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楽しい観察調査 アンケートやインタビューにない学びについて -観察調査で得られるもの-

これまで、観察調査をテーマに3回ほどお話ししました。

今回は、観察調査で得られるものについてお話しします。
「得られるもの」とはもちろんデータですが、同時に「リサーチャーとして身につくもの」という意味合いも込めています。

観察調査で入手できるデータには観察調査独特の性質がありますので、実践を繰り返すことでそれを取り扱えるようになっていきます。
簡単に言いますと「観察調査を実践することで、リサーチャーとしてこんなにパワーアップできますよ」ということですね。

ひとつひとつ説明していきます。

顧客理解力が身に付く側面

:顧客から得られる情報の豊かさ

第一に、対象者である顧客から得られる情報量が圧倒的に多く、また多様な質を伴っていることが挙げられます。

イメージしにくいと思いますので、アンケートやインタビューのオーソドックスな項目である「顧客満足度」を例にしてみます。

アンケートでの顧客満足度は、五段階や七段階などで取得する指標です。
五段階だと「非常に満足」「満足」「どちらでもない」「不満」「非常に不満」などが典型ですね。

そして、得られる情報はそれだけです。
この顧客は「非常に満足」と回答している、あの顧客は「不満」と回答している…など、五段階のうちのどれかひとつを選択した、ということだけ。

もちろん、満足度理由やその他の設問で、何がどう満足/不満足だったのか把握できますが、その多くは予め用意された項目から選択するに過ぎません。
自由回答データもありますが、これもせいぜい数行の文章です。

そもそも「満足」という言葉自体、顧客ごとに異なる意味合いを持ちます。
私の前職であるテーマパークであれば、ある人にとっては「楽しさ」、別の人にとっては「安心」だったりしていました。
それを無理やり「満足」という言葉にまとめているのです。

さらに、この五段階の尺度の解釈も人によって異なります。
「非常に満足」の選択肢は、100%満足しないと選ばない人もいれば、80%ぐらいで選ぶ人もいるでしょう。

設問数や回答人数の多さから勘違いしがちですが、アンケート調査で得られる情報というのは、曖昧で限定的なものなのです。

これがインタビュー調査になりますと、もう少し情報量は増えます(もちろん、特定個人のものになりますが)。

アンケート調査では「満足」という言葉にまとめられてしまう感情が、どういうものでどれぐらいの大きさだったのか。
そのシチュエーションや背景に何があったのか。
原体験のような、インタビューでしか絶対に聞けないような内容もあるでしょうね。
語っているときの表情なども有力な情報です。

とはいえ、やはりその人が語らなかったことは、情報として入ってきません。非言語情報が多少あるにせよ、基本的には尋ねたことの回答しか情報にならないのです。

これが観察調査だとどうなるか。

言葉では語れない情報まで全て目に入ってきます。
そちらの方が圧倒的に量が多いです。

再び、テーマパークを例にします。

その人が誰と一緒で何をしているのか。その時の行動、表情は。どんな会話を交わしているのか(あるいは、無言なのか)。

これを文字にすると「家族と一緒にショーを見ていて笑顔」などにまとまってしまいます。
しかし、ショーの場面ごとに表情も会話も変わるでしょうし、何かグッズを持っていてそれが影響しているかもしれません。暑い寒いなどの天候を気にする仕草なども見て取れますね。

見ようと思えば、果てしない量の情報があるのです。
目に入ったもの全てが「あ、この人にとっての『満足』とはこういうことか!」を判断するために活用できるものになります。

:顧客が意識できない部分の把握

第二に、顧客が意識できないところも把握できることが挙げられます。

先ほどの例では「満足」という感情がしっかり認識された状態でした。
それに対し、感情そのものが認識されていないケースがあり、観察調査はその把握ができる、ということです。

突然ですが、マーケティングやリサーチに携わっている方で、この絵を見たことがない人はいないのではないでしょうか。

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フリー素材サイト「illust AC」より

顕在意識と潜在意識を氷山で表すおなじみの絵ですね。

アンケートやインタビューで把握できるのは、基本的には水面から上の「見えている部分」です。
インタビューでは若干、水面下に立ち入ることが可能なものもありますが、少なくとも入口は水面から上、つまり意識として顕在化しており言語化可能な部分です。
それを手がかりに、水面下の部分を洞察しようとします。

一方で、観察調査は意識として顕在化しない部分を直接観察し、洞察しようとする手法でもあります。

例えば、アプリのユーザビリティ調査のことを考えてみましょう。

ユーザビリティの満足/不満点は、なかなか言語化できないものです。

確かに「サクサク動く/重くて動かない」ぐらい分かりやすいポイントでしたら言語化は容易(つまり、水面から上の部分)です。

しかし、アプリ上でのタスクを達成するまでの手順といった話になりますと、要改善ポイントを言語化するのは極めて難しくなります。

特に既存ユーザーを調査対象者とした場合は、もともと既存の手順に慣れて「こういうものだ」と思っている状態です。
従って、その既存の手順に問題があるという意識すらしないケースがあります。

もう少しネガをはっきり感じる点があったとしても、せいぜい意識できるのは「なんとなく、やりにくいかもしれない」といううっすらレベルです。

それを「具体的に○○が□□だからやりにくい」というレベルまで言語化することは、ほぼ間違いなくできません。
アンケートの自由回答で取ろうとしても「特になし」という回答になるでしょうし、インタビューでも実のある回答を得るのはかなり難しいと思います(インタビュー中に実際に操作してもらうのは有効ですね)。

観察することで、対象者自身がネガとは意識できないが、明らかに対象者にとって負担や不快となっているところを、観察者自身が自力で見つけるのです。
例えば、余計な操作を必要とする仕様などですね。

面白いもので、そこを改善してからもう一度調査対象者に使ってもらうと、改善後の操作に慣れた段階で「今まではネガだったのだな」と自覚します。

慣れるまでは、変えたことによる不慣れがストレスになるのでネガな反応をされますので、注意してください(これがあるので、ユーザビリティ調査をアンケートの満足度で取りたくないのですよね…)。

ちなみにまったく別の例ですが、行列のできている飲食施設の人気メニューに510円という値付けをすると、お釣りの受け渡しで時間がかかり、列が長くなります。
結果として売り逃しが発生します。

このケースでは、顧客のネガは行列に向けられてしまい、釣り銭のトランザクションには向けられません。
観察により、そこをネガであり、ボトルネックと見抜くことができるのです。

顧客にとって優先度が低い部分の把握

そして第三に、顧客にとって優先度が低い部分について把握できることが挙げられます。

これは前回のnoteで例に挙げた、テーマパークのポップコーンが典型です。
顧客にとって重要アイテムであることは間違いありません。しかし、優先度をつけるなら、どうしてもアトラクションやショーの方が高くなりがちです。

これはアンケートやインタビューで得られるデータでも、同様の傾向となります。

アトラクションに乗れて楽しかった/ショーが見られてよかった、あるいはアトラクションの待ち時間が長い/ショーの抽選に外れた。
こういった意見に比較すると、ポップコーンのポジやネガは言及されにくいのです。

とはいえ前回記載した通り、ポップコーンに並ぶ時間は人気アトラクションに匹敵するときもあります。
仮に30〜40分並ぶとしますと、園内で過ごす時間のうち実に5〜10%近くを使ってしまうことにもなります(滞在時間を8時間程度として)。

いくら満足度調査で言及されにくいものだったとしても、滞在時間の10%
近くを占めることが重要でないわけはありません。

しかし、満足度調査で言及されていないから、総合満足度との相関性が高くないからという理由だけで「重要ではない」と判断されてしまうことは、実はありがちだったりします。

「それは重要だがもっと優先度の高いものがある」であれば良いでしょう。一方で、それを「重要ではない」と判断するのは、私個人としては誤りだと思います。

アンケート調査、満足度調査は、あくまでも満足点・不満足点を顕在化させるひとつの手段に過ぎません。
また、そこで回答者が言語化できる範囲には限りがあることは前述の通りです。

顧客にとっての重要度の判断は、アンケートだけに限らず、観察なども含めた様々な手法によって集められたデータからなされるべきと思います。

余談ですが、この話で思い出すのが「アトラクション vs トイレ」、どちらを優先度高く開発するかというテーマです。

お客様にアトラクションで楽しんでいただくことを優先すべきか、それともトイレの待ち時間を減らして安心いただくことを優先すべきか。
開発用地に両方つくることはできない。さあ、どうする?

これは当然、スパッと答えの出るテーマではありません。
いろいろな基準、いろいろなデータを使って議論していたことが思い出されます。その中には、もちろん観察調査のデータもありました。

観察調査は、こういう答えの見出しにくいテーマを捌くのにも有効でした。

まとめ

観察調査で得られるものは、大きく三点です。

・顧客から得られる情報の豊かさ
・顧客が意識できない部分の把握
・顧客にとって優先度が低い部分の把握

普通にアンケートやインタビューを重ねるよりも、観察調査を実践することで顧客を立体的に捉えることができるようになり、顧客解像度が爆上がりします。

顧客の行動や感情の背景情報を読み取る能力が磨かれますので、インサイトを見出していくのに大きなアドバンテージとなることは言うまでもありません。

なお、今回の「顧客理解力が身に付く側面」とは少し異なるメリットもあります。
長くなりましたのでまた次回お伝えしますが、それもまたリサーチャーとして見過ごせないものです。

次回を楽しみにしていてくださいね。

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