見出し画像

第78回: 「タイパ追求」の行きつく先→南インド (Mar.2024)

日本で「タイパ」が尊ばれて久しい。元来、待つのは嫌いな性分だから志向としては大賛成なのだが、これを謳う製品・サービスはどれも「拙速」の感が強く、何よりカタカナ語の頭を取っただけの言葉の響きがどうも好きではない。ところがふと、タイパが「即妙」を意味するなら、それこそJUGAADじゃないかと思い至った。なんだ、日本の若者もJUGAADを求めているではないか。

地理的にも産業・技術・人財的にも「Global Southのど真ん中」に位置する南インド・ベンガルールから、タイパの珍プレー好プレー集と併せて真のタイパ・スキル = JUGAAD の体得機会を紹介したい。


通勤中のタイパ

まずはSNSで流れてきた、わずか5秒のショートムービー。通勤時間帯の街中、たまたま同じルートを同じ方向に進む誰かが撮った動画は、バックパックを背負いスクーターに乗る男性を斜め後ろから捉えている。スピードブレーカーの手前で減速して距離が縮まると、何やら足元に光るものが見える。文字通り膝上に開いた Laptop PC の画面で映像が動いている。フルフェイスヘルメットの中では無線ヘッドフォンを付けているに違いない。ふらつきつつもバランスを取りながら、ゆっくり目のスピードで走行している。そもそも映り込んだ撮影者の手元を見れば、自身もギア付きバイクの運転中。見掛けた風景に対して咄嗟に、左手でハンドルを支えながら右手でスマホを取り出し動画録画したものだろう。投稿のタイトルが "Bengaluru is not for beginners" というのも秀逸だ。

これには伏線もある。ここ最近、何度か似た話が話題になることがあった。バイクやスクーターの後ろに乗ったいずれもオフィスワーカーと思しき女性が、運転手の背中を支えに Laptop PC を開いて作業していたり、半開きのPCの画面を眺めて険しい顔をしている動画がSNS上で話題となっていた。Bengaluruならではの光景だ、などと半ば面白がって伝えられたが、今回の件ではいよいよ交通警察も動き出したという。

渋滞中のタイパ

スタートアップの同僚同士が、通勤中の信号待ち渋滞でたまたま隣に並んだ。車通勤の方は運転席の窓を下げ、バイク通勤の方はシールドを上げ、業務改善案をディスカッションし良い解決策に至ったという。「Bengaluruに来る前から、スタートアップの活況さと渋滞のひどさは聞いていた」というコメントと共にその様子が投稿された。「今日、そのふたつがつながった!遅刻はしたが、有意義な渋滞だった」と。

確かに、一度ハマると到着時刻が読めないBengaluruの渋滞。今やPCとスマホがあれば概ねどこでも仕事が出来るから、ノイズキャンセリング・ヘッドホンと充電ケーブルさえ確保すれば、車内でもオフィスと大差ない環境で仕事ができる。移動時間中に会議をする為にスタッフを同乗・同行させることもあるが、帰路の自由度を確保するには皆でバイクで走りながら会議するスタイルが良いかもしれない。

同じく信号待ちの渋滞中、世話になっている仲間から掛かってきた電話に出ると、挨拶もなくいきなり「右を見ろ!」と。続いて、「そっちじゃない、タクシーの中!」と言われて視線を動かすと、2メートルと離れていない隣の車内からにこやかに手を振る彼がいた。

映画館でのタイパ?

ここ数日で話題となったのが、「最前列の客が上映中、ずっとPCを開いていた」という投稿。Kung Fu Panda 4だったそうだが、クレームの投稿かと思いきや、主題は Life Work Balance の論議。"Bangalore is Bangaloring" という投稿者のコメントから始まった中には、そうせざるを得ない境遇に陥っている「タイパ重視な彼」を憐れむコメントも見られた。

「拙速」ではなく「即妙」

まぁ、面白おかしく今のBengaluruを捉えれば、この手の話題には事欠かない。そんな実態があるからこそ、真面目に「即妙」= JUGAADを追求する者もいる。

Bengaluruの都心に出来たスタートアップのハブ拠点。シェアード・オフィスの月額利用料を払って自らのアイディアさえ持ち込めば、事業化に向けたコンサルティングやメンタリングはもちろん、製品・サービスのプロトタイプから地場のサプライヤー・ネットワークを通じた量産、世界の印僑ネットワークを通じた各国でのマーケティング・営業までを首尾一貫して手配・代行してくれる。必要なら資金援助もするという。正にインドを「グローバルの道場」に世界を舞台とし、実を得る最短距離を走らせるプラットフォームだ。当地に根を張り縁を大切にしてきたからこそ提供できるビジネスモデル。

当地の名門私立大学でも、夏休みに世界の学生・若手社会人を対象に4週間に渡る「インド体験・グローバル交流」プログラムを行うそう。安全で快適な学内の生活環境を拠点に、一生涯の経験とグローバルの友達を得る絶好の機会。収益を目的としない学校法人の事業だから費用も格安な割に、一対一のバディ支援体制に始まり、日頃から連携している活動先での農村民泊、郊外の王宮への一日観光、ヨガや舞踏やカレー調理の体験など、盛りだくさんの内容だ。
https://drive.google.com/file/d/1nIuB6REnfXzEOFYGxuBrXyUP4WRgsJ_f/view

「拙速なタイパ」ではなく「即妙なJUGAAD」を体得するには、まずどこかに腰を落ち着けて、何かに専念することから始めた方が良い。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?