階(シェパードトーン)にとても興味があったので、取り入れる試みもした。C#no3 7/9/11に収束するが、収束する時間が短すぎてコード感はあまり感じられないかもしれない。

「Lunatic Corona」練習番号S〜Tにかけて

練習番号M〜T:
今までロングトーンとして扱ってきたマルチフォニックをスライスさせ、チューブラベルとバイオリンソロで再現しランダム性のあるパッセージを奏でる。このチューブラベルの連打は、八村義夫の「星辰譜」を大学生の時に聴いた時からずっと引きずっている再現したい音楽体験であり、今回はこの文脈で取り入れることにした。そして、このパッセージにこれまたランダム的に介入してくるマルチフォニックと、6連符連打の性質を持った管楽器が重なり、リズムが融合していく。練習番号S〜Tにかけてのトゥッティ、全員リズムを打たせるようにすればよかったかもしれない。強烈なものにはならない気がする。

練習番号U:
練習番号Tとの対比で、ソロで繋いでいる部分。ソロで繋いではいるが、音符が書いてあるだけで対位法的に広がっていくかと思いきやそうではないらしい。シンプルにクラリネット重音のみでも良かったのではないだろうか。後半に出てくるフルートのフレーズは、この後の練習番号Wから出てくるオーボエのフレーズに繋がる。

練習番号V:
6/8拍子でスケールのループ。練習番号Eを変化させたものだが、今度はトーンがリズムを飲み込むのではなく、リズムがトーンを飲み込み収束する。


「Lunatic Corona」練習番号Z〜BBにかけて

練習番号Z〜CC:
ティンパニソロから始まりチューブラベルで音階をちらつかせ、バスドラム、ゴングのarco(弓で鳴らす)が重なる。エネルギーを貯めていく状態。
ゴングの倍音とバイオリンのハーモニクスが重なった音から、トゥッティでのマルチフォニックの拡張再現。マルチフォニックの再現を散りばめ、3/8拍子で金管が登場する。

練習番号DD〜EE:
無秩序な音列から秩序的音列へと変わるヴィオラのパッセージに、マルチフォニックの再現を重ねる。フルート、オーボエ、ファゴットでだんだんスローモーションになっていくようなスケールを重ねた。練習番号FFへと繋げる。

練習番号FF〜II:
ヴィオラのループはそのままに練習番号Jの再現を乗せた。チューブラベルが登場し、連符・連打のモチーフを提示し、それをヴィオラを介しさらに弦パート全体で引き継ぐ。弦パートのテクスチャーはそのままに、スケールを奏でるパッセージへと変化。その後練習番号BBで登場したゴングの倍音と弦のハーモニクス(この場合は弓圧だけの音を期待している)の重なりでffに持っていく。

練習番号JJ:
再現部。練習番号CCで登場した金管の連打を加えている。マルチフォニックのロングトーンは音色を変えながら音量を増して破裂。練習番号Bのチェロのピチカートの再現。のはずだが、チェロとコントラバスでピチカートを絶対入れるべきなのに入っていない。あえて外したのか。全くお洒落じゃない外しである。

練習番号LL:
バイオリンが駆け上がりそのまま6連符連打。そこに木管のトレモロが重なり
金管の5度の音をぶつけた。

練習番号MM:
トゥッティの勢いをチューブラベルが引き継ぎ、余韻を形成する作業。
バイオリンのハイトーンとゴングのarcoでさらに音の広がりを作るが、最後はチューブラベルの音を止め、無音の余韻に期待する。



今回改めて自分の作品を見直し、解説と反省①としてみたが、途中で出すのやめようかと思うぐらい技量不足が露呈していると思った。練習番号Cと練習番号Eの記譜力の差は到底同じ人物が書いたとは思えない。ただ、空間に充満する音を作りたいという思いとシンフォニックな響きを得たいという思いは今も一貫して持っている気がする。

音楽用語、日本語に関して間違いをご指摘してくださる方がいらっしゃいましたらコメントでもXでもインスタでもどこからでも構いませんのでご連絡いただけますと助かります。

また、追記することもあるかもしれません。

次回は「a.amrita」について解説と反省をいたします。


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