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モータースポーツは「道楽」か?


初めに

この6月後半は様々な企業で株主総会が行われており、これまでの実績や役員人事の評決など企業の運命を左右する重要な会が集中している。

特に大企業にもなると新聞やテレビニュースといったメディアに取り上げられ、企業としての動向として報じられることが多い。

株主とは1株所持することで議決権を獲得でき、役員人事の評決や企業の方針の賛成反対の議決に参加することとなる。
株をどれだけ所持しているかによってその影響力は大きくなり、所謂大株主と呼ばれる人物(もしくは企業・団体)の一言だけで役員を解任したり企業の方針を大きく転換できてしまう。

現在、自動車関連のトピックは混沌を極めており、各自動車企業の株主は、その企業の動向に注目しているところであろう。
注目すべきは自動車会社7社への、国土交通省が行った特別監査によって型式指定の取り消しが相次いだ。
特にトヨタ自動車は子会社であるダイハツ工業といすゞ自動車の不正が立て続けに明らかになったことで、親会社としての責任が問われる事態が長く続いている。

今回の型式取り消しは、私自身とばっちりを受けていると感じており、国が定めた方式や条件、基準よりも厳しい条件で試験を受けていた企業が複数あったことから、国の基準がまだ緩い、厳しい条件での試験をパスした車が良い性能を変わらず発揮してきているので、国がらみの陰謀が特別監査の実施にこぎつけたのではないだろうかと考えている。

「国がらみの陰謀」と言えば深く知るところではないので、どういった思考のもとで動いたのかはわからない。
だが、一つ想像できるのは、販売台数世界一のトヨタが含まれていたことから、トヨタを含めた日本車企業を締め出したいと画策するところが意味の分からないとばっちりとでっち上げ、信用を失墜させようとしたのではないだろうかということ。
実際、世界的シェアを多く獲得しつつあったトヨタを、ヨーロッパ議会がEVのみの生産販売を認めるとして締め出しを測ったが、大失敗に終わっている。

これ以上は話がそれるのでやめるが、それだけ理由が明確ではなく理解できないということだけは言えよう。

トヨタの株主総会

株主からの詰問

話は戻すが、6月18日に行われたトヨタの株主総会がネット上で議論を呼んでいる。
それは「モータースポーツは会長の道楽ではないか?」という株主から飛んできた質問である。

これは実際に取り上げたメディアによる悪意ある切り抜きがされていると思われる部分があるが、実際に株主からされた質問文は以下の通りである。

「認証不正報道でショックを受けて。内部統制が効いていなかったり、ガバナンス不全ではないか。背景にあるのは、モータースポーツはじめ様々な取り組みに時間を使い過ぎではないか。モータースポーツの取り組みが会長の道楽になっているのではないか」

ベストカーWEB記事より  

「度重なる子会社の認証不正、そして自社の認証不正と続いてきたトヨタには親会社としての責任があるのか、モータースポーツへ遊び惚けているせいで内部情勢に疎くなってしまったのか」と問うた質問だ。

ここ1年半、章男会長は度重なる不正報道によって頭を下げ続けている。
株価の下落や販売不振が出始めていることなどから、章夫会長の会長職再任決議も前回よりも賛成ポイントが10数%下落している。
今回の株主総会でも開始冒頭に謝罪を行った上で総会を実施している。

この質問に章男会長は、

「私が考えるガバナンスは、支配や管理ではなく、1人1人が自ら考え、動ける現場をつくることだと思う。私の存在や行動によって、院政や道楽と言われてしまう。院政を調べると、昔、後三条天皇が摂関政治から脱却するために、早く引退して政治を行う事がきっかけになったとある。
院政とは老害というネガティブなイメージはあるが、本来の意味は、新しい時代を切り拓くもの。執行メンバーに言っているのは、責任を取るのは私、決めて進めるのは執行メンバー。いつでも相談に乗ると言っている。
私が執行メンバーが決めたことを後から修正したりすることはない。私は前工程として、相談に乗ることにより、私の失敗体験を糧にし、若い執行メンバーに思い切ってチャレンジしてもらいたい。それを院政というのであれば、院政をやる。」

ベストカーWEB記事より

と、これまで築き上げてきた社内との硬い結束力を示し、あくまで実行に移すのは下の執行メンバーや社員であり、責任や汚名は全て会長が負うという明確な回答をした。

だが、章男会長がモータースポーツへかける思いというものは、どこの誰よりも情熱的で大きなものである。

次項でその真相を記す。

「モリゾウ」としての意気込み

モータースポーツへかける情熱的な思い

トヨタは今、国内外の様々なレースカテゴリーに参戦し、多くの結果を残してきた。

昨シーズンではWEC、WRC、SUPERGT、スーパーフォーミュラ、スーパー耐久を制覇し、WECでは5シーズン連続、WRCでは3シーズン連続でチャンピオンに輝いている。
特にWECでは開催された7レース中優勝6回2位1回という絶対王者の称号を欲しいままにしている。

今シーズンでは平川亮、宮田莉朋の二人をフォーミュラ界へ送り出し、平川はマクラーレンF1チームのリザーブドライバーに就任、宮田はF2に参戦と目覚ましい成長ぶりを発揮している。

彼らの活躍から「トヨタがF1に復帰するのではないか?」という予測まで立てられ、いずれF1に日本人ドライバーが複数人参戦する可能性が出てきている。(トヨタのF1復帰は現段階ではないと章夫会長は否定している)

国内外問わず、多くの優秀なドライバーを抱え、自身も「モリゾウ」名義でマシンへ乗り込む章男会長。
その情熱的な思いは誰一人敵わないと私は思う。

章男会長は「モータースポーツは人とクルマを鍛える最高の場」と考え、多くのスタッフ、メカニック、エンジニア、ドライバーを育成しており、多くの経験値を積んでもらうために、全国の店舗や工場に在籍する社員を招集しクルーとして参加させている。

モータースポーツの普及にも力を注いでおり、積極的に前へ出る姿勢でスーパー耐久の運営を行う一般社団法人スーパー耐久未来機構(今年6月よりスーパー耐久機構より体制変更)の理事長に就任し、過去には将来の技術を携えたクルマ作りを行うST-Qクラスの新設に尽力するなど、モータースポーツにおける近年の貢献度は非常に高い。

「音のあるレースの継続」をかかげ、水素エンジン車の開発などを自社で行い、カーボンニュートラル燃料の開発にも手を貸している。

こういった類まれのない野心や情熱を「クルマ好きおじさん」として心血を注いでいる。
断片的に見ても一つ一つが完成度が高く、新たな試みへの挑戦が尽きていない。

師匠の存在

このようなクルマやモータースポーツに懸ける思いが形になっているのは章男会長が師事する師匠の存在が一番大きいとされている。

成瀬弘氏、章男会長の運転の師匠である。

成瀬氏はトヨタのテストドライバーとして長年活躍され、LEXUS LFAやアルテッツァなどを歴任。
マスターテストドライバーとして君臨し、ドライビングドクター、ニュル・マイスターなどと称される人物である。
2010年にニュルブルクリンクへ向かう道中、交通事故に巻き込まれこの世を去っている。

章男会長は常務時代の2002年に成瀬氏と出逢い、弟子入り。
出逢った直後は「運転のことも分からない人に、クルマのことをああだこうだと言われたくない」「月に一度でもいい、もしその気があるなら、俺が運転を教えるよ」と言い放ち、車づくりへの意識改革のきっかけを作った。

時間があるときは常にドライビングを成瀬氏と共に行い、その腕をメキメキと上げていき、章男会長自身もテストドライバーとして一人前になるまでに成長した。

成瀬氏の思想の中に「理論よりも実践」というものがあり、章男会長もかなりの影響を受けている。
数値では表せない、より繊細な乗り味を追求するためにデータや理論よりも実践と経験を重視した。

この成瀬氏の思想を章男会長が受け継ぎ、今日のモータースポーツ現場に活かしている。

章男会長は何度も足を運んではクルーにねぎらいの言葉をかけると共に、「理論より実践」を説き続け、また自身もそれを体現するようにドライバー「モリゾウ」としてレースに参戦し続けている。

メーカーの垣根を超えた関係づくり

今年に入ってからのモータースポーツ関連のトピックの中で、メーカーの垣根を超えた事例が増えてきている。

直近で言えば、KONDO Racingの監督でありスーパーフォーミュラの運営団体JRPの会長でもある近藤真彦氏のスーパー耐久スポット参戦だ。

普段は日産との結びつきが強いが、スーパーフォーミュラではトヨタ系車両を用いて戦う近藤氏は、スーパー耐久富士24時間耐久レースに参戦する水素カローラ(ST-Qクラス)にゲストとして参戦することが検討段階で進んでいると開催前に報じられたことがある。

また、先述した平川と宮田の件や日産系ドライバーのスーパーフォーミュラ試験車両のドライバー就任などと数が多い。

これからの自動車業界を突き進んでいくためにはメーカーによる人事の囲い込みだけでは破綻してしまうことを見込んだと思われるが、メーカーの囲い込みが激しい日本のモータースポーツ界に待ったをかけた状態であることには間違いないだろう。

ドライバーが乗りたいマシン、気に入ったチームに、縛りなく自由に行き来できる将来も近いかもしれない。(海外では結構当たり前で、日本が遅れているということにようやく気付いた形なのか?)

モータースポーツは「道楽」なのか?

前項では師匠から受けた影響と並々ならぬモータースポーツへの情熱的な思いについて触れたが、ここからは私の考えを述べよう。

私の車趣味に、この章男会長の存在がある。
私の尊敬する人物の一人で、常に「良い車づくりとは何なのか」「現場と市場を繋ぐ架け橋」「モータースポーツの普及」を考え続けている会長は、私も影響を受けている。

私の考えるモータースポーツとは「最高の実験場であり、顧客へ一番影響される分野」である。

実際、モータースポーツの現場で取り入れられたパーツやエンジンは、最終的に市販車へフィードバックされることが多い。
乗り手を選ばない、最高の車を作り上げるには最高のドライバーからの試験と評価が必要になると私は思う。

だからドライバーのレベルは常に高いところになければならないし、ドライバーを鍛錬する義務がメーカーにはある。

章男会長が社長時代の2018年にROOKIE Racingを創設した際も、本人の給料から運営されているとしている。
ROOKIE Racingは次世代のメカニックやドライバーを育成する目的で活動しており、積極的に若い人材を取りいれている。

そういった「育成」という面でROOKIE Racingは最適な場所であり、私の考えるモータースポーツに合致している。

だが、先日の株主総会では自費を投入している点やドライバーとして多くの活躍をしている点が質問した株主にとって疑問視され、くぎを刺そうとした部分なのではないだろうか。

確かに株主もとい一般消費者には、会社の事情を差し置いてレースに心酔しているのはいかがなものかと感じる部分があるのはわかる。
しかし、レースが人をクルマを環境を鍛えている実績があって、世界が一歩ずつ変化している実感が湧いていると感じないだろうか。

今起きている自動車の大変革に立ち向かうこと自体、勇気が必要で、一人で旗役を務めていると感じるのは章男会長ただ一人だと私は思う。

結論、モータースポーツは「道楽」ではない。

モータースポーツ自体、歴史から見れば貴族や金持ちの遊びから発展したこともあって、そう捉えられるかもしれない。

そこには人が人を作り、人が車を鍛える環境が出来上がっている。
全ては人なのだ。

遊びでやっているのなら、飽きればすぐにやめる。

しかし、昨今のROOKIE Racingの成長ぶりを見ていて、これは単なる遊びではないことは一目瞭然である。

ただレースに勝つだけではなく、人を育てる環境であり、その仕事ぶりを外から見物できるガレージを即決で作り上げている。

人が育つので言えば、人が育つことで勝利を手繰り寄せることが出来る。
クルーが未熟であればあまり良い結果は期待できないだろう。
人が人を育てることで勝利への法則や勝ち筋というものが見えてくるし、勝つためのアイデアが無限に湧くだろう。

それが私の考えであり到達点に近い。

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