第46回: 潮目の変化 (Jan.2020)

 あけましておめでとうございます。庚子は新しい波を起こす好機とのこと、皆さまの要望と自らの興味に素直に従い、本年もインドから挑戦して参ります。

 2019年のインド経済は減速傾向と見るのが一般だが、“偉大なる田舎の集合体” である当地はマクロとミクロが連動しないどころか双極を示す事例も多い。自動車販売では環境対応を口実に供給を絞った日系が振るわない一方、投資を継続して新規ブランド・車種を投入した韓国勢・中国勢がシェアを伸ばした。VWが6週間もの工場閉鎖・生産調整に陥る傍ら、Mercedesは祭事商戦中のある一日の納車台数が過去最大の200台超に達したという。押しなべて統計に括れば13か月連続前年割れの停滞市場だが、各プレイヤーの勢いは明らかに異なる。それぞれの戦略があるとはいえ、こうも短期間に新規参入者が市場で存在感を示せるものか、外野として眺めて分析する限り興味深い市場の変節があった。

 3月に迫る規制強化のみならず、その先に控えるEV市場でも四輪は韓国勢、二輪は中国勢の攻勢が目立つ。国境紛争を抱える中国をインドの消費者は好まないと言われてきたが、気付けばスマホを始めとした電気・電子、四輪・二輪、建築・インフラまで彼らの展開スピードは日本の比ではない。オフィスやホテル、レストランなどで中国語の集団を見かける機会も直近は圧倒的に増えた感がある。

 空港が混雑するのは当地の常だが、Bengaluru空港は道路しかアクセスがないにも拘わらず夜明け前から深夜まで常に人で溢れている。航空需要が拡大の一途を辿る中、一時は国営キャリアも抑えてトップだった航空会社が昨年4月、突如運航停止し精算手続きに入った。かつて愛用していた分、そのままの内外装にロゴだけ上塗りされた機材による競合運航便に乗るにつけ、諸行無常の感を禁じ得ない。他方、昨年末のChennaiに続きいよいよ3月にBengaluru・東京の直行便が就航する。日本と南インドが近くなるのは嬉しい限り、日々、増設される路線と併せて、ますます世界が近くなる。

 今やどの地方都市も高速道路・鉄道と携帯で隈なく繋がる。男衆が群れる街角があれば、少なくともその倍の人がその街には暮らすはずだ。スマホ2億、二輪2千万、四輪3百万台に代表される消費の源泉は地方部にあり、各地の時勢・情勢は決して一様ではない。Bengaluruを州都とするKarnatakaでは中央と地方の与野党の勢力差に地場政党が加担し、1年足らずで州首相が3回入れ替わった。隣のAP州では強力な指導力を発揮した地場政党の知事が国政選挙の結果を受けて辞任、新政権は外国企業との新州都開発計画を反故にした。西部MH州では州議選で議席を減らした与党が連立に失敗、新幹線プロジェクトも見直しの憂き目にあっている。

 方や、“美しい国” を謳う日本政府は縮小経済の中で過去最大の歳出予算を組み、あらゆる機会を “持続可能な既得権益” にすべく躍起になっているよう映る。真実が暴かれても尻尾を切って強弁を閣議決定、その間、野党も世論も無力だ。平成からの穏やかな日常を続けることが国民の幸せなのだろうか。不可逆的な “中国化” が進む香港や、信教と市民権とのバランスに揺れるインドでは、自らの明日の生き方を変えるべく時に犠牲を伴う暴動が起こるが、冷めた日本人には単に “危険で迷惑な行動” としか映っていないのかもしれない。

 無限の機会に溢れる一方、昨日まで信じていたことが一夜にして覆ることも珍しくない当地。日本本社が求めるのとは次元の異なる戦略性が求められる。さながら、数十種類のスパイスを微妙に調整しながら自分好みのカレーを仕上げるように、全方位に目配せして細かな調整をしながら何が出来上がるか、そのプロセスそのものを楽しむのがインド事業の正しい進め方のようにも思う。いくら努力しても紛れ込んでしまう毒に対して、別の毒を加えて旨味に変えて味に深みを加えるくらいのことは、小手先の技として覚える必要がある。さて庚子の年、ここから何が生まれてくるだろうか。

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