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ウェブで本屋をはじめました

「いつか本屋を開きたい」という夢を持ち一年。実店舗へのオープンにはまだ時間がかかりそうで、でも、今やれることから少しずつでも始めていきたい、そんな思いからこの4月、まずはウェブストアでの本の販売を始めました。

以前からお話ししていたりもするので、すでに知ってくださっている方もいるかと思いますが、2023年4月から「Yamamoto Market」という屋号を定め、本屋を開くための活動とライターのお仕事を並行して進めています。

きっかけはいろいろありまして。そのことや今の思いを少し詳しく書いていきたいと思います。
(一年前にも同じようなことを書いているので、重複しているところもありますが、良ければお読みください)

私の母の里は高知県四万十町にあります。彼女の両親、私の祖父母は彼らが若い頃から「本屋」を生業にしてきました。「本屋」と言っても、本だけを取り扱っているわけではなく、田舎の町で見かけるような、文房具や野菜の種なども販売している、ちょっとした商店のようなイメージの本屋です。

小さな頃の私は、夏休みを利用して神奈川から本屋を営む高知の祖父母の家に遊びに行くことが大好きでした。遊びに行く度に、優しい祖父が「どれでも好きなもの取っておいで」と声をかけてくれ、文字を書いたり折り紙を折ったりすることが好きだった私はいつも心が踊っていました。祖父と一緒に店番をした時間は、今でも私の中のあたたかな記憶として残っています。そろばんを弾く真似をしてみたり、祖父の代わりに店のイスにしばらく座り、お客さんが来たら奥で作業をしている祖父に「おじいちゃーん!お客さん!」と、お客さんの相手もろくにできない癖に、「手伝ってますよ感」をめいっぱいアピールしてみたり。留守番に飽きれば、料理が好きな祖母のもとに行き、田舎ならではの料理の下処理を手伝ったりして、神奈川では味わえない「田舎暮らし」を幼児期から味わっていました。そしてそれは、「幼児期の楽しかった思い出」で終わることなく、中学生、高校生になり家族全員で高知へ行くことが難しくなった時にも今度は一人、新幹線と汽車を乗り継ぎ、祖母の元を訪ねルようになりました。その頃の鉄道旅が楽しくて、就活生の時には鉄道会社を受験していたこともあるくらい、高知にはいい思い出しか残っていなかったのです。

優しくて大好きだった祖父は私が小学3年生の頃に亡くなり、その後は祖母が一人で細々と続けていた書店でしたが、書店としての機能だけではなく、地域の人たちが野菜を持ってきてくれたり、野菜の種を買いに来てくれたり、魚釣りが好きな近所のおんちゃんが魚を持ってきてくれたりと、段々と本屋は縮小されていく中でも地域の人との交流が続き、私の高知旅をいつも祖母と祖母を取り巻く環境がおもしろいものにしてくれていました。高知県内に住む叔父はよく「よう何日もおれることよ。なんちゃあすることないろう。30分おったらもう帰りとうなる」と、私が何日も遊びに来ることを不思議そうに話していました。私からすれば、なぜか何日いても楽しい日々が祖父母の家には詰まっていたのです。

23年間過ごした地元・神奈川県を離れ、私は、小さい頃の思い出が詰まった祖父母の暮らす四万十町の隣町・黒潮町へ引っ越し、今年で9年目を迎えます。黒潮町へ来てから7年間は役場の正職員として働き、昨年からはライターとして仕事をしています。そして、ライターをしながらこの一年抱えてきた夢が、「本屋を開く」ということです。

「祖父母の店を継ぎたい」とか、そんなたいそれた思いはなくて、そんな祖父母孝行ができるほどできた孫でもないのですが、私が今、高知での暮らしが大好きになり、高知での暮らしが神奈川にいた20年以上の月日よりも確実に自分を成長させてくれているのは、祖父母が高知県四万十町に生まれ育ち結婚し、小さい頃からその素敵な暮らしに触れさせてくれた両親がいたから。だから、そのきっかけをこの先に繋いでいきたいなと思っています。

「Yamamoto Market」という屋号は、祖父母が営んでいた本屋「山本書店」からきています。そのせいか、「Yamamoto Market」を名乗り始めて会う人には、私の姓も「山本」だと思われていることも。本当は岡本ですが、似ているし、まあどっちでもいいかと思いながら、心の中でニヤニヤしています。

祖父母の子どもは、私の母と母の姉、女2人でした。2人とも何十年も前に結婚し、今は「山本」ではない姓になっています。

93歳になる祖母が亡くなれば、「山本」という姓はこの世から消えることになります。それに対して、昔ながらの考えで「寂しい」とか「守っていかなきゃ」とか、そんなふうには正直思っていません。でも、なぜだか残したい、そう思っています。それは名前へのこだわりというよりも、私の「思い出へのこだわり」があるからだと思っています。

神奈川には親戚がおらず、たまたま親戚がたくさんいた地が高知で、その場所へ遊びに出かけることが特別で、高知の風土や人の性格、気候や食べ物が私にはとても合っていた。それがきっかけで、今、人間的に贅沢な暮らしをさせてもらっている。「山本書店」がくれたそのきっかけを、今度は私なりに未来へ紡いでいけるように、「Yamamoto Market」と名付け、私なりの高知での暮らしを育んでいます。

Yamamoto Market ロゴ

「本屋を開きたい」と思いライターをしながら生活をして一年。なかなか「ここだ」という物件に巡り会えなかったり、「ここだ」と思ってもその後がうまく進まなかったり。まだまだ前には進んでいなかったのですが、年末年始以降、「ウェブでの販売をまずはスタートさせても良いかもしれない」と思うようになりました。

それにはまた、高知で出会った人たちとの繋がりが影響していることもたくさんあります。

高知で出会った同世代の友人からの「ウェブでやったらいいと思っていた」という同意の声や、高知で出会った出版社の方の「黒潮町が好きというのは100%いいこと」という言葉、そしてその方が手渡してくださった本との出会い、いつもあたたかで丁寧な言葉をくださる方からの言葉、そして、日々変化のある日常の中で変わらず支え続けてくれる人たちの存在・・・


「ウェブで本屋って、やっぱり本屋らしくはないよな」とか、「ウェブで本を販売して売れるのかな」とか、不安や言い訳のような迷いはたくさんありながら、直接的にそのことを相談したわけではないですが、上記のような人たちとその人たちの言葉、存在が、「まずはやってみてもいいんじゃない?」という気持ちにさせてくれました。

実際、私はウェブで本を買うことよりも、やっぱり本屋に立ち寄り、本屋で本を手に取り、見て、読んで、感じて、本を選ぶ方が断然好きです。でも、ウェブでの本屋だって、黒潮町に住む私が運営する本屋だって、きっと何かしらの役目や出会いを提供できるはずだと、自信は無いながらに思っています。

いつか、実店舗が持てるように。まずはウェブを通じて、皆さんと、皆さんと本との出会いに、ちょっとだけ仲間入りさせてもらえるように。

「ウェブ、ウェブ」と言っていますが、年に数回はイベントへの出店も予定していますので、「本は絶対中身を見て選びたい!」という方も、その機会にお会いできれば嬉しいです。まずは5月1日〜6日、昨年も出店した「Tシャツアート展」(@砂浜美術館)に出店予定ですので、ご都合が合いましたらぜひ生でお会いしましょう。そして、ぜひウェブでの活動も見ていただけたら嬉しいです。

昨年のTシャツアート展

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