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黒川洋司「世界平和はお母さんの幸せから始まる」

2021年12月5日に開催された「TEDxAwaji 2021」に登壇した黒川洋司さん(株式会社良心塾代表取締役)によるスピーチの文字起こしです。

皆さん、こんにちわ。
私は少年院や刑務所を出られた方の自立を支援しています。
良心塾の塾長をしています。
なぜ僕がそのような方々の支援をしているのか、少しお話させていただきます。
私は大阪市城東区で生まれ、現在50歳です。
母親は鹿児島の薩摩川内で生まれ、20歳の時に大阪に出てきて父と出会い、僕を黒川家の長男として産んでくれました。
母は僕のことを本当に愛して可愛がってくれました。
やりたいこともやらせてくれました。
そんな母が少しだけ豹変する時期がありました。
おそらくお父さんの女性関係が原因でイライラしていたのだと思いますが、今まで見たことのない形相をして、時には僕を叩くフリをして何かしようとするとそれを止めようとしてきました。
僕は母の変わりきった形相がすごく寂しくて布団の中で泣いていたのを今でもよく覚えています。
父は家に帰って来なくなり、離婚することになりました。
母は昼はパート、夜は内職をして僕たち兄弟を養ってくれました。
母はその頃からイライラしたり僕たちに当たってくることは無くなりました。
そんな中で僕は母の優しい愛に包まれながら楽しい小学校生活を過ごすのですが、母の愛とは反対に僕は中学3年生くらいから不良少年になってしまいました。


夜は暴走、窃盗、気に食わないことがあれば喧嘩。
本当にとんでもない若者でした。
社会に出てからも仕事がまともにできず、最悪な方向に行ってしまいます。
暴力団、覚醒剤使用。
暴力団を辞めるために小指を自らちぎりました。社会人なのに傷害事件を起こして逮捕され、そのまま裏社会に身を置いていた時期もありました。
そんな僕に転機が訪れたのは当時、付き合っていた8歳年下の19歳の彼女を妊娠させてしまったことです。
さすがに僕も責任を取らないといけないと思って結婚することにしました。
その時の子どもが現在22歳、大学4年生になっています。
それから2年後に僕は経営者になりました。
経営者になった目的はお金儲けがしたかっただけです。
人に使われるのが嫌というだけの利己的な理由で会社を興しました。
美容室を経営したのですが、なんと大成功してしまいます。
1号店、2号店。スタッフも10人、20人。
売り上げもどんどん伸び、お金も入ってくる。
僕みたいなバカが楽してお金を儲けて成功してしまうとどういうことになるか。
病に罹ってしまいます。
傲慢という名の病です。
何でも自分でできる。お金が全て。
この頃は本当にそう思っていました。


35歳の頃です。
この傲慢極まりない僕の考え方や生き方を変えざるを得ない出来事が起きます。
1本の電話が鳴りました。
「あなたのお母さんの意識が無くなりました。
今すぐ病院に来てください。」

僕は何のことか分からず慌てて病院に向かいました。
すると集中治療室に母が横たわっていて僕が泣こうが喚こうが今までの親不孝を詫びようが、母はぴくりとも動きません。
そのままオカンは一度も目を覚ますことなく、平成18年12月30日に永眠しました。
59歳の若さで亡くなりました。
僕はその時、余りにも突然の出来事と今までの自分の行いが情けなくて申し訳なくてオカンに会いたくてご飯も食べれなくなりました。
1ヶ月で7キロも痩せました。
毎日、泣きました。
でもオカンは帰って来ないです。
生き返らないです。
その時ふと思いました。
よく考えたらオカンはこんな僕を最後まで愛してくれていつまでも心配してくれていたな、と。
そんなオカンが今の俺の姿を見たら絶対に悲しむし、喜んでくれないだろうと思いました。
残りの人生くらいはオカンに恥ずかしくない生き方、オカンに「洋司、頑張ったな」って言ってもらえるような生き方をしようとこの時、初めて決意しました。
でも、僕は本当に頭が悪いのでどうやって変わったらいいのか分からないんです。
何でもいいと思って良いことは全部やりました。
靴を揃えてゴミを拾って便所掃除をしました。
読んだことのない本も読みました。
経営を学んだり人間道を学べる塾にも入りました。


そして僕の運命を大きく変える天明の出会いになる「職親プロジェクト」の発足メンバーとして参加することもできました。
職親プロジェクトに入って9年が経ちます。
今まで50人近くの若者と出会ってきました。
皆さん、少年院出院者と聞いてどういうイメージを持ちますか?
殺人した人、ナイフを振り回した人、暴力団関係者、僕みたいな怖いお兄ちゃん。
僕も僕みたいな人が来ると思ってました。
でも良心塾にはそんな怖いお兄ちゃんは来ませんでした。
子どもの頃に虐待や育児放棄を受けて自分の居場所がなかったり生きる希望がなかったり明日、死にたいと思っていたり自分の身体にリストカットを何本もする人もいました。
多い子は100本以上もしてました。
僕はその姿を見て衝撃でした。
僕らの時代に他人に暴力を振るう若者、いわゆるヤンキーはたくさんいましたが自分の身体を傷つけたり「少年院を出たくない」「死にたい」と言っている若者は少なくとも僕が不良をしている時はいませんでした。
良心塾に来た子どもたちの共通点は全員が虐待経験者であり、多くが児童養護施設出身者であり、大人や社会に振り回されて自分だけが少年院に入ってしまう子たちばかりでした。
これは僕が生まれた頃の写真です。
生まれたばかりの赤ちゃんに悪い子っているんでしょうか?
自尊心が低く夢や希望、やりたいことがない幼稚園児っているんでしょうか?
僕はいないと思います。
みんな真っ白、純粋無垢で可能性の塊で生まれてくると思います。
そんな時に熱湯をかけられたり1週間、ご飯を抜かれたり全てを否定されたり毎日、殴られたり首を絞められたり。
どうでしょうか?
子どもの頃にそういうことをされたらどんな気持ちになるのでしょうか?
夢や希望を持てるでしょうか?

この絵には猫が220匹います。
男の子が描きました。
彼は凶悪犯罪をして少年院に入りました。
僕は少年院の中で彼と出会いました。
小学校1年生から中学校1年生まで母に「学校以外の外出は禁止」と言われており、宿題や課題ができないと毎日、殴られ酷い時には包丁を突き付けられたことが何回もあるみたいです。
そんな彼が僕に衝撃的なことを言いました。
「中学1年の時に母はガンで死んだ。
嬉しくて嬉しくて笑いを堪えるのが必死だった。」

13歳の子どもが命の根源である自分の母が亡くなった時にこう言ったんです。
僕は35歳で母が亡くなりました。
7キロ痩せました。
今でもオカンのことを思い出すと涙が出てきます。
お金を出してオカンと会えるならいくら出しても会いたいです。
彼は良心がないのでしょうか?
本当に悪いのでしょうか?
僕はお母さんの愛が欲しかったんだと思います。
1人で寂しかったんだと思います。
いろんな人に誰かに助けてほしかったんだと思います。
でも、助ける人は1人もいませんでした。
孤独でした。
そんな彼は今も社会に適応できず、自尊心も低く、生きづらい人生を送っています。


もう1人だけ紹介させてください。
20歳の時に養女にした子です。
彼女は現在、僕が運営しているお節介な居酒屋「結笑和」で女将をしています。
彼女と出会ったのは17歳の頃、少年院の中でした。
子どもの頃に母親や義理の父、社会に振り回されました。
居場所がなく毎日「死にたい」「助けて」といつも心の中で叫んでいたそうです。
そんな彼女が僕に会った時こう言いました。
「私の人生は大人の奴隷。
趣味はおじさんを騙すことくらい。」

僕はその言葉を聞いた時こう言いました。
「確かにそうかもしれん。
今まで見てきた世界は面白くない、夢も希望もない世界かもしれん。
でもな、俺も35歳から生き方や考え方を変えたら今まで見たことない人、知らなかった仕事、世の中にこんな人がいるんだっていうことを初めて知ったんや。
自分がどれだけ狭い視野の中で生きてきたかを35歳になって知ったんや。
だからな、これから俺がいろんな人に会わせるから黙ってついてきてくれ。」

それから僕は彼女がこれまで体験したことのないことや出会ったことのない大人、かっこいい生き方をしている大人、人の為に時間を使える大人に会ってもらいました。
仕事もいろんなことをやってもらいました。
笑うようになりました。
そして彼女は2年前、お母さんになりました。
現在、1歳9か月の子どもとお腹の中に9ヵ月の赤ちゃんがいます。
皆さん、どうですか?
この子は夢も希望もない大人になるでしょうか?
寂しい少年時代を過ごすでしょうか?
僕は絶対にないと思います。
母親の愛に包まれ、母に出来ないことを僕たち血の繋がらない家族、仲間みんなでサポートするからです。
なので、この子が人を殺めたり傷つけたり夢や希望のない大人になることは絶対にないと確信しています。


これまで紹介してきた僕たち3人の違いって何ですかね。

僕はオカンから無償の愛をもらいました。
祖父母や周りの人にいっぱい助けてもらいました。
なので僕はいつでもチャレンジする力強さがあります。
子どもを虐待しているお父さん、お母さんは本当に悪い人でしょうか?
寂しいんじゃないでしょうか?
もしかしたら自分も愛を受けなかったのではないでしょうか?
もしかしたら経済的にかなり行き詰っているのではないでしょうか?
今の日本って子育てがしやすい社会でしょうか?
虐待してしまう親も何らかの理由があると思います。
それを皆でサポートしていけば僕は虐待だけでなく、自殺も犯罪も戦争でさえもなくなる社会になる、そのための1歩がお母さんの笑顔だと思うようになりました。
お母さんが笑っていると子どもは幸せなんです。
僕は裕福ではなかったですが、本当に幸せな幼少期を過ごさせていただきました。
お母さんの愛に溢れて育てられた男の子は命を尊び、女性を大事にするお父さんになります。
母の愛を無償に受けた女の子は自分の子どもにも愛を伝えて立派なお母さんになってくれると思います。
社会問題に目を背けていませんか?
知らないふり、自分には関係のないことだと思っていませんか?
世界は繋がっています。
キング牧師も言いました。
「善人の沈黙と無関心が最大の問題だ」
僕も本当にそうだと思います。
だから僕は悪人ではない、知らない大人たちもみんなで巻き込めるように淡路島に2年前に無農薬の農園を開きました。
良心ファームと言います。
ここで今まで関心のなかった人、幸せになりたいお父さんお母さんを巻き込んでいきたいと思っています。
最後になります。
「世界平和はお母さんの幸せから始まる」
僕は今、確信して言えます。
命の根源であるお母さんから産まれてきていない人は誰一人いないはずです。
お母さんがいつも笑顔で子どもと楽しく過ごせる社会をみんなで一緒に創っていけたら、いつかはその子どもたちが世界の平和を築いてくれるんじゃないかなと思います。
今日は僕の話を聞いていただき、ありがとうございました。
これからもどうぞよろしくお願い致します。

https://youtu.be/UBOvBAClLI0

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