見出し画像

『賢い人の秘密』賢者の思考法その6(証拠)

はじめに

「実体・意味」において、推論の対象やそこから抽出できる意味合いについて正しく捉えることの重要性を説明させてもらいました。これで推論が完璧に行えるかというとそうではありません。
ボタンを掛け違えるかのように入り口を間違えると、推論はまったくもって意味のないプロセスに成り下がる可能性があります。
その最後の防波堤であり、推論の入り口となるようなものが「証拠」になります。

この本の立ち位置は

なぜ賢者の思考法としてアリストテレスに着目しているのかについては、『賢い人の秘密』賢者の思考法その1(演繹)の内容をご確認ください。

証拠とは

本日のアウトプットである「証拠」とは何かというと、主張や推論を支える前提となる考え方や論拠となるようなデータのことを指し、ここがおかしかったら主張や推論も全く意味をなさないですよねって話です。

それを表現するエピソードとしてこんな話があります。

女性「今後はお小遣い制にする感じだよね?」
男性「それでいいと思うよ」
女性「基本的に食費+αくらいだと思うから、一日500円とか?」
男性「うーん、もう少しあっても問題ないんじゃないかなと思うけど」
女性「じゃあ、一日800円とかでどうかな?」
男性「分かった、月初に2万4000円渡すって形でいいかな?」
女性「え?」
男性「え?」

前提がズレたコミュニケーション

この場合、女性は「女性が家計を握るべきだ」という前提があり、男性は「男性が家計を握るべきだ」と考えていて、そこをすり合わせずにお互いが主張することによって話がズレてしまっています。
そのため男性がお小遣いを月初に渡すという運用で、という具体的な話になったタイミングで認識に齟齬があることが初めて分かったという内容です。つまり「お小遣い(対象X)は月24000円が良い(主張Y)」という話において、どちらが家計を管理するのかという「前提」がずれてしまっていることが問題でした。

これはまだ分かりやすい例ですが、より多くの関係者がいて、利害関係が複雑になってくると、具体的になったとしても問題点が分からないことなんてざらにあります。

また様々な証拠が主張Yを支える形になります。ですが一つの論拠をとってもどのように主張Yを支えさせるかは個人の考え方に依存します。
お小遣いの話であれば、「お小遣いの平均は〇〇円/月」という論拠があるとしたさいに、その額面通りにすべきだという意見もあれば、給与総額が平均の〇倍だから、お小遣いもそれと同等の倍率がかかるべきだとも言えます。
結局どんな論拠であっても、解釈の仕方で主張Yは変わってしまいます。

つまり、一番大事なことは、前提に何が置かれているのかや、論拠をどのように解釈したのかという判断基準に関してのすり合わせを徹底できるかどうかが推論を機能させられることができるのかを決めると言えます。

賢者の思考法 その6 証拠
(内容をもとに自身で作成)

賢くなるための”論拠”とは

議論をする際や自分自身が何かしらの主張をする際に、その内容が導き出されるに至った前提や論拠の考え方に、認識のズレがないかを気にすることができるかが重要になります。
顧客との打ち合わせをしていても、議論している内容がすり合っていない内に、話を進めてしまう人が多くいます。そういう場合において、大体が後々でそこがすり合っていないことにより、クレームに発展したり、納期直前でバタバタする羽目になってしまいます。

大事なことは、自分の持っている前提や論拠をいったん取っ払って考えることです。何かと顧客や相手を勝手に評価してしまいがちな人が多いなと思いますが、評価をしてしまったタイミングこそ0ベースで考えることを意識づけしていただければと思っています。

例えば、このお客さんはもう受注できそうだなと思った際に、そう考えるに至った論拠が何だったかを検証してみてください。SPINが聞けているから?予算を確保してもらえたから?稟議を上げてもらえたから?申込書の作成を依頼されたから?様々な論拠をもとに受注できそうだと考えていることが分かると思います。
その一方で、本当にその論拠をその通りに読み取っていいのかを再検証してみてください。稟議あげられたというのも、ほかの会社とセットで挙げられている可能性があるのであれば、それは自社に決まる論拠とは言えません。
特に営業という役割においては、ここの望ましいストーリーにならないかもしれないという想定をいくつおけるかが、受注を確実に引き寄せるために必要な観点になります。

相手がどんな前提を持っていて、その前提でどんな論拠を解釈して、主張に繋げているのかについて、解像度高くコミュニケーションを捉える練習が重要になります。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?