博物館資料について
改めて、博物館資料について考えてみよう。
博物館の収蔵対象となる有形文化財は、彫刻や絵画のような一点ものと、写本のように一点ものだが複数の系譜があり相互の比較検討が必要なもの、土器や民具のような量産型手工業製品にざっくりわかれる(かなり乱暴な分類であることは自覚している)。
近年、博物館収蔵庫の余剰の問題とともにピックアップされているのが最後の量産型手工業製品だ。これらは工人の違いで技法に差異が生まれることがあり、複数資料の比較検討が研究の上で必要になる。一般的に2〜3点あれば充分かと思われるだろうが、差にあらず。数十点、あるいは百点単位での比較検討が必要なのだ。もし機会があるなら、図書館で土器について書かれた専門書を見てみてほしい。膨大な量の土器の図面が載っていることに気づくだろう。モノの比較検討とはそういうものなのだ。
だから、土器や民具はサンプルが一点あればいいというものではない。博物館の収蔵資料は展示する一点の他に予備として数点の重複が必要で、研究に資するためには数十点は同じものを保持しておかねばならない。ただ、その重複した収蔵資料が死蔵されたままになっているのも事実で、ワークショップなど、使う機会の創出が必要である。民具資料は日常的に酷使する分、脆弱な材料では作られていないので、実際に触ってもらうのに適していると思う。
文化財保護の理念と理想は、すべての文化財を保存することである。ただ、これは文化財保護の普及啓発を担当する側の人間が言ってはならないことかもしれないが、それはあくまで理想であって、現実には無理だ。収蔵庫は無限に増築できるわけではないし、維持する予算も湯水のように使えるわけではない。その限られたリソースでなんとか文化財を保存しようと尽力するわけだが、その過程でどうしても収蔵品の選別をしなければならなくなる。ある自治体は、民具の受け入れは焼印や墨書があるなど「資料的価値がより高いもの」に絞っているらしい。実は博物館だけが文化財の保存を担うわけではない、旧家や寺社、自治会のような地域共同体が、学芸員の指導の下で保管しているのも立派な文化財保存だ。その点、博物館への収蔵が叶わなかった歴史民俗資料を、地域が管理団体を作って保管・継承していくのはアリだと思う。なお、勘違いしてほしくないのは、文化財とは指定文化財や博物館が収蔵したものだけが文化財と認められるのではなく、文化財は全て保存すべき文化財である。文化財指定や博物館への収蔵は、それを追認し、より重要度の高いものを選別しているに過ぎない。この選別はより適切な保存・継承をするための選別であって、優劣をつけるための選別ではない。
今、博物館は維持費とスペースの面で岐路に立たされている。元学芸員として、引き続きいろいろ考えていこうと思う。SNSで情報発信するのも普及啓発活動と言えよう。
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