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いっちょ食いの由来を知って、ちょっと落ち込んでしまった話

「いっちょ食いはやめなさい」
小さい頃に母親に言われたことである。
どうやらこれは方言らしいので解説すると、食卓に並んでいるご飯やおかずを交互に食べずに、一皿ずつ片付けながら食べることを意味する言葉だ。一般的には「片付け食い」とか「ばっかり食べ」と呼ばれるようだ。
これに対し、ご飯やおかずを交互に順序よく食べるのを「三角食べ」といい、こちらが日本の食事作法において正しい食べ方とされている。

どうしてこんなことを言い出したかというと、10歳と7歳になる息子たちがそろっていっちょ食いをするからだ。何年も前からシツコク注意しているのだが、ちっとも直らない。
「君のお友達もそういう食べ方するの?」と聞いたら、「うん」と返ってきた。なるほど、直らないわけだ。

どうやったら矯正できるのだろうと思ってネットで調べてみたら、最近いっちょ食いをする子供達が増えて話題になっていることを知った。

記事の中にはどうしていっちょ食いの子供が増えたのかいくつか理由が書かれているが、僕個人としては、「薄味のものが増えたので口中調味の必要がなくなったから」というのが最もそれらしく聞こえる。

思い返せば、僕が子供の頃のおかずは何でも塩辛かった。鮭の切り身なんて固いし、塩っぱいし、僕はあまり好きじゃなかった。だから初めて生鮭を食べた時は「鮭ってこんなに美味しい魚だったんだ!」と衝撃を受けたのを覚えている。

あの頃に比べると、どの食べ物も薄味になったなと感じる。どうしてだろうと考えたとき、パッと思いつく理由は二つ。
一つは食品の流通技術の進歩だろう。どうして鮭の切り身があれほど塩辛いかというと、塩分濃度を上げて腐りにくくするためだ。でも低温で鮮度を保ったまま流通ができるなら、わざわざ塩辛くする必要なんてない。こうして塩漬けにした食品の取り扱いが徐々に減っていって、食卓に登る機会が少なくなって、全体的に薄味になったのではないか。

もう一つは、健康上の理由から塩分を避けるようになっているからだろう。スーパーの棚を見ると「減塩」と書かれた商品が目立つし、お惣菜もあっさりした味付けが多い。まぁ、これならご飯なしでも食べられちゃうんだろうなぁと思う。

でもここで、ふと疑問に思ってしまったことがある。
三角食べっていつからの作法なんだろう? 明治時代? 江戸時代? それとも室町時代とか鎌倉時代? 

そもそも昔って、三角食べができるくらいおかずは豊富だったのか? 宮沢賢治の「雨ニモマケズ」にだってあるじゃないか、「一日ニ玄米四合ト味噌ト少シノ野菜ヲタベ」と。

初めてこれを読んだとき「四合も食えるかよ」と思ったけれど、おかずがないから玄米をたくさん食べて栄養を取るしかなかったと考えるのが自然だ。
雨ニモマケズが書かれたのは昭和六年と推定されている。ということは、昭和に入っても日本人はご飯をいっちょ食いする食生活を送っていたことになる。

ムムム…と思っていたら、三角食べの記事があった。
さすがWikipedia。

この中に衝撃的な一文を発見。
「1970年代、主に東日本の学校において、給食の食べ方についての指導が行われるようになった」

ハァ? 1970年代? 
マジかよ、三角食べって俺が生まれた頃に作られたものだったのか…。
と、一瞬落ち込みにも似た感情を抱いてしまったと同時に、大事に守り続けなければいけないものなんて世の中に一つもないんじゃないか、なんて気もしてきた。

なんだか疲れも感じてきたし、もういいや、今日はこれくらいにしよう。

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