学習指導における「見取り・形成的評価・総括的評価」のバランスとその重要性

学習指導における「見取り・形成的評価・総括的評価」のバランスとその重要性

学習指導において「見取り」「形成的評価」「総括的評価」が重要な役割を果たします。しかし、現在の教育現場では「総括的評価」に偏っているという指摘が多く、それが子供たちの学びに悪影響を与える可能性があります。ここでは、それぞれの評価の意義を説明し、バランスがいかに重要であるかを解説します。

1. 各評価の意義と相互関係

① 見取り

「見取り」とは、授業中の子供たちの学びのプロセスを継続的に観察し、彼らがどのような課題を持ち、どのように考え、行動しているのかを把握することです。これによって、教師は子供たちの個々の理解度や思考の進め方を見極め、その場で適切な支援や指導を行うことができます。

(例)
1時間の算数の授業中、子供たちがグループで問題を解いている際に、ある児童が問題の途中で立ち止まり、他のメンバーに質問している姿を見たとします。このような場面では、教師が近づき、「今どの部分で悩んでいるの?」と声をかけることで、子供が何に詰まっているのか具体的に把握できます。もし、計算の仕方が分からない場合には、「一緒に最初から順番に見直してみようか」と、まずは子供のペースで考え直させ、その後でアプローチを修正するような支援を行います。このように、子供の思考過程を把握し、適切なフィードバックをその場で提供するのが「見取り」です。

② 形成的評価

「見取り」で得られた情報をもとに、子供たちの学習状況を分析し、必要な支援や指導法を調整することが「形成的評価」です。授業の終わりや学習単元の進捗に応じて、子供たちがどの部分で理解が浅いのか、どの部分をさらに補う必要があるのかを把握し、それを次の授業や課題に反映させます。

(例)
算数の授業で、割り算の学習が終わった後、クラス全体の学習理解を確認したところ、数人の児童が「割り算の余りの処理」に苦戦していることが分かりました。この場合、次の授業の初めに、少し時間を割いてこの部分を重点的に復習します。具体的には、「昨日の問題で出てきた余りの処理、少し難しかったよね。今日は、もう一度違う方法で考えてみよう」と、同じ問題を違う切り口から説明するか、他の方法で解く時間を与えます。こうすることで、理解が不十分だった児童が自信を持って進めるようになるのが「形成的評価」の実践です。

③ 総括的評価

「総括的評価」は、ある学習期間の最後に、設定された目標に対して子供たちがどれだけ成長したかを評価するものです。テストや成績が代表的な例ですが、単なるペーパーテストに頼るだけでなく、発表や作品、グループプロジェクトなど、多様な形で評価することが望まれます。

④ 相互関係とバランスの重要性

「見取り」は「形成的評価」の基礎であり、「形成的評価」は「総括的評価」に繋がるといった具合に、これら3つの評価は密接に関連しています。総括的評価に偏ると、子供たちがテストの点数や結果ばかりに注意を向けるようになり、学びの過程や深い理解が軽視される危険があります。これを防ぐためにも、バランスの取れた評価が不可欠です。

2. 総括的評価に偏ることの問題点

総括的評価に偏った場合、以下のような問題が生じる可能性があります。

● 子供たちの学習意欲の低下

結果だけが重視されると、子供たちは学びそのものへの興味や探究心を失い、学習がただの義務感に基づいたものになってしまいます。

● 表面的・受動的な学習の蔓延

総括的評価に基づくテスト重視の学習では、思考力や表現力が育ちにくくなり、子供たちはテストに合格するための暗記学習に陥りやすくなります。

● 多様な才能・個性の軽視

一律の評価基準は、子供たちの個性や強みを見逃してしまうことがあり、結果として多様な才能を十分に引き出せない可能性があります。

● 教師の指導力低下

評価がテストに偏ると、教師も子供たちの学びの過程を十分に見取れなくなり、指導が画一的になりやすくなります。

3. バランスの取れた評価を実現するために

バランスの取れた評価を実現するために、以下のような対策が有効です。

● 「見取り」の充実

一斉授業だけでなく、グループワークや個別学習など、子供たち一人ひとりの学習プロセスを観察できる学習形態を積極的に取り入れることが重要です。これにより、子供たちの個々の強みや課題を見つけやすくなります。

● 「形成的評価」の重視

「見取り」で得た情報を活用し、個別に最適なフィードバックや指導を提供することで、子供たちの学習を深めることができます。形成的評価を通じて、子供たちは自ら学びを改善しようとする姿勢を身につけられます。

● 多様な評価方法の導入

ペーパーテストに頼るだけでなく、ポートフォリオ評価やパフォーマンス評価など、子供たちの多様な能力を評価できる方法を取り入れましょう。これにより、子供たちの才能や個性を最大限に引き出すことができます。

● 評価基準の明確化

評価基準は子供たちにとって分かりやすく、納得できるものであることが大切です。基準を明確にし、フィードバックを通して子供たちが自分の成長を実感できるようにしましょう。

● 教師の意識改革と研修

教師自身が「見取り」と「形成的評価」の重要性を再認識し、日常の授業にどう取り入れていくかを考える必要があります。また、それを支えるための研修の充実も求められます。

4. これからの教育における評価の役割

これからの社会はAIの発展などにより急速に変化しています。子供たちが未来の社会で求められる能力としては、柔軟な対応力、問題解決能力、そして創造性が挙げられます。これらを育むためには、知識だけに偏らず、子供たちが自ら考え、行動する力を養うことが必要です。

そのために、バランスの取れた「見取り」「形成的評価」「総括的評価」の活用が、教育現場でますます重要になります。これからの時代を生き抜く「生きる力」を育むためにも、評価のあり方を見直し、子供たちの成長を最大限にサポートする学習指導を目指していきましょう。

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