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【創作】転生林檎(2024.10.03)

8万回転生した。

7999回目の転生で、やっと転生の理由とメカニズムを理解したけど、なんとなく惰性で8万回目の転生をしてしまった。でももう転生はやめようと思う。

転生していた原因はあの林檎だ。あの不自然に青い林檎。私が辛い時、生きる事に行き詰った時、いつも傍らにあのパステルカラーの林檎があって、私はやけっぱちな気分でその林檎をかじっていた。そして気が付くといつも転生していた。

転生する前後の記憶は不思議になくて、そういえば私以外のみんな(何度も繰り返す人生の中で会った何十億人もの人たち)も生まれる以前の事は覚えていなかったから同じようなものかもしれない。

「あれ、これ転生してない?」と気が付いたのは多分転生が6万回超えたあたりで、それに気が付くと転生してきた記憶が少しずつ蘇ってきた。「ああ、私は本当に色んな世界で生きてきて、毎回いつも行き詰ってるんだなぁ」とぼんやり思った。毎回行き詰って、林檎食って転生して。

8万回の転生の中で私は宇宙人に侵略されたり、侵略もした。百獣の王になれば、ダンゴムシになる事もあった。小惑星でひとりぼっちの人生もあったし、200兆もの人たち(その時の人間はイカみたいな姿で言葉にたよらないコミュニケーションが可能だった)の頂点に立つ絶対君主となった人生もあった。

でも結局ちゃんとまっとうした人生はなかった。いつも行き詰ったら傍らにポンとあの青い林檎があって、私はそれをかじって転生していたからだ。

今私は再び人生に行き詰っている。そして傍らにはやっぱり青い林檎が転がっている。林檎の周りには様々な時空が入り乱れて歪んでいるのを感じる。

「これを食べればまたリセットできる」と私は思ったが、ちょっと今回は踏みとどまってみる事にしようと思う。だっていざとなれば林檎食って転生すれば良いわけで、でも転生したからって、だいたいいつも行き詰るんだから、だったら一度その行き詰った向こう側へ行ってみてもいいんじゃないかと思うのだ。

私は再び宇宙船に乗り込み、次の瞬間ワープした。3万光年先の私の星の人類は今まさに戦争と飢餓と異常気象と謎の疫病で死滅してしまいそうなのだ。しかし私は私の現実と今度こそちゃんと向き合おうと思う。

さようなら、転生林檎。




テルテル子さんの企画に参加しました。テルテル子さんのご友人が元気を取り戻せますように。あと、転生に対する私の願望というか、夢が詰まってます。書いてて楽しかったです。

ありがとうございました。

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