見出し画像

息子と移り気な暴君

チョーバン、リューバン、ジューキャク、リューキャク。
お経でも唱えているのかと10歳になる長男に訊ねたら、恐竜のグループだと教えてくれた。じゃあティラノサウルスはと聞いたら獣脚類だと即答された。「ゴホン!といえば龍角散」くらいの早さで。

小さい頃の僕がそうだったように、やっぱり男の子は恐竜が大好きだ。けれども最近は恐竜の研究が進んでいるからか、彼らの「好き」は僕たちに比べて遥かに専門的かつマニアックだ。

長男に将来の夢を聞いたら、恐竜の研究者になることだと返ってきた。ここまでなら僕の時代と一緒だ。でも長男は「そのためにまずは動物のお医者さんになる」のだと言う。僕には彼の言うことがよく分からなかった。獣医学は家畜や野生動物などを対象とした医学だ。恐竜のような昔の生き物について勉強したいなら古生物学じゃないのか?

不思議に思って「なんで獣医?」と質問したら、「今の動物に詳しくないと昔の動物のことなんてわからないでしょ」と言われ、「なるほど」と思った。

カバの頭蓋骨

例えばこの頭蓋骨。
この持ち主はと言うと、

カバ

カバである(ネットを通じてご存じの方も多いかもしれない)。
この事実を知っていても骨から容易にカバを想像することは難しそうだが、今いる動物の骨格や体の作りについて多くの知識を持つことは、恐竜の姿を想像する上で大いに役立ちそうだ。

他にも、ワニにヘリウムガスを吸わせ、爬虫類が鳴く仕組みを解明した日本人にイグ・ノーベル賞が与えられたというニュースがあった。

恐竜も爬虫類の仲間だから(長男からは鳥類でもあると注意を受けそうだが)、この研究をきっかけに恐竜は本当に鳴いていたのか、だとしたらどんな仕組みで鳴いていたのか、などが分かるかもしれないのだ。

こういったことに加えて、動物の疾病や身体的特徴から来る持病といった獣医学の知識があれば、恐竜の生活をよりリアルに再現できるかもしれない。だから彼の言うことはそんなに的外れでもなさそうだ。

そう考えたら面白くなってきたので、僕は「恐竜博士になったら、ティラノサウルスについて研究してよ」とお願いした。コイツほど僕ら70年代キッズの心を鷲掴みにし、かつ現在進行形で振り回し続けている恐竜はいないからだ。

他の生き物を襲って食べるという「暴君」の名にふさわしい生活を送っていたとされる一方で、鈍足だとか、倒れたら二度と立ち上がれないとかいう理由からスカベンジャー(死肉喰い)だったという説も根強い。

また「実は羽毛があった」とも言われていて、この説は年々確実性を増しつつある。

羽毛のあるティラノサウルス

こんな興奮したオジサンのお願いに対して、長男は「ああ、まぁいいけど」とクールだった。
彼の言うことをまとめると、生態にしろ羽毛の有無にしろ、それは恐竜という種全てを対象に研究した結果明らかになってくることであって、ティラノサウルスという一つの種だけを徹底的に調べたところで分かることではないのだそうだ。

実際のところはどうなのかわからないけれど、妙に説得力のあることを言われて、さすが未来の恐竜博士だなぁと感心した話。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?