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読書録:環境経済学

スティーヴン・スミス『環境経済学』(白水社)
20世紀後半から、地球環境は大きく変動した。18世紀の産業革命以降、人類は化石燃料を使って工業化を発展させたが、そのツケが回ってきたようだ。温室効果ガスの増加による地球温暖化である。もっとも、地球は寒冷化と温暖化を繰り返していて、江戸時代が寒冷期だったことから現代は温暖期に入っているのだが、その温暖化に人為的な温室効果ガスの増加が拍車をかけているのである。地球の活動サイクルによる温暖化は仕方ないにしても、温室効果ガスの削減はこれ以上温暖化を拡大させないためには必須である。
本書は地球環境保護の取り組みに経済学がいかに寄与できるかを説いている。経済学は僕にとって最も馴染みのない分野なのだが、本書は入門書(概説書)であるためサクサクと読めた。
人々が環境汚染に関心を持ち始めたのは1962年の『沈黙の春』刊行が契機だった。それから半世紀以上経つが、先進国での大規模公害は激減したものの、発展途上国の温室効果ガス排出量増加が問題になっている。本書で触れられている京都議定書はCO2削減を謳った画期的なものだったが、発展途上国のCO2排出は野放しだったため非難された。その後、パリ協定ではその部分がカバーされている。
経済学では何かをするにあたっての費用対効果が俎上に載せられる。本書の場合、工業生産と環境保全のバランスである。経済原理に基づくと、両者のちょうどいいバランスがあり、環境保全に力を入れすぎると生産力が落ちるきらいがある。このさじ加減が難しく、また、企業に対しどこまで環境負荷軽減を求めるかが問題になってくる。本書では温室効果ガス削減に向けた各国の取り組みが紹介されているが、問題はその取り組みが効果を示すのがはるか未来であり、我々がそれを見届けることができないことだ。そのため、効果が実感できず、懐疑的になる人もあろう。
CO2削減を期待して再生可能エネルギーを推進する動きが加速しているが、日本ではメガソーラー開発による森林伐採が問題になっている。環境保全のための環境破壊とは本末転倒である。嘆かわしい。
本書は主に理論を述べており、具体例に乏しいが、環境保護に関心のある人は目を通してみてもいいのではないだろうか。


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