楽しい観察調査 アンケートやインタビューにない学びについて -観察調査のコツ-
観察調査をお勧めする理由
前回、観察調査の難しさについてお話ししました。
おさらいしますと、対象者に質問できないので気づきを得にくく、また結果報告の際に分析者の主観と判断されるリスクがある、でしたね。
そのように扱いの難しい観察調査に拘るのはなぜか。
インサイトを見出すのに極めて効果的だからです。
耳にタコができるほど聞いたお話と思います。
ならばいっそ、質問を封じてみてはどうでしょうか。
質問という「答えを教えてもらう」ことを意識せざるを得ない手段を手放す。
ただただ、対象者のありのままを見て洞察する。
これは徹底的に洞察力、つまりインサイトを見出す力を鍛えます。
加えて、アンケートやインタビューは、どうしても対象者にとって思い出し易いものから回答されていきます。
もちろん、それは優先度が高く重要なものである可能性が高いです。
しかし、対象者が思い出し難いものの中にも、体験全体に影響を与えるような大切なことが隠れています。
それをも見つけていけるのが観察調査です。
そこからの洞察は、顧客理解をより立体的にします。
なお、洞察とはもちろん「笑顔だから喜んでるのだな」「水を飲んだということは喉が渇いているのだな」などの、見れば分かるものを指すのではありません。
「この笑顔のもととなっているのは○○だろう」
「きっとこの人は□□な人に違いない」
「この人に喜んでもらうためには、△△のようなプロダクトだろう」
そんな、対象者の心情や価値観を正確に把握することを指します。
観察調査を使いこなせるようになると、観察の最中にインサイトをどんどん見出せていく経験をすると思います。
そのときの高揚感と言ったら、ちょっと表現ができないほどです。
だから私は、難しいことを承知の上で観察調査をお勧めします。
では、それをどうやればいいのか?
以下の通りお伝えします。
観察のコツ
観察調査の難しさに、どうチャレンジしていくか。
矛盾するように聞こえるかもしれませんが、基本的にはアンケートやインタビューの分析と同じです。
クロス集計でも多変量解析でも、自由回答の分析でも、やっていることは以下の通りと思います。
観察調査で難しいのは、何を「差」として見出すか、ということです。
数値データなら数値の大きさで差が分かりますが、観察だと何が差なのか、よくわからなくなります。
前にも書きましたが、通行人をただ見ていても、みんな同じように歩いているようにしか見えないですよね。
あるいは、全員違う人間ですから「差」しかない、となるかもしれません。共通項は「全員ヒトである」「ヒトが歩いている」という、超抽象的なレベルになってしまう。
こんなときは、観るものの「単位」を変えてみましょう。
ひとりひとり、歩き方は異なりませんか?視線や表情は違っていませんか?
全員、性別や年代は同じですか?ひとりではなく集団で歩いている人はいませんか?
幹線道路と市街地の道では、異なる対応をしていませんか?
同じように見えても、けっこう違うことがわかってきます。
上記を少し抽象化します。
あくまでも例ではありますが、このような「分割」を意識すると、差が分かりやすく見えてきます。
また、こうすると共通項も見出しやすくなります。
動作、行動、シチュエーションなどの単位で「同じようなこと」や「同じようなことをしている人」を抜き出せば良いのです。
具体例:観察とその結果
イメージしやすいかと思いますので、ディズニーランドのポップコーンワゴンの観察についてお話しします。
(あの場で少し見れば、誰しもわかることだけ書いていきます)
ご存知の通り、ディズニーランドのポップコーンワゴンは、場所やフレーバーによっては長蛇の列をつくるところがあります。
キャラメル味のポップコーンを買うのに30分待った、などのご経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか。
場合によってはアトラクションの待ち時間に匹敵します。
しかし(あくまで私が見た限りですが)、アトラクションの列とは大きな「差」がありました。
アトラクションとポップコーンワゴンというシチュエーションの違いを意識しながら、動作や属性で「差」と「共通項」を見出したことがお分かりいただけたかと思います。
同じように「列に並んでいる人」でも、これぐらいの違いがあるのです。
具体例:洞察
調査結果から、どう洞察すれば良いでしょうか。
先ほどのポップコーンワゴンの例で考えてみましょう。
洞察するにあたり、私は以下の通り連想を働かせました。
ご覧の通り、私自身の過去経験をフル動員しました。
ゲストとしてのパーク体験も、リサーチャーとしての調査分析経験も、運営に直接携わったキャストとしての経験も活用しています。
それらと観察結果を紐付け、顧客の心情や行動を洞察し、事業に与える影響に関する仮説を立てました。
洞察のコツ
え、自分の過去経験を活用するなんて、客観性に欠けるのではないか?
恣意的な解釈になっていないか?
リサーチャーである私の主観が述べられているだけではないか?
そんな声が聞こえてきそうです。
その通りです。
でも「洞察」とはそういうものだと思います。
対象者のことをありのままに受け止めた上で、自分自身の経験を踏まえて対象者になり切ること。
そうしないと「洞察」は成立しないのではないでしょうか。
例えば、目の前にいる友人が失恋で悲しんでいたとします。
そのとき皆さんは、友人の人物像を踏まえつつも自分の失恋の経験を思い出して、どうすれば友人の心の痛みを和らげられるかを考えますよね。
もちろん、独りよがりになるリスクはあります。
しかし、似たような痛みの経験が相手を理解する助けになることも、また間違いありません。
自分の経験を参照することは、決してダメなことではないのです。
虚心坦懐な観察や傾聴抜きに、自分の経験だけで判断するのがダメなのです。
また、私の場合は過去のアンケートやインタビューで得た知見が、大いに助けになりました。
特に、満足度調査で多くの自由回答を読み込んでいたことが、観察結果を解釈する「引き出し」をたくさん作ってくれていました。
観察対象者本人からの情報ではないですが、同じ「顧客」という立場の方々から得られた情報ではあります。
広い意味では傾聴の一種と捉えて良いものと思います。
こうした経験がなければ、私も観察調査を活用できていたかどうか。
まったく自信はありません。
アンケートやインタビューを経験してから観察調査、という順番を辿れた私は幸運でした。
もしもその「引き出し」を持っていなかったとしたら、インタビューを組み合わせた観察を実施していたと思います。
今日のまとめと次回予告
観察調査といえど、コツは他の調査と同様です。
全体をいくつかに分けて差を見つける。そしていくつかの差の関係性を見出し、共通項を抜き出していくことが洞察に繋がります。
洞察には、過去の自分の経験を遠慮なく使いましょう。
ただし、それだけで判断するのは独りよがりな結論を導きます。
その意味では、対象者に対する過去のアンケートやインタビューなどの経験は大いに役に立ちます。
観察調査で得られるものまで書けるかと思っていましたが、長くなってしまいましたので、それは次回に回します。
楽しみにしていてくださいね。
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