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LOCAL TRIBE vol.6 「岡山で半世紀に及ぶスペクタクル」(繊研新聞2024年5月)

50周年を迎えたライブハウス

 74年に立ち上げられたライブハウス「ペパーランド(岡山市)」が今年で50周年を迎えました。立ち上げたのは、写真家、前衛映像作家、音楽・美術展企画など、長年にわたって脱領域的かつ学際的な活動を続けてきた地元カルチャーシーンの重鎮でもある能勢伊勢雄氏。オープン当時、まだ日本にライブハウスという概念もなかった時代に、都会に先駆け地方・岡山で生まれた先鋭的な場所でした。日本で最も歴史あるライブハウスの一つとして、今なお全国にその存在感を示しています。 今回は、50周年企画の一環で5月5日に開催されたイベント「PSYCHIC LEFT」へ参加した感想と共にペパーランドを紹介します。

バンドやイベントのポスターで埋め尽くされたペパーランドの外壁。
誰でも表現できる参加型イベントの告知ポスターには「表現自由」の文字が。

 「ヤバい」ものを目撃

 同イベントは、現代美術家の石川雷太氏と真言宗僧侶の羅入さんが主宰する「儀式」を岡山で初開催するもの。鉄板や工業用スプリングなどの打撃音・摩擦音をライブ・ミックスするインダストリアル・ノイズ・ユニット「Erehwon」のライブ、密教系芸術集団「混沌の首」による供養舞い、動く瞑想、鐘や太鼓を打ち鳴らしながら激しく踊る現代の踊り念仏かのようなパフォーマンスを鑑賞しました。社会や政治、生と死、我々の精神性にまで強いメッセージを訴えかける圧巻の表現は、観る者によってはカルト的な要素も孕んだ危険なものを観せられている感覚に陥るかもしれません。過度にホワイト化されつつある現代において、良い意味で「ヤバい」ものを突きつけられたような体験でした。
 ペパーランドは、音楽イベントだけで年間200組以上が出演するライブハウスであることに間違いはありません。ただし、音楽だけに限らず、詩の朗読や映画の上映、芝居の上演など、幅広くいろんな表現を受け止め、支え、紹介してきたメディアのような場所でもあります。表現によって「ライブ(生きている)」していることを実感できる、岡山のカルチャー最重要拠点である。50周年の節目に企画された「PSYCHIC LEFT」はその証左であるように感じました。バンドやイベントのポスターで埋め尽くされたペパーランドの扉や壁面の中でも、この日は「表現自由」の文字がひときわ印象的に映った気がします。

現代の踊り念仏とも称される「混沌の首」によるパフォーマンス
終演後に行われた能勢氏と出演者による鼎談の様子

アンダーグラウンドの存在意義

 イベント終盤に行われた鼎談の最後に、能勢氏は以下のような要旨の話をされました。
 「ペパーランドは家族経営です。家を、家族を失った人間は、「資本」によってそのままスムーズに「純粋な労働力」へと解体されてしまい、一人の交換可能な「労働者」を生み出す。そうはさせたくない。そのような思いから、今日お越しいただいている皆さんとも、そうした家族的な繋がりを持っていくことが、これからの時代に必要だと思っています。」
 哲学者のユルゲン・ハーバーマスは、かつてホームベース(生活世界)とバトルフィールド(システム世界)という概念を提唱しました。能勢氏が家族と共に築き、守ってきた岡山のアンダーグラウンドとは、双方をデコンストラクションした第三の世界と言えるかもしれません。それは、殺伐とした現代社会において、これまで以上に存在意義を持つ場所になるはずです。

能勢伊勢雄
1947年生まれ。山﨑治雄氏に師事した写真家。活動の核となるLive House PEPPERLANDを1974年にオープンした。松岡正剛氏が編集したオブジェクト・マガジン『遊』に70年代から参画し執筆などを行う。また、阿木譲編集の『ロック・マガジン』の編集やライターを務めた。そのほか、美術展企画としては『龍の國・尾道-その象徴と造形』(尾道市立美術館開館20周年記念展)の監修や水戸芸術館で開催された『X-COLOR グラフィティ in Japan』展等の美術展企画を行うと共に、写真家、コンセプチュアル・アーティストとして作家活動でも注目されている。講座では、アートフェスタ那須『山のシューレ』の講師を2009年から現在まで続け、九州大学大学院『リベラルアーツ講座』などの活動を精力的に行う。 また写真関係ではPhotographers’Gallery企画として『能勢伊勢雄写真展「PORTOGRAPH」』展、奈義町現代美術館にて『能勢伊勢雄写真展』が開催された。 映画の分野では1994年、水戸芸術館で開催された「ジョン・ケージ展」にて、8作品が上映され、1995年、山形国際ドキュメンタリー映画祭の“日本ドキュメンタリー映画の格闘-70年代”部門に『共同性の地平を求めて』が撰出上映された。このような多岐に渡る活動の全貌を紹介する展覧会『スペクタル能勢伊勢雄 1968-2004』が岡山・倉敷市連携文化事業として開催された。音楽、文学、哲学、あらゆる分野の融合のなかから『山のシューレ』にて2010年から3年間『ゲーテ色彩論・形態学』を講義する。

「繊研新聞 2024年5月17日付」
https://senken.co.jp/posts/local-tribe-240517


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