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【西川口】はじめてのアコム

12:30起床。最近寝付きが悪い。まだ脳が稼働しておらず、頭がズッシリと重い。眼疲労も残っており、目の奥がズキズキと痛む。何もかもが絶不調で、「今日はもう何もしなくていいや」と投げやりになりそうだ。

なんとか身体を起こし、拭えない気怠さを背負いつつ寝癖を付けたまま、チャリンコで西川口のアコムへと向かった。「平日の昼間・西川口・アコム」というダメ人間要素のフルセットで役満。そそくさと駅前の薄暗いビルに入り、アコムがある3階へと上がる。エレベーターの監視カメラはジッとこちらを睨みつけており、世間の冷たい視線のような圧力をかけてくる。悪いことはしていないのに、なぜか嫌な汗が吹き出てきた。

私は借金をしに来たのではなく、ACカードを取りに来ただけだ。ACカードとは、日本円を海外貨幣に優良レートで両替してくれる優れ物。今回の長期旅行の相棒になる予定だ。

店内は無人、店員すらいない。カード受取りの手続きができる個室に入ると、オートロックで勝手に扉の鍵が掛かりビビった。やけに静かで、恐ろしく空気が重い。また、シンプルな内装にヒリヒリとした冷たさを感じる。目の前のスピーカーから、「おかけになってください」と乾いた男性の肉声が響いた。どうやら通話対応の模様。プライバシー管理と業務効率のハイブリット運営に膝を叩いた。

無駄を許さない男性の完璧なマニュアル対応と、あまりにも胡散臭い話し方で、不安になってきた。利用者の機嫌を損ねないよう、徹底的に教育がなされているのだろう。にしても、無機質で怖い。声質だけで目が笑ってないのがわかる。警察の事情聴取ってこんな感じなのだろうか。早くここを出ないと一生帰られない気がした。

すると、隣の部屋に誰かが入った。「ゼェ…ゼェ…」と獣のような息使いが扉越しに聞こえてくる。おそらく階段で上がってきた中年男性だろう。ATMのボタンを乱暴に押して、大きな咳払いをしてそそくさと消えて行った。ピピーというATMの機械音だけが寂しく鳴り響いていた。

無事にACカードを受取ったものの、居心地の悪さですっかり疲弊してしまった。慰めのつもりで、タピオカミルクティーを買って帰ることにした。あー甘くて美味しい。

風俗通りを横切ると、いつもの石鹸の匂いがする。この数十センチの壁を隔てて、あちらでは性的サービスのオンパレードがなされている。風俗ビルから放たれる負のオーラを全身に浴び、ウシジマくんを読んだあとのような沈んだ気持ちに拍車がかかる。マズイぞこれは。

やさしい石鹸の香りと、美味しいタピオカミルクティー、沈んだ心と身体が絶妙に噛み合わない。徐々にバットに入ってしまった。自分の脆さに、また嫌気がさしてくる。ぐるぐると沼の底に沈んでいく。気持ちを紛らわすために酒でも飲もうかなと思ったが、廃人急行に乗るのはさすがに気が引けた。そして帰路のペダルはやけに重く感じた。

どんよりとした雲たちは全く動かず、そのまま一日が終わった。

(20190924)

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