親魏倭王、本を語る その15
【鉄道ミステリーのアンソロジー】
10月14日は「鉄道の日」だそうで、それに関連した話を。
昔、小池滋編の鉄道ミステリーのアンソロジーが講談社文庫から出ていたらしい。すでに絶版になっているようで、情報が乏しいが、「ミステリー・推理小説データベース」によると、2巻本で14話収録されていたらしい。ただ、当時は活字が小さかったので、今ならもう少し大部になると思うが、2巻を合本しても400ページ程度しかなく、また作品数やそのラインナップを見ても、2巻に分けられている意味が分からない。
1950年代以前の代表的な鉄道ミステリーがおおよそ網羅されているが、なぜか怪奇小説であるディケンズの「信号手」が入っている。また、なぜかホワイトチャーチとクロフツは2作収録されている。個人的には一人1作の方針でクロフツとホワイトチャーチを1作にし、ディケンズを外したうえで、クリスティー「プリマス行き急行列車」とオルツィ「地下鉄の殺人」、ルブラン「謎の旅行者」を入れてほしかったところ。
【源氏物語トリビュート小説の紹介】
大河ドラマ『光る君へ』に関連して、源氏物語関連の小説を紹介。 夢枕獏氏の『翁 秘帖・源氏物語』は『源氏物語』を下敷きにしているが、源氏物語の再話ではなく、その世界観を使った二次創作で、さらに蘆屋道満が登場するなど、現実世界と作中世界が交錯する怪作になっている。物語は、妻に取り憑いた霊に「なぞなぞ」を出された光源氏が蘆屋道満とともに謎を解いていく。『源氏物語』の世界観と登場人物を使っているだけで、別に光源氏が主人公でなくても成立する話である。蘆屋道満が登場するため、ある意味『陰陽師』外伝と言えるかもしれない。作者曰く「傑作」だが、読む人によって評価はわかれると思う。
『源氏物語』が題材の小説では、映画原作となった高山由紀子氏の『源氏物語 千年の謎』も現実世界と作中世界が交錯するメタなストーリーになっていて、こちらは愛憎渦巻く宮廷生活を経て幽鬼のようになった光源氏が、亡霊として作者・紫式部の前に現れる。
【モーリス・ルブラン晩年の推理小説】
『赤い数珠』は、モーリス・ルブランが晩年に書いた推理小説で、パリ近郊の情感で発生した盗難と殺人事件を描く。舞台が固定されており、また三章構成であるため、三幕の舞台劇を見ているような印象を受ける(実際に戯曲化されている)。
もともとは独立した作品のようだが、探偵役の予審判事ルースランがルパンシリーズの『カリオストロの復讐』に登場するため、ルパンシリーズの外伝扱いされることもある。学生時代に読んだきりなのであまり内容を覚えていないが、ルースランは自分から謎解きをせず、容疑者たちを巧妙に対決させ、おのずと真相が明らかになるよう仕向けるのである。かなりタチが悪い人物だが、探偵役としては魅力的な人物でもあり、ルブラン晩年の作品ということもあってシリーズ化されなかったのが惜しい。 ルブランはフローベールやモーパッサンの影響を受け、心理描写が巧みだった。それは本書でも生かされている。