第69回: リモートワークをつなぐ先 (May.2021)

 日本では連日、インドの感染者数が報じられていた様子。天気予報や運勢占い以上に、毎日のメディアのネタとして欠かせなくなった“本日の陽性者数”。日本国内では数百かせいぜい千を超える程度だから “連日40万超” という桁違いの数字はインパクトがありそうだ。在留邦人は帰国も検討せよ、とのお触れだから、再び大半の駐在員が退避を開始。逼迫する当地の医療環境に対して日本政府は55億円相当の支援を表明し、そのお迎え便が続々と酸素発生器が届けている。これを機に長年過ごしたインドから引き揚げる、という話も聞く。

 東京・大阪のなんちゃら宣言が拡大延長されるのと併せて、当地も2週間のお替りロックダウン。Modi首相と会談を終えたB.S.Yediyurappa州首相が “出湯ラッパ” を鳴らして知らせたが、全国的に似たような状況のようだ。買い物は専らデリバリーだし当面の “燃料” も今のところは備蓄があるから何も焦ることはない。元来、スーパーマーケットを名乗る店でもワンストップで必要なものの全ては揃わないから、買い周りはいつものこと。むしろ餅は餅屋を頼った方が鮮度の良いものが手に入る。消費者マーケティングを云々する遥か手前で、サプライチェーンの安定化というか、供給の確保そのものが毎日の課題となる当地。餅屋に餅がないのはいつものことだから、わざわざ出向く前に手元で在庫を確認でき、更に宅配手配までできるなら十二分に便利だ。

 大小のスクリーンを並べてオンライン会議と宅配アプリを行き来する毎日、いつでも目前に検索環境があるから尚更、手持ち無沙汰の内に目にする情報もある。市民の行動を制限する憲法規定がないからロックダウンできないと語られる日本だが、“民度の高さ”を誇る国民にそこまでの強制措置は必要ないはずだ。報道を見る限り一年前と違っているのは日々の数値くらい。身に迫る感染懸念に対して若者や飲食店や酒やインドといった誰かを吊るし上げて溜飲を下げる世論の中で、着々と世界の祭典に向けた準備が進められている。

 引き続き自治体のインドデスクを仰せつかり、新たな企画を提案・相談している。例年通りの渡航・対面の機会を待ち続けた昨年に省み、当初から完全リモートと割り切ってしまえば時間も予算も労力も違う割り振りができる。決して潤沢ではない財政下、予算が得られた事業には担当部局も肩に力が入る。故に時として、目新しい効果よりも万事恙なく、来年度も継続する為の無難な施策が優先されがち。平成か昭和からの伝統的な手法をアップデートする好機だが、企業側の期待も無料か格安のガイド程度とすれば、エコシステムの再構築は大仕事になる。

 そんな企画を通じて日本企業に引き合わせるインドの事業者は、日本の基準に照らせば中小というより零細の部類。概ね金はないか、多少あっても安々とは出さない。英語とネットは日常生活の一部だから、手掛ける事業分野については常に世界を見渡してネタを探している。真偽の曖昧な情報でも朝の挨拶代わりに仲間内でシェアされ、更なるリサーチや事業化検討が随時進められるから、島国の伝統的な業界構造に生きる日本企業と目線を合わせるのが一苦労。何をするにも当事者同士で直接の確認・交渉を基本とするコミュニケーションスタイルも、メールを多用する日本企業には馴染まない。いつでも直電、その時その場で話して納得させないと進む話も進まないから、Verbal Communicationが欠かせない。

 グローバル化が謳われて久しい日本、“リモート” が前提なら居ながらにして世界と戦う情報も体制も得られよう。現地渡航が叶わないのは “検討を先延ばしにする” 理由にならないから、むしろ今のうちに、実需に溢れ世界を知るインドで技術や経験を活かす余地を探っておきたい。声を掛ければ即座にトライアルの申し出もあるだろうから、眼力・胆力をもって時機を逸さない判断も求められる。上意下達のメッセンジャーは相手にされないから経営レベルの直接的な関与が必要だ。それとも、例えリモートだとしても、まだインドには近寄りがたいだろうか。

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